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ミクスタの奇跡?小倉に1万5千人集結、ラグビー・ウェールズ代表へ国歌を届ける。関係者も感激の大成功

多羅正崇スポーツジャーナリスト
公開練習に臨むラグビー・ウェールズ代表のアラン・ウィン・ジョーンズ主将(写真:REX/アフロ)

 これは、夢ではないか――。北九州市役所の国際スポーツ大会推進室次長、藤本氏は目を疑った。

 「ミクスタ」ことミクニワールドスタジアム北九州(福岡・小倉)が、3階席まで埋まっている。観客数は開場以来最多となる満員の1万5300人。

 17年2月のこけら落としで記録した1万1577人を大きく超えた。誰も見たことのなかった「満員のミクスタ」だった。

 北九州市役所職員の藤本氏は担当者として満員を目指し、準備に奔走してきた。しかし結果は蓋を開けてみなければ分からなかったから、驚いた。

「担当者として、これは夢ではないかと思いました。取り組んできたことが実を結びました。皆さまに喜んでもらえて良かったです」(北九州市役所職員・藤本氏)

 9月16日、ラグビーW杯日本大会に出場するウェールズ代表が、ミクニワールドスタジアム北九州で初の公開練習を行い、初戦となる9月23日のジョージア代表戦へ向けて汗を流した。

 13時開場、14時過ぎにスタートした公開練習では、グラウンドに出てくる選手をウェールズ国歌「Land of My Fathers」(ランド・オブ・マイ・ファーザーズ)で歓迎するサプライズが。

 W杯出場国の国歌を歌ってもてなすプロジェクト「スクラムユニゾン」のメンバーである音楽家・村田匠さん、歌手・田中美里さんが音頭をとり、続いてウェールズ代表の応援歌でもある賛美歌「Calon Lan」(カロン・ラン)も歌われた。

 

「ウェールズで行われる代表チームの試合では、7万5000人のファンが国歌とカロン・ランを歌います。これを北九州で再現しよう、ウェールズの歌で包み込もう、という取り組みでした」(北九州市役所職員・藤本氏)

 この日のために地域の小学生も練習。市役所でも館内にウェールズ国歌を流し、練習会も行うという徹底ぶりだった。

 公開練習に1万5300人が集まり、さらにはウェールズ国歌を斉唱して歓迎―ー

 歌唱に優れ「歌の国」とも呼ばれるウェールズ。代表チームが歓迎の様子を公式SNSで公開すると、感動・賞賛の大反響が巻き起こった。

※ウェールズ代表のスター、ジョージ・ノースは、練習開始3時間前の長蛇の列を興奮気味にツイート。

 ウェールズ代表の公開練習で、ミクスタを満員にする――。

 それは17年12月、代表チームとのやりとりから生まれた1年半がかりの挑戦でもあった。藤本氏は目標達成の理由をこう語る。

「複合的にあると思いますが、まずウェールズ・ラグビー自体が上り調子で、今年8月には初めて世界ランキングで1位になった強いチームであることがひとつ」

「また昨年8月からウェールズと交流をする専門チームがありまして、去年8月から3回、交流プログラムを行いました。イベントやラグビー教室などの普及活動です。マスコミの方々にも多く取り上げて頂きましたし、日本全体の気運もあったと思います」

「また近いところでは、小倉駅周辺を真っ赤に染める都市装飾をしました」

 北九州市生まれのラグビーファンで、公開練習を現地で楽しんだ北久保さん(40代男性)には、地元民ならではの視点がある。

「お祭り好きの気性もあると思います。小倉の祇園太鼓、戸畑の提灯山笠(戸畑祇園大山笠)――。あとはこの辺りは映画の街で、映画のエキストラをよくやっている。協力する文化はあると思います」

「無料ということもあったと思いますし、個人的には、小倉駅周辺を真っ赤にしたのが大きかった。旗とか、ポスターとか、ウェールズ一色ですよ」(ラグビーファン・北久保さん)

 また5、60年代に全国社会人大会を12度制した八幡製鉄(現・日本製鉄八幡)の拠点であり、ジュニアラグビーが盛んな土地柄でもある。

 3連休の最終日で、暑かったが天候に恵まれたこともあったという。北久保さんは「何もかも上手くいったのではないか」と奇跡のような時間を振り返った。

小倉駅の様子(※写真提供:kumakuma photo)
小倉駅の様子(※写真提供:kumakuma photo)
小倉駅そばの商店街「魚町銀天街」(※写真提供:kumakuma photo)
小倉駅そばの商店街「魚町銀天街」(※写真提供:kumakuma photo)

 気になるウェールズ代表選手たちの反応は? 藤本氏が振り返った。

「とにかく『ファンタスティック!』を連呼していました。W杯で北九州市民の期待に応えたい、とも言ってもらいました」

 ウェールズラグビー協会のパフォーマンス・ディレクターであり、元代表キャプテンのライアン・ジョーンズ氏(代表75キャップ)は公開練習後、「これまでのラグビーキャリアでこのような経験をしたことは一度もなかった」とメディアに感動を伝えていた。

 9月20日(金)に開幕する2019年W杯日本大会は、今後このように語られるかもしれない。―ー2019年W杯で最初に世界を驚かせたのは、各国の代表チームではなかった。おもてなしの心を持った日本の人びとだった。  (了)

※ウェールズ代表サポーターが応援で歌う賛美歌「カロン・ラン」を口ずさむ子供たち。

スポーツジャーナリスト

スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める

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