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補欠選挙とは何だ。河井案里議員辞職は菅政権を助ける煙幕か

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
初の国政選挙での審判はいずれか(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 公職選挙法違反(買収)で起訴されていた河井案里被告が東京地裁で有罪判決が言い渡され、今月4日まで期限の控訴を見送り、議員を辞職しました。

 これにともない案里被告が持つ参議院広島選挙区の議席を充当する補欠選挙が4月25日に投開票されます。実はこの裏で自民党が支持率下落中の菅義偉政権を少しでも擁護したいという思惑が動いたとのうわさがもっぱら。いったい何ごとでしょうか。

北海道と長野で追い詰められている与党

 補欠選挙は衆参両院の選挙区選出議員が欠けた時に原則として行われます。2000年に公職選挙法が改正されて、春と秋の2回に分けて該当する選挙区をまとめて投開票日を設定する方式となって現在に至ります。

 議席数は衆議院議員総選挙(465人全員)や参議院議員通常選挙(改選124人)と比べれば微々たるものですが、後述するように時の政治・社会情勢をビビッドに反映して後の政局へ大きな影響を与えるケースもしばしば。まして今度の4月補選は菅内閣になって初の国政選挙で敗北が重なれば今年10月の任期満了までに絶対に行う総選挙で与党内から「菅さんでは戦えない」との声が噴出するかもしれません。

 広島選挙区が加わったため現在のところ4月補選は3選挙区。他に衆議院北海道2区と参議院長野県選挙区です。

 うち衆院北海道2区は自民党の吉川貴盛元農林水産大臣(離党)が大手鶏卵生産会社からわいろを受け取ったとして辞職したのにともないます。吉川氏は東京地検特捜部に在宅起訴されました。

 参院長野選挙区は立憲民主党の羽田雄一郎議員が新型コロナウイルス感染症で急逝したのにともなうのです。

 菅政権としては「2連敗」も十分にあり得る厳しい局面でした。北海道2区は吉川氏辞任の理由が「汚職」ですから雰囲気最悪。長野選挙区は現職が気の毒な病死で後継が弟の羽田次郎氏。「弔い合戦」と「羽田ブランド」の前に自民の敗色濃厚です。何しろ故雄一郎氏と次郎候補は3代続く政治家一族で特に父の孜元首相は選挙に「強すぎる」とまで評されたほどです。

 そこで自民党は北海道2区を異例の不戦敗と決めました。理由は何であれ与党議席を戦わずして捨てるのは異例。「2敗」より「1敗1不戦敗」の方が少しは格好がつくと避けたと勘ぐられても仕方ありません。

広島選挙区に自民がやる気まんまんの訳

 そこに広島選挙区が重なるとどうなるか。当局から犯罪容疑を受けている現職の辞職にともなうという点では衆院北海道2区と同じなのに自民党は案里氏を引きずり下ろしてでも補選に打って出たい動機があるようなのです。

 肝は広島選挙区の改選が2議席という点。この場合、通常選挙では与野党が1議席ずつ分け合うのが普通です。

 19年の通常選挙はこの「普通」を自民側が破りました。野党統一候補(当選)に対して当選5回の現職・溝手顕正氏と新人の案里氏2人を擁立したのです。表向きは「与党で2議席独占を狙う」でしたが溝手氏と当時の安倍晋三前首相の確執がうわさされていて案里氏が「刺客」として送り込まれたのが実情だとの観測しきりであったのです。結果は案里氏当選で溝手氏落選。

 補選となれば野党は候補者を出しにくい。勝利すると同選挙区は2議席独占となります。「いいじゃないか」とはいきません。次の通常選挙で2人当選がおぼつかないのが明らかで野党連携の火種となりかねないから。現に19年の参院静岡選挙区は旧国民民主の現職に旧立憲が対立候補を擁して未だ怨念が残っているほどです。

 対して自民は「与党枠」を取りにいくだけ。19年選挙で案里氏と溝手氏を合わせた得票は当選した野党統一候補の得票を圧倒する約1.7倍。不祥事で多少離れても十分勝てる目算が立ちます。

野党は後難を恐れず勝負できるか

 となれば、しがみつくほど印象が悪くなる案里氏に居座られるよりは選挙で別人が奪還した方がスッキリするし、もし溝手氏が立候補すれば固定票と同情票も見込めます。

 結果として補選は自民の「1勝1敗1不戦敗」。「1敗1不戦敗」よりずっと見栄えはいいし、不戦敗の北海道2区も「どうせ今年中に総選挙があるから勝負はそこだ」と言い張れば格好もつくわけです。

 こうなると野党が結束して候補者を立て後難を恐れずに本気で勝ちにいこうとするかが問われます。幸いに参議院議員は解散がなく19年からの残余期間も25年までと長いので調整期間は十分あると腹がくくれるか。「政権を取りにいく」本気度が試されます。

過去の補選のキーワードは政策批判と「政治とカネ」

 最後に過去にあった政局の節目ともなった補欠選挙の例を挙げてみます。

 1987年3月の参院岩手補選では当時の中曽根康弘首相が言い出した「売上税(今の消費税に相当)導入」にほぼ「反対」を唱えただけで日本社会党(当時の野党第1党)候補が圧勝して「(当選は)中曽根さんのお陰です」と皮肉られ(いわゆる「岩手ショック」)それもあって売上税撤回に追い込まれました。

 89年2月、自民現職の死亡にともなう参院福岡補選では社会党公認候補が当時の竹下登政権が導入を進めていた「消費税導入」と前年に発覚した「リクルート事件」に嫌気して自民候補に完勝しました。

 92年3月の参院宮城補選は労働組合の中央組織「連合」を基盤とした候補が大接戦の末に自民候補らを退けて初当選。東京佐川急便事件などの相次ぐ政治家のスキャンダルに県民の怒りが爆発したのです。連合の山岸章会長が「スリルとサスペンス」と振り返るほどの激戦でした。

 自民前職が市長選立候補のため辞職して行われた2008年4月の衆院山口2区補選は民主党公認候補が自民新顔を破って議席を奪取しました。民主党候補はガソリン税などの道路政策、いわゆる「消えた年金」問題、告示日から保険料天引きが始まった「後期高齢者医療制度」を攻撃材料にして自民王国の山口で金星を挙げたのです。翌年に実現する民主党政権を予感させる結果でもありました。

 いずれも与党の政策批判や「政治とカネ」が争点という点で今回と似通います。与党が自ら張った煙幕で難局を「まあまあでした」と言い募れるか。野党が結束して風を起こせるか。目が離せません。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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