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男子バレー、29年ぶりに五輪で勝利。175cmの司令塔が見せた、チームを勝利に導く「整える力」とは

田中夕子スポーツライター、フリーライター
ベネズエラ戦で、五輪では29年ぶりとなる勝利を挙げたバレーボール男子日本代表(写真:ロイター/アフロ)

全員が躍動した「29年ぶり」の勝利の立役者

 バルセロナ五輪以来、実に29年ぶりとなる五輪での勝利。24日、ベネズエラと対戦した男子バレー日本代表は3-0で快勝。幸先いいスタートを切った。

 主将の石川祐希のみならず、アウトサイドヒッターの高橋藍も攻守で貢献。ミドルブロッカーの山内晶大、小野寺太志もブロックやスパイクで存在感を発揮。ケガからの復帰となったオポジットの西田有志も持ち前の攻撃力と、武器であるサーブで得点を重ね、リベロの山本智大も随所でベネズエラの攻撃をレシーブでつなぐ。

 さらに加えれば、スタメンのみならず交代出場の清水邦広が、選手生命をも揺らがすほどの大けがから復帰を遂げ、08年の北京五輪以来13年ぶりとなる五輪でプレーし、スパイク得点を叩き出す姿に、この場に立てなかった同じ世代を戦った選手たちの姿も重なる。大げさではなくその1本には込み上げるものがあった。

 そしてマッチポイントでの1点で、これぞ真骨頂とも言うべきホットラインで鮮やかに決めたセッターの藤井直伸とミドルブロッカーの李博も勝利を彩った。

 だが、やはり最大の功労者はこの男だ。

 175cmのセッター、関田誠大。試合を動かしたのは、関田のサーブだった。

流れを引き寄せたセッター関田のサーブ

 ベネズエラが16-13と3点を先行した第1セット、山内のスパイクで1点を返し、日本のサーバーは関田。

 この試合最初にサーブを放ったのも関田だったのだが、ジャンプサーブはアウトになり、「やはり関田でもオリンピックは緊張するのか」と思っていた自分がいかに浅はかだったか。直後のサーブで見せつけられた。

 ただ全力で打つのではなく、的確にターゲットを狙いながらもやや力を抜いたサーブが、ノータッチで相手コートに落ちる。西田や石川といったビッグサーバーが揃う日本で、今大会初のサービスエースを記録したのが関田だった。

 続けて2本目はさらに前へ落とすショートサーブで相手のレシーブを崩し、返って来たチャンスボールを高橋のバックアタックで16-16。続くサーブも前に落とし、またも乱れた状況から軟打で得点しようとしたボールを関田自らレシーブ。つながったラリーを最後は山内がブロックで続けて仕留め、関田のサーブから日本は5連続得点で19-16と一気に逆転した。

 誰もがうなる絶妙なサーブ。試合の中でも冷静に、関田の持ち味で武器でもある「整える力」を存分に発揮した。そう言うのは、関田が中大時代の監督で現在は東山高でコーチを務める松永理生氏だ。

「もともと勝気な部分があり、彼は自分のミスは絶対に自分で取り返す、という人間です。大学時代からボールの違いによってフローターとジャンプサーブを打ち分けていましたが、どのボール、どんなサーブでも常に“点数を獲りに行く”という姿勢は持ち続けていた。試合前半、あの場面でのサーブはまさに彼の性格や特徴が出ていただけでなく、チームにリズムを呼び込む、大きなポイントだった。誠大の“整える力”はさすがやな、と思いましたね」

ミドルの山内も積極的に使い、トスを散りばめる。緊張感を伴う初戦で、サーブだけでなく関田のゲームメイクも光った
ミドルの山内も積極的に使い、トスを散りばめる。緊張感を伴う初戦で、サーブだけでなく関田のゲームメイクも光った写真:ロイター/アフロ

西田を生かした関田の1本

 劣勢から流れを引き寄せるサーブだけでなく、その力が発揮された場面がもう1つある。松永氏が挙げるのは、第2セットの序盤、7-5と日本がリードした状況から連続失点を喫し、7-7に迫られた場面だ。

 スコアだけを見ればリードから同点に追い上げられているのだから、ピンチのようにも見えるが、この時に見せた関田の選択が、試合中盤、後半にある選手を復調させるきっかけをつくった、と松永氏は言う。

「藍が後衛ライトでサーブレシーブをして、相手のサーブに押され、軌道が低いままセッターの関田に返った1本がありました。相手ブロッカーもややライト側に寄っているうえ、ボールの軌道が低いのでアタッカーもセッターも余裕がない。でもその状況から誠大は間をつくり、絶妙なタイミングでライト側の西田選手に上げた。結局相手ブロックに止められ、失点になってしまったのですが、西田選手は自分が入りたいタイミングで入って打てていたんです。たいていのセッターはただ浮かせるだけでスパイカーとタイミングが合わず、返すのが精いっぱいになってしまうケースが多いのですが、ほんの一瞬、セッターが間をつくることでちゃんと打てるところまで持って行ける。それ以降西田選手は完全に自分のタイミングで入って、肩の力も抜けて思いきり打てていました。ミドルの使い方も絶妙でしたが、ちゃんと打つべきアタッカーを打たせる。僕が(中大の)監督時代、初戦は自分も緊張する中、誠大だったら、きっと何とかしてくれる、と思っていましたが、オリンピックもまさにそう。彼の“整える力”が存分に発揮されて、やっぱり、頼もしいセッターでした」

 まだ開幕したばかりで、26日に行われる次戦のカナダ以降もイタリア、ポーランド、イランと対戦するのは強豪揃い。喜ぶばかりでは甘い、と言われるかもしれないが、コートに立つ全員がそれぞれの力を発揮し、各々が役割を果たす。司令塔の整える力が次戦以降、どんな場面でどんな風に発揮されるのか。想像すれば楽しみしかない。

 29年ぶりの勝利、に留まることなく1つずつ。男子バレー日本代表は、日々、進化を遂げていく。

次戦は26日。セッター関田(右から2番目)の整える力がカナダ戦でも発揮されるか。注目だ。
次戦は26日。セッター関田(右から2番目)の整える力がカナダ戦でも発揮されるか。注目だ。写真:ロイター/アフロ

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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