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研究予測:世界人口は2064年に97億人でピーク、2100年には87億人に

谷口博子東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学 博士(保健学)
世界で人口の高齢化が進み、2100年までに人口が減少に転じている国が多いとの予測(写真:アフロ)

米国ワシントン大学保健指標・保健評価研究所(Institute of Health Metrics and Evaluation: IHME)は今週、世界の人口は2064年に97.3億人でピークを迎え、その後減少に転じて、2100年には87億人になるとの予測をランセット誌で発表した。

1950年代以降、国連が世界人口を推計しているが、昨年7月の報告書(プレスリリース日本語訳)では、2050年に97億人に達し、2100年頃に110億人でピークを迎えるとの予測だった。世界全体で人口の高齢化が進んでいること、2100年を前に人口が減少に転じている国が多いことは、いずれの分析でも同じだ。

人口のピークを迎えている国、2100年に迎える国

同研究所は、今回の研究「2017~2100年の195の国と地域における出生率、死亡率、人の移動と、人口推移のシナリオ:世界の疾病負担研究の予測分析」が国連や他機関の研究とどのように分析手法が異なるのかを説明しながら、それらと参考指標を同じにした場合、2100年の人口差は、大きくは出生率の差異によるものだとしている。具体的には、本研究のほうが、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国で7億200万人、南アジアで5億8400万人、東南アジア・東アジア・オセアニアで4億4700万人、他の研究より少ない予測だ。

国別では、中央・東ヨーロッパの大半の国々、ジョージア、イタリア、日本などが既に人口のピークを迎えているが、中央アジア、オセアニア、アフリカの10ヵ国あまりでは、2100年に人口のピークを迎えるという予測だ。サハラ砂漠以南アフリカでは、ピークを迎える年の平均が東部・南部・西部のいずれも2090~2100年と、地域全体で人口の増加が続いていることがわかる。なお、2100年は分析対象の最終年で、必ずしもこれらの国のピークが2100年というわけではない。

2100年の日本の人口は5900万人

研究では、日本の2100年の人口は5900万人と、現在よりも半数以下に減少している。日本の国勢調査人口を基準にした人口推計では、2008年の1億2808万人を境に減少に入り、先月6月1日の最新データでは1億2593万人に(いずれも、総務省統計局)、2065年には8808万人になると推計されている(国立社会保障・人口問題研究所。2017年4月発表)。

分析によれば、2017~2100年の間に、日本、タイ、ウクライナ、スペインを含む23ヵ国で50%にのぼる人口減少、そのほか34ヵ国でも25~50%の減少が予測されている。スウェーデンやシンガポール、台湾などは出生率向上のために、有給での産休や財政的な子育て支援策などの政策を推し進め、スウェーデンでは一定の効果を上げているが、シンガポールや台湾では、支援策を実施しても出生率の低下には歯止めがかかっていないことも紹介されている。

スウェーデンの仕事と育児の両立支援施策については、大阪大学大学院 高橋美恵子教授のこちらの寄稿に詳しい。

世界人口の動向に、教育の機会と避妊の選択

今回の分析では、予測シナリオを、教育の機会が得られているかと避妊具(薬)に関するニーズが満たされているかを、想定される最も早いスピードで進んだ場合、やや早い場合、やや遅い場合、「持続可能な開発目標(the Sustainable Development Goals: SDGs)」の目標値レベルの場合と改善速度別に場合分けして比較し、各国政府がこれらの政策でいかに舵(かじ)を切るかが、人口動態に多大な影響を与えると提言している。特に、これらの影響が顕著なのが、出生率の高く人口増加が続くサハラ砂漠以南のアフリカ諸国で、SDGsが達成された場合には、2100年の世界人口は62億9000万人との予測だ。

人口動態は、社会の人口構成、労働、経済、文化、教育、保健・医療とあらゆる分野とつながり、国の行方、私たちの暮らしを左右する。と同時に、教育の機会と望まない妊娠をしない家族計画と避妊の選択が、一人ひとりの人生にも、国や世界の未来にもこうして深く結びついている。

東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学 博士(保健学)

医療人道援助、国際保健政策、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ。広島大学文学部卒、東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻で修士・博士号(保健学)取得。同大学院国際保健政策学教室・客員研究員。㈱ベネッセコーポレーション、メディア・コンサルタントを経て、2018年まで特定非営利活動法人国境なき医師団(MSF)日本、広報マネージャー・編集長。担当書籍に、『妹は3歳、村にお医者さんがいてくれたなら。』(MSF日本著/合同出版)、『「国境なき医師団」を見に行く』(いとうせいこう著/講談社)、『みんながヒーロー: 新がたコロナウイルスなんかにまけないぞ!』(機関間常設委員会レファレンス・グループ)など。

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