「安定的な皇位継承策を検討する政府の有識者会議」が12月22日、報告書を岸田文雄首相に提出しました。早くも「肝心の『安定的な皇位継承策』が具体的に示されていない」と批判されています。ごもっとも。本稿ではそうした批判は他に任せて、それ以外の問題点を探ってみます。

楽観シナリオは残したまま

 とはいえ「具体性に乏しい」理由ぐらいは略記する必要はありそうです。報告書は「次世代の皇位継承資格者として」悠仁さまがいらっしゃるのを前提に「流れをゆるがせにしてはならない」で一致しました。悠仁さまより若い皇族がなく、かつ男系男子もいないなか「悠仁天皇」を「前提」とする以上、具体的な皇位継承策など示しようがないのです。

 すなわち悠仁さまが年を重ねられ、伴侶をみつけられ、かつ男子が生まれ、その方も順調に成長するという超楽観的でも可能性がないとはいえないシナリオを残す限り、代案は出るはずがありません。結局「将来において悠仁親王殿下のご年齢やご結婚等を巡る状況を踏まえた上で議論を深めていくべき」と先送りしてしまいました。

「臨時代行」「摂政」を論じる価値があるのか

 代わりに有識者会議が重んじたのが「皇族数の確保」です。悠仁さまが最年少だから、このままでは「皇族が悠仁さまだけになってしまう」を不安視しました。その理由として「国事行為の臨時代行」と「摂政」を果たす者が「悠仁さまだけ」の状態ではみつからないという点を挙げています。

 ただどちらも奇妙な話。臨時代行について報告書は「外国訪問」など「天皇の不在時」を心配していますが、それは国事行為(憲法に規定)ではなく公的行為(憲法にも法律にも規定なし)です。さほどに不安ならば「外国訪問」しなければいい。確かに「天皇の活動に制約が生じる恐れ」(報告書)はあるにせよ、今や王族などが主催する晩餐会のような式典が外交上重要な時代ではなく、ハイレベルな国際会議ですら首脳が専用機で日帰りというのも珍しくありません。

 「摂政」に関しても「悠仁天皇」を念頭に論じるとおかしい。「未成年」のケースは2024年9月6日に成年(18歳。皇室典範でなく民法改正に基づく)なさるのでもうすぐだし、その時点で今上天皇と秋篠宮さまが欠けるとも思えません。万一そうなっても摂政は女性皇族でも務まります。

 としたら「精神若しくは身体の重患又は重大な事故」(典範)の場合ですが、報告書が悠仁さまの「いらっしゃることを前提」としている以上、理論的に齟齬を来しています。

今さら「和宮降嫁」を持ち出されても

 「確保策」は「内親王・女王(=女性皇族)が婚姻後も皇族の身分を保持する」と「養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とする」の二本立てで、それでも難しければ養子縁組でなく「直接皇族とする」を提案しました。

 まず女性皇族が成婚後も皇室に残る案について。歴史上例のない「女系天皇」誕生を防ぐために「子は皇位継承資格を持た」ず「配偶者と子は皇族」でなく「一般国民」とするとしているのです。

 報告書は「明治時代に旧皇室典範が定められるまでは、女性皇族は皇族でない者と婚姻しても身分は皇族のままであったという皇室の歴史とも整合的」で14代将軍徳川家茂に嫁した和宮さまが後も「皇族のままで」家茂も「皇族とな」らなかったのをエビデンスとしているのだけど無理があります。

 家茂は「一般国民」でないし「旧皇室典範」と明治憲法制定(典憲)以前を持ち出すならば、退位して太上天皇になった後になした子が皇統を継いだケース(108代後水尾天皇と110代後光明天皇など)や側室制度も顧みて構わないとなるから。

 結婚後の女性皇族と配偶者および子はどこに住むのでしょうか。家茂を持ち出すならば「夫の家」。最低でも皇居や御用地以外となります。まあそれはいいとして配偶者と子の職業は?小室眞子さんの時は内親王が皇籍を離脱するにもかかわらず配偶者の仕事に対する姿勢が取り沙汰されました。まして本案は眞子さんの位置にある者が皇族のままなのでハードルは小室圭さんの比ではなくなるはずです。いくぶん皮肉交じりにいえば和宮さまは配偶者が内大臣・征夷大将軍だから釣り合ったわけで。

誰が何をどう「留意」するのか

 そもそも戸籍はどうなるのか。皇族は「一般国民」の戸籍とは別の皇統譜に記されています。「婚姻後も皇族の身分を保持する」からそのままのはず。として配偶者側の戸籍に皇女をどう扱うのでしょうか。まさか内縁というわけにはいくまいし。

 報告書は現在5人いらっしゃる未婚の女性皇族について結婚で皇籍離脱とする現典範の規定を「十分留意する」とも。人権に配慮した妥当な判断とはいえ、誰が何をどう「留意」するのか。ご本人の意思で残るか否かかを決められるとしたら(それしかあるまい)天皇制の根幹に関わる事態ともなりかねません。

 何よりこの提案だと女性皇族の数を「減らさない」(最大5人をキープする)まで。「皇族数確保の具体的方策」とは言い難いです。

養子で民法の規定を援用する無理加減

 次に養子縁組について。可能とする「皇統に属する男系の男子」とは戦後に離脱した「旧11宮家」の子孫をイメージしているようです。以前から存在する考え方で、肯定論は「男系男子である」、否定論の主たるものは「皇籍を離れて70年以上も経つ方々を『殿下』と呼ぶのは国民の理解を得られない」あたり。数人いる該当者に皇室入りの意思があるかも。ただこの辺も他の識者に任せて別の疑問を紹介します。

 まず典範(法律)の改正。旧典範以来の養子禁止規定は皇族がむやみに増えるのを避けるのが主目的(異説はある)でしたから、ここはいいとします。次に気になるのはやはり戸籍の問題。報告書は「一般の国民には、民法(1896年法律第89号)に基づき広く活用されている制度で」「家名・家業を継がせるという目的で、養子となるのにふさわしい人を、当事者間の合意により養子とすることも行われています」と正当化するも、民法の規定をそのまま援用するのはかなり無理があるのです。

 例えば「当事者間の合意」。確かに民法は「養親と養子の同意」で養子縁組は成立します。では皇族の誰でも可とするのか。なお民法では成人ならば独身女性でもできるが、そこまで認めるのか。そもそも皇族の身分を「養親」(独身ならば1人。結婚していたら配偶者とともに同意)の意思だけで決定し得るのか。未成年を縁組する際の家庭裁判所の関与は? と謎だらけ。皇室会議の位置づけも明記されていません。

「家名」たる宮号は誰が継げるのか

 報告書は「養子となって皇族となられた方は皇位継承資格を持たない」としました。ただ「養子皇族」となって以後の結婚・出産で誕生した男子は当然皇位継承順に列せられるはず。でないと皇室に迎える意味がないので。下品を承知で申せば「種馬になってくれ」という話なのか。

 宮号との関係もわかりません。報告書に「家名・家業を継がせるという目的」とあるから気になるのです。宮号は男性皇族のみ個人に与えられ宮家として一家をなします。例えば秋篠宮(継承順1位)ご夫妻が養子をとったとして、宮様が次代の天皇に即位されたと同時に悠仁さまは皇太子。その際に仮に佳子さまが「婚姻後も皇族の身分を保持」していたら「秋篠宮」号はどちらが継ぐのでしょう。同じような現象が三笠宮家と高円宮家にもいえます。というか両宮家は男性の跡継ぎがいないので「婚姻後も皇族の身分を保持」が決まったら現女王殿下も継げるのか。

 天皇家(天皇皇后両陛下)が養子をとったら宮家のそれとの格式が問題にもなりそう。

 さらに不可解なのは報告書が「婚姻していて既に子がいらっしゃる場合」も養子の対象としている点。「民法同様、子については養親との親族関係が生じ」ず「皇族とならない」まではわかります。では養子となって以後、同一の配偶者間で誕生した男子の扱いはどうなるのでしょうか。