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フジHDが外資規制違反を認め、総務省も知っていた そもそも放送法に規制が存在する理由とは?

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
放送停止という話ではないけど(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 フジテレビジョンやニッポン放送などを傘下に持つ「フジ・メディア・ホールディングス」(認定放送持株会社。東証一部上場)は5日、2012年から14年にかけて放送法などの外資規制に違反していた可能性があったと発表しました。内容はなかなかに複雑。多くの専門用語の群れを分け入ってみましょう。

議決権・単元株・控除

 まずは問題視されている集計作業のミスについて。放送法は電波法の規定で周波数の電波を専らまたは優先的に割り当て使用する(=地上波のすべて)放送局を「地上基幹放送」と定義し、電波法が議決権の外資比率が五分の一以上(=20%)を占めたら「無線局の免許を与えない」と定めます。衛星基幹放送も、フジHDのような「認定放送持株会社」も同様と放送法に規定されているのです。

 「議決権」とは「経営へ参加する権利」で「議決権付株式」を指します。要するに「ふつうの株」。議決権制限種類株式のような種類株ではないという程度の意味です。上場企業が取引所で売買されている「ふつうの株」で1株1個が原則。ただ定款(会社運営の規則)で「単元株式数」を決めていると違ってきます。フジHDは「単元株数100株」なので未満の所有者に議決権はありません。結果として発行されたすべての株式数と議決権数は一致しないのです。

 一方、金融商品取引法(金商法)が上場企業に課している有価証券報告書(有報)には「単元未満株式の状況」として記さなければなりません。

 フジHDは12年、ある番組制作会社を100%子会社化しました。その会社が出資する別の番組制作会社が持つフジHD5000株(14年3月末は10000株)を議決権から除外せず算入していました。100%子会社は支配しているフジHDへ議決権を行使できないため控除すべきであったのです。

 結果、本来の議決権に除外すべき5000~10000株を加えた数が分母となって外資(分子)を割ったため20%未満を達成した形となりました。言い換えると分母に算入した5000~10000株を除いたら20%を超えていたのです。

認定放送持株会社と放送免許・総務省の権限、開示書類

 これだけであれば単純ミスとみなせるかもしれません。20%オーバーしたのは0.0004%から0.0008%程度ですから。問題はフジHD側が気づいて20%未満に修正した14年9月以降の動きです。主な点は以下の通り。

1)有報などの開示書類も誤っていたわけだが、さかのぼっての訂正をしなかった

2)放送法で許認可権を持つ総務省に相談したら厳重注意にとどめられた

3)21年4月に表沙汰になるまで公表していなかった

 1)は金商法が何が何でも訂正せよと定めているわけではないものの外資規制違反は総務省が「法律は法律だ!」と杓子定規にあてはめたら認定放送持株会社たり得ないと判断される恐れがありました。

 放送免許自体はぶら下がっているフジテレビジョンやニッポン放送などが個別に得ているため直ちに停波とはならないとはいえ持ち株会社とはグループの株を所有している自体が存在理由で、そこがアウトとなれば資本関係の解消など大がかりかつ後ろ向きの対策を採るしかありません。当然「ホールディングス」でいられない危機に陥ります。

 最悪「紙くず」になるかもしれない会社の株を売買していた市場参加者が知らなくていい軽微な情報であったといえるでしょうか。

 2)は1)と密接に関係しています。記者会見によるとフジHDが監督官庁である総務省の放送政策課長に2度に渡って「実は……」と打ち明けていたようです。それが誰によるいかなる判断で「法律は法律だ!」ではなく厳重注意という「お上の情け」が下ったのか今日に至っても謎のままです。

 3)は発覚しなければフジHDも総務省も外資規制違反があったという事実を未来永劫葬り去るつもりであったのかと疑われましょう。

国民の財産たる電波と放送法116条および保有ベースの高さ

 放送局が割り当てられている電波(の周波数帯)は電波法および放送法で「公共の福祉」の増進、適合、発展を目的としています。電波は全国民の財産ですから外国人が多くの株主=会社の所有者となったり経営権を握ったりするのを避けて国民のために活用しようという目的で外資規制が設けられているのです。

 電波法はまず外国人が原則「議決権の三分の一以上を占め」たら「無線局の免許を与えない」とします。「三分の一以上」あれば株主総会で重要事項決定を単独で否決できるからです。放送はその重要性からさらに「五分の一」までしか認めません。

 持ち株比率で外国勢が多くなると国民の財産権の侵害や他国のプロパガンダに堕する蓋然性を帯びます。それらを防ごうという規制なのです。

 ただし上記のように上場企業の株は自由に売買できるので売り手さえいれば外国勢が買うのを誰も妨げられません。そこで放送法は116条で議決権の割合が20%以上になりそうな場合、「氏名及び住所を株主名簿に記載し、又は記録することを拒むことができる」とし「株式についての議決権を有しない」と防御策を放送局に認めています。

 実は、この規定によって発行されたすべての株式では優に20%を超えていながら議決権ベースで抑え込んでいるのがフジHD(32%超)と日本テレビホールディングス(23%超)です。

 こうした保有ベースの高さを好ましくないという指摘はかねがねあって総務省はその都度放送法116条が作動しているので「議決権ベースだと20%未満」と「問題なし」としてきました。今回それがわずかとはいえ破られたとわかったのです。

 こうなると総務省がフジHDから今回の件を聞かされても穏便かつ内々に済ませたのは「問題なし」としてきた過去の見解と整合性を取るためではないかと勘ぐりたくもなります。

 だいたい近年、減収減益気配の民放キー局を抱える持ち株各会社のなかでフジHDの外国人直接保有比率がTBSホールディングスやテレビ朝日ホールディングスなどと比べて突出して高いのはなぜなのか。議決権も得られないのに。

 良くとらえれば配当がいいとか値上がりが期待できるという純投資が多いというあたりです。しかし悪く推測するのも可能でしょう。05年のライブドアによる敵対的買収騒動の際にも外国人保有株の行方が注目されました。経営を揺るがす要素にもなり得えます。

マスメディア集中排除原則の例外と地デジ化

 最後に今後どうなるのかを展望してみます。

 舞台が今国会を中心に総務省へ移る可能性が大です。注意にとどめた理由は何かと。

 次に「認定放送持株会社」の認定取り消しがあり得るか。一部に「フジテレビジョンの放送免許剥奪か」という憶測が流れていますが免許を持つのはHDの子会社である株式会社フジテレビ。今回問題視されているのは「HDとしての認定」です。前記のように取り消されれば資本関係を解消するなどの措置が必要で、それはそれで大事ですけど停波には至りません。

 「親会社がしでかしたのだから100%子会社も同罪だ」という理屈が絶対に成り立たないとまではいいません。でも、それがまかり通るとフジTVのみならずBSフジやニッポン放送の免許まで召し上げです。まずあり得ないでしょう。

 そもそも子会社各社の放送免許(有効期間5年)は18年11月1日付で更新されています。HDの違法状態は12年~14年ですから、現在の再免許期間とは関係ないのです。

 仮にHDの認定を取り消すと困るのは国の方ともみなせます。通常の企業グループだと最大の事業会社が他の各社を子会社化するなり合併するなりできるのですけど放送局は総務省が設けたマスメディア集中排除原則によって大幅に制限されているからです。

 認定放送持株会社の新設は11年7月にほぼ完了した地デジ化にともなう費用負担などを円滑に行うため放送法を改正して08年から認められました。いわば集中排除原則の例外で放送局側がせっついた制度ではありません。もし「フジHDお取り潰し」となったらFNN系列で持分法適用会社となっている地方局がえらいことになってしまいそうです。

東北新社との違い

 東北新社の認定取り消しとの比較も誤解されやすい要素をはらんでいます。東北新社のケースは衛星基幹放送(外資規制20%未満)の認定を17年に総務省から受けた時点で20%を超えていました。放送法116条の防御策を講じていなかったのが主たる原因でした。事業は9月に設立した子会社に継承されるも後に違反がわかったので認定取り消しとなりました。認定時点(つまり申請時期も含めて)で欠格事由に相当していたのですから発覚したら取り消しはやむなし。

 対してフジHDは先述のように放送免許を持つ対象でないのが東北新社の例と異なるし外資規制超えが認定時の出来事でもありません。些細なようで大きな違いです。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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