運動データの活用で、子どもの成長を促す。技術向上よりも「心と体」の成長・・・。

ユニークな小学生スポーツ教室が、千葉と神奈川にある。

神奈川県横浜市の「慶應キッズパフォーマンスアカデミー(慶應KPA)」と、そのプログラムをベースとして21年10月に開講した千葉県浦安市の「シャイニングアークス(SA)アカデミー」だ。

慶應KPAは、「体」と「心」の成長をサポートするユニークなプログラムが人気で、県内外に約100名の会員がいるという。

運営は、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科と、慶應ラグビー倶楽部だ。

この慶應KPAのプログラムをベースとして新アカデミーを立ち上げたのが、ラグビー国内1部リーグ所属のNTTコミュニケーションズ シャイニングアークス東京ベイ浦安(SA浦安)だ。

(※SAアカデミー取材記事)

それぞれラグビーチームが母体だが、ラグビーの技術指導には特化しない。

目指すのは小学生の「心と体の成長」。運動の得意、不得意は問わない。

2つのスポーツ教室では子ども達の成長を促す方法のひとつとして「データ」を活用。GPS等の測定機器を駆使し、子どもを刺激するという。

慶應KPAと、SAアカデミー。

それぞれのキーマン3人による座談会が2021年11月、SAアカデミーの練習拠点「アークス浦安パーク」で行われた。

神武直彦教授(慶大大学院SDM研究科教授・慶應KPAディレクター)

和田康二理事(慶應ラグビー倶楽部理事・慶應KPA運営責任者)

内山浩文GM(NTTコミュニケーションズ シャイニングアークス 東京ベイ浦安GM・シャイニングアークス運営責任者)

内山GMがホスト役となって慶應KPAの神武教授、和田理事を迎えた鼎談では、小学生スポーツに対する各人の思い、小学生スポーツの可能性が語られた。

SA浦安の内山浩文GM。日向高校-中央大、社会人チームを経てNTTコミュニケーションズで09年までラグビーをプレー。17年GM就任。構想力と実行力が光る気鋭の若手GM。提供:ShiningArcs
SA浦安の内山浩文GM。日向高校-中央大、社会人チームを経てNTTコミュニケーションズで09年までラグビーをプレー。17年GM就任。構想力と実行力が光る気鋭の若手GM。提供:ShiningArcs

■スポーツと自分を好きになってほしい。だから「比較しない」

内山浩文GM:「シャイニングアークス アカデミー」に採り入れさせてもらった慶應KPAさんのプログラムは、「体」だけではなく「心」の成長もサポートする点に魅力を感じました。

神武直彦教授:自分を肯定することができて、前向きな気持ちになれるプログラムにしたかったんです。

スポーツは他人との比較で序列がついてしまいがちですよね。たとえば、4月生まれの子と比較されて、スポーツが嫌いになってしまう早生まれの子がいたりするんです。最初でつまずいてスポーツが嫌いになってしまうのはもったいない。

内山:本当にそうですね。

神武:見せ方の工夫次第で自己肯定できることは多いはず、という考えで、慶應KPAでは他人と比較するのではなく、自分を超えることを目指しています。

地域の小学校で様々な実証をして知見を蓄積してきました。実際に「地域のスポーツクラブでは他の人と比較されてしまってうまくいかないことが多かったけれど、ここ(慶應KPA)ではどんな子でも認めてもらえる」というような理由で、遠方からお子さんを通わせている親御さんもいらっしゃいます。

和田康二理事:心技体でいうと、「技」のところは小学校高学年から中学校以上で各競技に特化して伸ばしていく部分のイメージです。小学生ではその土台となる「心」と「体」の成長が重要だと思っています。

内山:大人になってから心を鍛え上げるのは大変ですよね。

和田:心の成長は「知る・考える・話す・挑戦する・率先する・支える・継続する」など様々な要素があります。

例えば慶應KPAやシャイニングアークスアカデミーでは、チームでやるボールゲームや鬼ごっこの休憩時間にどうしたら勝てるかをディスカッションしたり、上手くいかない仲間がいた場合でも皆で支え教え合うなど、子供たち同士の対話や交流を通して心の成長を促すことを大事にしています。

内山:心の成長は重要ですね。強化に携わる人間として、オン・ザ・ピッチで活躍している人は心という内面的強化ができている人だと思います。

和田康二理事。慶大ラグビー部元主将。13年度からは2季監督を務め2年連続ベスト4。大学卒業後に就職したゴールドマン・サックス証券を経て、現在は慶大ラグビー部GM。提供ShiningArcs
和田康二理事。慶大ラグビー部元主将。13年度からは2季監督を務め2年連続ベスト4。大学卒業後に就職したゴールドマン・サックス証券を経て、現在は慶大ラグビー部GM。提供ShiningArcs

■データの活用で成長を促進

内山:シャイニングアークスアカデミーではテクノロジーを積極的に活用して、アカデミー生の成長を促したい。「Smart ICT × Sports」はNTTグループの強みですし、ICTの実証実験にも適したアークス浦安パークもあります。

和田:今年8月、こちらのアークス浦安パークで、神武先生が校長をされている小学校のラグビースクールをやらせて頂きましたよね。

内山:ありましたね。

和田:そのときに練習をドローンで上空から撮影しました。アークス浦安パークの会議室をお借りして、お昼を食べながらその空撮映像を流したら、子どもたちが「こんなに団子になっているんだ」と驚いていた。

言葉で「一カ所に固まっている」「団子になっている」と何度も言うより、映像で見せた方がパッと一瞬で入ってくる。子どもが何に反応するかは工夫のしどころです。言葉や数字だけを出しても子どもは「?」という感じになってしまいますから。

神武:子どもに分かりやすいのは映像だと思うんです。たとえば僕らが小学校でラグビーのパスを教えたとき、パスをした30秒後に再生される遅延再生のiPadを置いて、パスをした映像を自分で確認してもらいました。

自分はできていると思っているんだけど、30秒前の自分を見るとまったくできていないことに自分で気づく。そういった気づきは納得感があり、行動変容につながることが多い気がします。

あるスキルをゼロからそこそこのレベルに上げるまでは、自分を自分で見て客観視する方が、専門家からアドバイスをうけるより上達しやすいことがある、という研究結果が出ています。

内山:こういう話はとても面白いですね。シャイニングアークスアカデミーではアシスタントコーチとして毎回複数の現役選手が参加しているので、技術指導はサポートできます。

神武直彦教授。慶大理工学部でラグビー部に所属。同大学院卒業後は宇宙開発事業団(現JAXA)でH-IIAロケットの研究開発と打上げに従事した。慶應義塾横浜初等部の校長も兼務。提供ShiningArcs
神武直彦教授。慶大理工学部でラグビー部に所属。同大学院卒業後は宇宙開発事業団(現JAXA)でH-IIAロケットの研究開発と打上げに従事した。慶應義塾横浜初等部の校長も兼務。提供ShiningArcs

■バーチャル・オリンピック?逸材発掘?スポーツテクノロジーの可能性

和田:GPSは監督時代に初めて導入したんですが、レギュラーじゃなくてもすごい数値を叩き出す選手がいたりするので、選手起用の幅が広がりました。原体験はそこで、GPSは今後いろんな活用ができたらと思います。

神武:思い出したのは、全国でタイムを計測するプログラムです。全国どこで測っても計測方法が統一的なので、ゲームセンターのようにウェブで全国ランキングが出るんです。

シャイニングアークスさんがそうしたプログラムを全国で展開すれば原石を見つけられるかもしれません。走るだけじゃなくてキャッチ、ジャンプ等いろいろあれば、空間を超えたバーチャル・オリンピックのような大会も開催できます。

和田:今年の春には神武先生の繋がりもあって、GPSと光電管とストップウォッチという3種類で測るというプロジェクトをやりましたね。

内山:そうなんですか。

神武:そうしたプロジェクトをやると理科とか算数のお話にもなるんです。

光電管でデータを取るのは、通過するだけなのでどの場所でも一緒なんですけれども、GPSで取ろうと思うと衛星の信号で位置を特定するので、校舎の真横でやると、衛星の信号が直接届かないので精度が悪いんです。

ただ校舎から離れた場所でやると、衛星の信号が受信できる場所で取るデータと同じになる。それはなぜか、のような話ですね。

和田:実際にそうだったんです。GPSのデータがおかしいな、となって「ここに建物があるからだ」と。

神武:日本は北半球ですが、総体的に南半球側に衛星がいっぱいあるんです。ですから南側に遮蔽物があると影響が大きいんです。

内山:すごく勉強になりますね(笑)。

神武:宇宙業界では当然のことなんですけれども、それを自分のデータで見てズレていると分かると納得感があるわけです。

和田:面白いですよね。

内山:これは本当にアカデミーの夢が膨みますね。

■自分に合ったスポーツを見つけてもらう機会を

内山:シャイニングアークスアカデミーは慶應KPAさんと同様にラグビー専門のアカデミーにはしませんでした。運動の楽しさを感じながら、自分に合ったスポーツを見つけてほしいと思っています。

和田:ラグビーに特化したアカデミーにも大事な価値はありますが、中学生以降にラグビーをやるにしても、ラグビー以外のスポーツをやるにしても、小学生年代は様々な運動、スポーツを経験することが大事だと思います。

慶應KPAは多様なコーチ陣も特徴で、例えば陸上の山縣選手(亮太/陸上男子日本代表)を指導されている高野大樹さん(慶大競走部コーチ)にスピードコーチをお願いしています。定期的にグラウンドやオンラインで実際に指導を頂きつつ、プログラムのアドバイスを受けています。

陸上競技に興味関心を持ち、能力が伸びた結果自分にはこっちが合っている、といったようなケースも今後あるかもしれませんね。

内山:自分に合ったスポーツを見つけられるかどうかで未来が大きく変わる可能性がある。ぜひ自分の適性を見つけてもらう機会を提供したいですね。

和田:シャイニングアークスアカデミーもラグビーに特化していないので、いろんな子が集まると思います。そうすると他の学校の子、他競技の子など、コミュニケーションを通していろんな価値観に触れ、友達作りの場にもなります。

神武:シャイニングアークスアカデミーに参加して下さる子は、スポーツをやりたい子が多いのだと思いますが、浦安市で子どもにプログラミングをさせたい親御さん、プログラミングを学びたい子などに参加してもらうのも面白いと思います。

彼らにアカデミーで得たデータを提供し、一緒に考えて、対話をし、作業をする。同じ場所、そして同じタイミングで体を動かす人、頭を動かす人がいる。スポーツを軸に「する・みる・ささえる」ができる教育プログラムがあると面白いですね。

そうした能力を身に付けた子たちは色々なところで活躍できますし、国を超えて必要とされる人材にもなり得ると思います。

和田:同時に、団体競技のラグビーチーム(慶大ラグビー部、SA浦安)が携わっているアカデミーだからこそ、チームアップに関わる観察力であったり、対話スキルであったりの向上は強みにしたいですね。

神武:ひとつの理想を言うと、こうしたアカデミーの取り組みが良かったのか悪かったのか、どう影響したのかを知るために、同じ環境でデータを取り続ける仕組みが必要だと思います。

たとえばシャイニングアークス認定のプラットフォームが用意できれば、将来いろんなチームに行ったとしてもその仕組みに準ずるところに入れれば、10年前、20年前の自分の運動能力と今の能力を比較することもできます。 

あとは、そのデータを扱える人材も育てないといけないですね。

たとえば自分の子どものデータを取りたい親御さんはいっぱいいるので、プログラムをやっている間、親御さんにお子さんのデータを渡して扱ってもらったり。このアカデミーから、子どもと親のアナリストを増やすといった展開もできるかもしれませんね。

内山:そうして蓄積したお子さんのデータ3年分を、卒業証書と一緒にお渡しできたら面白いです。シャイニングアークスアカデミーのコンセプトは「成長のふるさと」で、アカデミー生も気に入っているようです。

和田:キーコンセプトは、慶應KPAの場合、「子供たちを『最高の未完成』へ」。シャイニングアークスアカデミーの場合は「成長のふるさと」になりました。

神武:ちょっとレトロな感じで良いですね。

和田:良い言葉だなと思います。

内山:未来から振り返ったときに、アークス浦安パークで自分は成長できたなと思ってもらいたいですね。 ■

提供:ShiningArcs
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