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【男子バレー】西田有志、イタリア移籍を発表。「東京五輪のおかげで“挑戦したい”とより明確になった」

田中夕子スポーツライター、フリーライター
初の五輪を終え、今季はイタリアへの移籍を発表した西田有志(写真:ロイター/アフロ)

願望から目標に変わった海外挑戦

 東京五輪閉幕翌日の9日、男子バレー日本代表の西田有志が記者会見を行い、イタリアセリエA、ビーボ・バレンティアへの移籍を発表した。

 イタリアのみならず、ポーランド、ドイツなど複数の海外クラブからオファーを受け、自身もレベルアップのために海外でプレーしたいと望んでいた。だが「願望」が「目標」に変わったのは、オリンピックの経験が大きかった、と西田は語る。

「初めて代表に選ばれて、ネーションズリーグを戦った時(2018年)からずっと海外でやってみたい、と思っていました。でもどうやったら行けるか、と考える中、東京オリンピックが終わるタイミングが節目だと思ったので、トライしたい、と。世界に対して自分の技、フィジカルの変化を確かめたい。正直、オリンピックの前までは自分の見たことがない景色がありすぎて、多くのことを自分の目、身体で体験するために『とりあえず(海外に)行ってみたい』という気持ちでした。でもオリンピックを終えて、今はこの1年でここまで挑戦したい、この選手と戦いたい、というのが明確で、1年1年、その戦いを連続していければレベルアップする、と思えた。この状況でもオリンピックをやっていただけたおかげで、より一層その気持ちが強くなりました」

敗れた悔しさも含め、初の五輪は西田にとって得難い経験となった
敗れた悔しさも含め、初の五輪は西田にとって得難い経験となった写真:ロイター/アフロ

五輪で実感「もっと違う景色が見てみたい」

 高校時代は全国大会やアンダーカテゴリー日本代表でエースとして活躍する、世代を代表するような、いわば“主役”ではなかった。

 持ち前の攻撃力、何より闘志を前面に出しどんな相手にも真っ向勝負。西田が持ち得る力を一気に開花させたのが、三重・海星高を卒業後にジェイテクトSTINGSへ入ってから。

「正直自分がここまで成り上がると思っていなかったし、順調という考えは一切なかった。今まで、今からも1年生きるのに必死だし、だからこそここまでこれたと思います。内定選手の自分をレギュラーで使っていただいて、リーグ優勝、天皇杯優勝という素晴らしい経験もさせてもらったけれど、ファイナル6に行けなかったり、代表でも結果を残せず、もがいて苦しんだ時期もありました。でもこのチームに支えていただいたおかげで、精神的にもプレーヤーとしてもレベルを上げることができた。感謝しかないですが、これからは1人の道になるし、どう進んで行くかはまた新しい人生、やってみないとわからない。でも、自分が満足する人生を生きていると思います」

 世界選手権、ワールドカップと着実にステップアップを遂げ、経験を重ねれば重ねるほど「もっと先が見たい」「違う景色が見たい」と欲も出た。

 東京五輪で自ら「試合をしながら鳥肌が立ったのは初めて」と振り返ったイラン戦のように、これまで以上に「負けたら終わり」とすべてをかけて臨む選手たちの中で戦ううち、自らの課題も突きつけられ、これまで以上に「強くなりたい」と臨むようになった。

 世界最高峰のイタリアへ渡り、今の自分ができる全力で戦う。五輪前にはすでに確定していた移籍だが、西田にとってはこれ以上ない、満を持しての挑戦、決意表明でもあった。

記者会見でイタリアらしいポーズを要求され「ボーノ」とおどけてみせた(筆者撮影)
記者会見でイタリアらしいポーズを要求され「ボーノ」とおどけてみせた(筆者撮影)

「1年」にかける覚悟

 186cmのオポジット。日本でも小柄な部類で、イタリアでは規格外とも言える小さなオポジットであり、まさに未知の世界。

 だが、前例がないからこそ楽しい。

 そう言わんばかりの表情で、西田は嬉しそうに笑う。

「この身長でもイタリアで活躍した、という記録、記憶を残したい。記憶に残るプレー、記憶に残る試合をして、希望を与えられるような選手になりたいです」

 戦っていても面白かった。そして鳥肌が立った。

 得難い五輪の経験を力に、また新たなステージへ。

「長い間(海外で)やり続けるのはすごいことですが、自分の場合は1年1年、これで終わってもいい、と思うぐらいやりきること。だからもしかしたら1年で帰ってくるかもしれないし、先のことはわからないですけど、これからも自分に合った選択、上を目指して日本代表を強くしたいし、自分自身ももっと強く、もっとうまくなりたいです」

 これまで以上に、これからは自分次第でどこまででも可能性は広がっていく。誰より胸躍らせ、西田は新たな世界へ羽ばたいていく。

いざ、世界へ。西田が新たなステージへ歩み出す
いざ、世界へ。西田が新たなステージへ歩み出す写真:森田直樹/アフロスポーツ

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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