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今年は「謎の連休」と化した7月の4連休 来年は「4連休なし」の可能性も

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
海の日山の日まとめてドーン(提供:アフロ)

 7月23日からの4連休は本来、同時期に開催されていたであろう東京五輪に備えて法改正したからでした。しかしご存じの通り五輪は1年延期。今年は「謎の連休」と化してしまったのです。来年も休みとするには東京五輪・パラリンピック特別措置法の改正が必要でしたが6月17日閉会の通常国会では間に合いませんでした。

 そこで来年も4連休とするにはどうしたらいいかなど臨時国会の流れなどをご説明しながら今後の政治カレンダーから改正されたらいつが休みになりそうか、波乱要因は何かなどを閉会式前後の3連休も含めて推察してみました。

現行法で連休は今年限り

 4連休を実現させた特別措置法は2018年に改正され20年限定で成立しました。開会式典に参加する要人来訪への警備や内外から訪れる観客などの増加に普段の通勤・通学者が加われば交通機関が大混雑するのも避けたいし、物資輸送も遅滞なく進めたいとの思いからです。

 結果は以下の通り。

7月20日 海の日(7月の第3月曜日)→23日

10月12日 体育の日(10月の第2月曜日)→24日(開会式)

その後は25日が土曜、26日が日曜で計4連休となります。

 また閉会式前後も同様の課題を抱えるため、8月8日(土)、9日(日。閉会式)の翌10日を本来11日の「山の日」をずらして3連休としたのです。

 ところが今年3月24日、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行を理由として五輪の1年延期が決まりました。特措法は「平成三十二年に限り」なので連休を21年も実現させるには改正が必要です。

内閣は次のような案をまとめました。

7月19日 海の日→22日

10月11日 スポーツの日(今年から「体育の日」を改称)→23日(開会式)

それに24日の土曜、25日の日曜で4連休は維持できるというわけです。

「山の日」移動と長崎原爆投下日の重なり

 順当にいけば、これに閉会式前後の3連休も含め、通常国会(6月17日閉会)に通す予定でした。しかし「山の日」の扱いに関して与党内からも疑問が生じて国会提出が遅れてしまったのです。

 当初、8月11日の「山の日」を9日に移動させるつもりでした。8日(日曜)が閉会式ですから平日の翌9日でいいと。祝日法は3条2項で「祝日が日曜日に当たるときは、その日後においてその日に最も近い『国民の祝日』でない日を休日とする」とあり、カレンダー上すでに日曜と決まっている日に祝日を移動させるのを想定していませんから妥当といえば妥当。

 でも8月9日は長崎に原爆が投下された日で「理由は何であれ『祝日』に最もふさわしくない」と反発の声があがり、結局8日が「山の日」で9日を振り替え休日(祝日ではない)とする案で着地しました。この時点で国会審議日程が窮屈になり通常国会成立を断念。次の国会での成立を目指すとなったのです。

約束されない「臨時」国会開催とIOCの判断

 おそらく今秋に召集されるであろう臨時国会で成立するでしょう。ただ波乱要素も認められます。1つは「臨時国会は必ず開かれるとは限らない」という点です。憲法53条は内閣の意思および衆参どちらかの総議員の4分の1以上の要求があれば臨時国会は召集されると規定しています。言い換えると内閣(実質的には首相)に召集する気がなければ開かれません。「4分の1」規定も要件がそろったのに安倍晋三首相が召集しなかったケースも15年にあるのです。

 この時期の解散総選挙もささやかれています。今の衆議院議員の任期満了が来年10月21日で、安倍首相の自民党総裁任期も同年9月。解散日を自身の優位な時期に打てるのが首相最大の特権で、任期満了選挙は現憲法下で1回しかありません。もっともこの場合、解散総選挙の帰趨に関わらず特別国会は開かれます。そこで審議するかもしれません。

 「秋」が微妙な時期であるのも要注意。新型コロナ禍は世界的に収まる兆しをみせておらず、同時期にIOC(国際オリンピック委員会)が中止を含む判断を下す可能性があるからです。もしそうなれば祝日を移動する理由がなくなります。

 秋に召集されなくても来年1月から通常国会は必ず開かれますから、ここで審議されるケースもありましょう。ただ同時期の解散・総選挙の実施が妨げられるわけでもなく、中止か否かの決定は昨秋よりずっと確実になされているはずです。

「簡素化」した五輪に連休は必要か

 仮に臨時国会が開かれ、21年に五輪を開催する予定が維持されたとしても、すでにIOCと大会組織委員会の間で当初計画より簡素化するという合意がなされているのも波乱要因です。簡素化が開閉会式にも及ぶとすれば厳戒警備や混雑という連休にする理由自体が縮小・消滅するかもしれないので。

 現状から1年後をかなり楽観的に推し量っても、開会式に世界のトップ級が一斉に来日するとか各国選手団が新国立競技場満員の観客のなか行進するとか、内外合わせて約1千万人が東京へ集合するなど起き得ないと考えた方がまともでしょう。

 開催都市である東京都は現在、コロナ禍のまっただなか。延期にともなう追加負担数千億円が下手するとのしかかるという事態に都民が納得するかも保証の限りではありません。

 もし連休を国会で決めた後に中止という段取りになったとしたら大連休とした意味がなくなります。現に今年の4連休と3連休がそうであるように。

祝日を恣意的に動かす是非

 だいたい「国民の祝日」を恣意的に移動させていいのかという「そもそも論」も軽視できません。法改正を行った18年とコロナ禍を知った今日とでは国民の意識も大きく異なっています。

 五輪にともない移動される祝日のうち「スポーツの日」は1964年の東京五輪開会式が行われた10月10日が由来で祝日法も「スポーツを楽しみ、他者を尊重する精神を培うとともに、健康で活力ある社会の実現を願う」を目的としているのでまあいいとして他はどうでしょうか。

 「海の日」は1996年から施行されています。7月20日の「海の記念日」が由来。同日は明治天皇が初の乗船を経験されて巡幸から帰着した日。祝日法は「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う」と記します。それを開会式前日に移すっていいのでしょうか。「明治天皇が……」も「海の恩恵」云々もまるで関係ありません。

 「山の日」に至っては意味不明ですらあります。もともと「8月に祝日があってもいいじゃないか」あたりから浮上した経緯を持ち盆休みと連動させる12日案が同日は1985年、日航ジャンボ機が御巣鷹山に墜落して520人がなくなった惨事が発生した時で追悼慰霊式も行われていて「いくら何でも」と反対された結果1日前に設定した、2016年から施行された若い祝日です。そもそも「祝う」に値する正統性があるのかという休みだから動かしても構わないといえば身もふたもないし、といって祝日法の「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」という意義を関東平野で主として行われる競技会閉会式のさなかに感じられるかといえば甚だ疑問です。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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