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衆参ダブル選挙は煙幕と思われる6つの訳

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
衆議院が解散されるとなぜか「万歳!」(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 3年に1度、定員の半数を選び直す参議院通常選挙が今年行われます。それにあわせて安倍晋三首相が衆議院を解散して同日選挙に持ち込む「ダブル選挙」を狙っているのではないかという憶測が絶えません。「何だか前にも聞いたことがある話だ」と思われる方もいらっしゃるでしょう。3年前の2016年参院選でもささやかれたからです。しかし実行されたのは1980年と86年の2回だけ。果たしてあるのかないのか。最終的に解散権を持つ首相の思惑を探ってみました。

【解散理由1】参院選の勝利を確実にするため?

 参議院は解散されません。言い換えると政府や与党(首相の味方)に逆風が吹いているさなかでも来るべきものは来るのです。首相に近いとされる日本維新の会を除く野党(首相の味方以外)は遅まきながら改選1議席の選挙区の大半で統一候補を立て、与党との一騎打ち態勢を整えました。

 しかし衆議院はまだまだ。というか主に都道府県単位の45選挙区しかない参院と異なり、1人だけ当選できる衆議院の小選挙区は289もあり、立憲民主、国民民主、共産、社民の4野党が一致して押せる候補にそろえるのはほぼ不可能。立憲と国民は源流の旧民主党から分裂した経緯があるため怨念も残っています。

 小選挙区は皆都道府県内に設置されているので参院で統一候補を立てても衆院で野党同士で争えば一体感も失われてしまうのです。

 また参院選は与党が敗北しても最終的に首相が指名できる衆議院の勢力は変わらないので普段は与党支持でも「灸をすえる」といった動機で野党に票が集まりやすいともいわれます。総選挙を同日にぶつければそんな悠長なことはいっていられませんから結果的に参院も与党有利に運ぶとの見方も「ダブルがある」説の有力論です。

【解散理由2】消費増税や日米貿易交渉前に総選挙を打った方が勝てる

 前回総選挙は2017年10月ですから4年の任期(21年)まで相当残っています。ただ今年10月には国民に不人気な消費増税を控えており、トランプ米大統領が多分大いに押し込んできそうな日米貿易交渉も本格化するでしょう。農産品の輸出入がより日本にとって不利な結果となりそうな気配で自民の金城湯池たる農業票の猛反発を招きかねません。ならばその前に総選挙を終わらせてしまえという観測もなされています。

 衆議院の解散権は事実上首相が握っています。現在の自民党会派は283人。しかも連立する公明と合わせて17年衆院選は小選挙区を落としてもほとんどが重複立候補で比例復活当選していて、国会に議席を得られなかったのはわずか4選挙区。今すぐ現職だけで勝負できる環境なのです。元々が大勢力なので議席増が果たせなくとも微減で済めば政権は信任されたと叫べるでしょう。

【疑問1】自民が参院選でボロ負けする可能性は低い

 【解散理由1】で示したようにダブルを打つとしたら与党側に「今回の参院選はヤバい」との前提が必要です。でも案外そう思わせるような根拠が見当たりません。

 確かに32ある改選1人区で維新を除く野党の統一候補は実現しています。しかしそれは3年前も同じ。この時の結果は野党11勝21敗で全議席で比べても自公快勝でした。今回は野党協力が前回より遅れ、勢いがあるとも言い難い状況です。

 もし野党が「1人区」で勝とうとしたら西日本の選挙区をかなり自公から奪取しなければなりません。前回も村山富市元首相の地盤である大分と「オール沖縄」勢力が強い沖縄を除いて落としているのです。野党が快勝した2007年参院選では山陰と四国で全勝、九州・沖縄でも勝ち越しました。現時点でそうした情勢が再現できるとは到底いえない状況です。

【疑問2】「2人区」激減で野党不利

 かつて参院選で野党優位になる理由として改選2人区の存在が挙げられていました。先に例示した07年だと12もあったのです。それが今や4にまで激減しています。

 「2人区」はたいてい無風で与野党が分け合ってきました。自民は分け合いたいわけでなくとも候補者を2人立てて独占するほどの力はなく、落選した与党候補との遺恨が生じるのも嫌で見送り。結果として労せずして野党は12議席を得られたのです。

 当時の「2人区」は現在、定数是正で北海道、兵庫、福岡が1増の「3人区」へ、逆に宮城、福島、新潟、長野、岐阜が1減の「1人区」へと変わりました。「1人区」は体力に勝る自公が優勢になりやすい。では3人区はというと16年選挙では北海道を除いて自民に加えて公明が議席を得ています。野党からすると「1減」で無風で得てきた議席が激戦と化し、「1増」で与党へ2議席を与える損な流れなのです。

【疑問3】ダブルで投票率が上がると与党不利

 80年と86年のダブル選は当然ながら衆参双方とも投票率が上がり自民圧勝劇を演出しました。ところが近年の選挙では投票率アップは自民不利の結果を招いているのです。

 今世紀に入ってからの参院選は前回(3年前)より投票率が上がると議席減(3年前と比べて)下がると議席増とみごとに符合しています。12年の政権奪回選挙以来、衆院3連勝、参院2連勝と結果を残して「絶対王者」のごとく君臨する安倍政権でさえそうなのです。下がった13年は議席増、上がった16年は勝利したとはいえ3年前より減らしています。

 与党にとっておそろしいのは総選挙でも同じ傾向を示している点。投票率が大幅に上がって勝利したのは05年の小泉郵政選挙ぐらい。09年の政権交代選挙は05年以上を記録して民主党が政権奪取。12年、14年、17年はいずれも投票率が過去最低を含めワースト1・2・3です。「自民党ではなく自分党」と別称されるほど自民は後援会など強固な組織を、公明は創価学会という大きな支援母体を持つため低投票率になるほど相対的に有利に働きます。

 言い換えると下手に投票率が上がると近年棄権していた層が動き票が読めなくなってしまうのです。小泉郵政選挙のような熱狂を生み出せれば別ですが今のところそれらしき解散の大義名分が見つかりそうにありません。一部にいわれる消費増税再延期は野党の主張でもあるので争点たり得ず、菅義偉官房長官が5月の記者会見で述べた「内閣不信任決議案提出が解散の大義になり得る」というのもどうか。

 確かに不信任決議がらみの解散は過去にあったにせよ、多くが可決したり(80年ダブル選はまさにこれ)、可決しそうになったりしたケースで今回とかけ離れています。与党圧倒的多数の衆院で粛々と決議案を否決した後に「国民の信を問う」というのも不思議な話。「不信任案を否決した我々ってどうよ?」と問いかけるのか。返答に窮しそうです。

 いくら自民党の「理屈は後から貨車でついてくる」(故春日一幸元民社党委員長)が習い性でも納得いかない大義では盛り上がらない……ってもしやそれ(低投票率)が狙いなのか。でもだとしたらダブル(=盛り上げる手段)を打つのは矛盾します。

【疑問4】参考にならない過去のダブル選

 まず80年の方は政局の環境が今日と全然異なります。大平正芳内閣不信任決議案採決の際に反主流派の議員69人が本会議を欠席したため提出した野党もビックリの可決。憲法69条の決まりで首相が解散を選択し(ハプニング解散)総選挙へなだれ込みました。ダブルになったのは偶然。選挙期間中に大平首相が急死し、同情票も加わってグシャグシャであった自民が圧勝しました。まるでヤクザ映画のような展開。今の安倍政権のどこを突いても出てこないシナリオです。

 86年の中曽根康弘首相による「死んだふり解散」は多少似ているかも。首相自ら通常国会中に解散風を吹かせたり「考えていない」と否定したりと観測気球を上げた挙げ句に臨時国会を召集して冒頭で解散したのです。

 争点の1つとみられていたのが現在の消費税の源流にあたる大型間接税導入です。首相は微妙な言い回しでやる気があるようなないような発言を繰り返し、選挙中は導入しないと断言。「この顔が嘘をつく顔に見えますか」とまで言い放ちました。結果は自民圧勝。

 ただし解散をいつ行うかはともかく中曽根首相が前回(83年)総選挙で過半数割れの大敗を喫したのを挽回して政権を安定させたがっていたのは皆の知るところでした。すでに絶対多数を持つ安倍政権とはここが大きく違います。

【疑問5】中選挙区制下の実績はあてにしにくい

 過去2度のダブル選はいずれも衆院が中選挙区制、参院が80年は地方区と全国区(個人名を書く)、86年は全国区に代わって拘束名簿式比例代表制(政党名を書く)でした。いずれも現在の衆院小選挙区比例代表並立制と参院の選挙区&非拘束名簿式比例代表制と異なる方式でした。

 特に衆院の違いが顕著です。中選挙区制度は1選挙区あたりおよそ3~5人が当選します。当時は自民党単独政権(83年から約3年は新自由クラブと連立)で過半数を得るには3人区で2人以上、5人区で3人以上擁立する必然が生じていたのです。要するに同じ選挙区で同じ自民党候補が争う構図。

 表向きは「ともに勝って党に貢献しよう」ですけど本音としては片方が落選する可能性も十分あるので血で血を洗う選挙戦に突入します。複数の自民候補が互いに少しでも抜きん出ようと必死の活動を展開し、自民勝利の場合は結果として眠っていた票を掘り起こしたのです。

 この構図だと投票率アップ=票の掘り起こし=自民勝利となりやすい。中曽根首相の群馬3区(4人区)など他に福田赳夫、小渕恵三と有力3氏でしのぎをけずり、首相在任中の2度の総選挙でさえ福田氏に次ぐ2位当選で「日本で1番(=首相)、群馬で2番」などとからかわれたほどでした。

 ひるがえって今の小選挙区制はまるっきりの様変わり。何しろ1人しか当選しないのだから公明候補が出馬する選挙区を除いて自民候補は1人。自民党支持者でも、それこそ旧群馬3区のように「福田か中曽根か小渕か」が選べた時より「この候補だけ」と決まっている方がつまらないでしょう。その候補に思い入れできないならばなおさらです。それでも強力な野党対立候補がいれば別ですけど鉄板選挙区で対抗馬は共産だけとなると放っとくかとなりかねません。低投票率の方が勝てる理由の1つです。

 小泉郵政選挙のように逆らった自民党議員を除名して刺客を立てる、つまり実質的に小選挙区に自民系が2人立つというウルトラCを演出できれば別かもしれませんが、そうした離れ業を全国規模でやってのける自民党総裁はめったにいないし大敗するリスクも抱え込みます。17年総選挙は二階俊博幹事長が自派所属の候補がいる埼玉11区、山梨2区にそれぞれ自民系2人が立つのを容認し「勝った方を追加公認」と裁定。両選挙区とも投票率は全国平均を上回りました。ただいずれも二階氏の豪腕がなせる技であくまで例外です。

【疑問6】野党がかえってまとまるおそれ

 野党がバラバラで参院選で手一杯。その間隙を突いて不意にダブル選を仕掛けて壊滅させたいという思惑が政権にないとは思えません。野田佳彦前首相はテレビ番組で「(仮に自身が首相なら)解散したいと思う。(解散したい)衝動に駆られると思う」と語りました。首相経験者ならではの重みがある見立てです。

 もっともかつての自民党重鎮・川島正次郎の「政界は一寸先は闇」という金言を忘れてはなりません。特に選挙は何が起こるかわからない。

 実は「ダブルあるある」をあおっているのは自民関係者ばかりではありません。先の野田発言に加えて野党第1党・立憲民主党の枝野幸男代表も4月23日のツイッターに「衆議院とのダブル選挙も濃厚です」と書き込み、5月17日の党会合で「ダブル選挙になる可能性もかなり出てきた」と発言しています。

 国民民主党に合流した小沢一郎氏は総合選挙対策本部長(玉木雄一郎代表)の相談役に就任。やはりダブル選の可能性に言及しています。「誰とでも寝る」「民主主義は数だ」「数合わせの何が悪い」とまあ身もふたもない発言で知られる小沢氏ですが自民党を2度も野に追った立役者であるのも事実。

 野党の有力者が相次いで「解散風」を吹かせているのは与党側の揺さぶりを奇貨としてドサクサ紛れでも何でもいいから結集するしかないという方向へ持っていきたいからでしょう。何しろ「多弱」ですから小選挙区289を埋めるだけで精一杯。

 言い換えると候補が立憲だろうが国民だろうが共産だろうが立てなければ選挙前から負け戦決定で元も子もありません。過去の恩讐は超えられなくても「敵は自公」で一致して無理やりでも風らしきを吹かせて「時間がない。この人しかいなかった。勝つしかない。ウダウダいうな」で備えたら選挙は案外とわからないものです。

 むしろ泥縄での短期決戦の方が勝機をつかめるかも。17年総選挙の立憲がまさにそうでした。10月3日、枝野氏ら現職6人だけで結成し10日公示(選挙戦正式スタート)までに候補者を78人かき集め、22日投開票で公示前15人を55人まで増やしたのです。

 こう考えていくとダブル選は自民にとってメリットよりリスクの方が高そうです。佐藤栄作元首相はかつて「改造をするほど首相の権力は下がり、解散をするほど上がる」と語りました。もしかしたら安倍首相は解散風で党内の結束をはかりたいだけかもしれません。だとしたら煙幕です。野党に選挙準備をせかしてカネを使わせ日干しにしようという思惑かも。

 もっともそれが仇となって野党が何とかかんとか態勢を整えたら与党側にも心配が募り「時間を与えるほど相手に有利」との焦りが醸成されると解散不回避となりひょうたんから駒のダブルへとなだれ込むかもしれません。煙幕のつもりが火災発生の仕儀へと突入する可能性も否定できないのです。やはり政界は一寸先は闇。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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