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男子バレー石川祐希が掲げる「希」の一文字。「命を最優先に、2021年は希望溢れる年であってほしい」

田中夕子スポーツライター、フリーライター
2021年の抱負を「希」と掲げた石川祐希(写真/株式会社グッドオンユー提供)

一時は39度まで発熱「怖いウイルス」 

 1つ1つの言葉に重みがあった。

 イタリアセリエAでプレーする男子バレーボール日本代表のエース、石川祐希が復帰戦となるヴェローナ戦を終えた翌日の4日、オンラインで取材に応じた。

 昨年12月9日に所属事務所を通して、新型コロナウイルス感染症の検査で陽性判定を受けたと発表。症状は比較的軽いとされていたが、39度の発熱もあり「どこまで症状が出続けるのか、どれぐらいで回復するのかが全くわからなかったので不安はあった」と明かす。

 自ら先頭に立ち、感染予防を啓蒙する活動も行っていただけでなく、日頃からコンディショニングに対する意識は人一倍高かった。食事、睡眠といった生活の基本を徹底することに加え、昨シーズンまではルーティーンとして行っていたサーブ時にシューズの裏を触る動作も感染リスクを考えてやめるほど、感染予防対策を徹底してきただけに「陽性の疑いが出た時はどこでかかったかわからず驚いた。怖いウイルスだと感じた」と振り返る。

 自宅療養を経て体調も回復したが、現在も味覚障害や嗅覚障害も残っていると言い「このウイルスで命を落としている人もいる。これからも引き続き感染予防はすべき」と述べた。

 28日からチーム練習に合流し、3日のヴェローナ戦はスタメン出場。1-3で敗れはしたが、通常とは異なるオポジットのポジションに入り、チーム2位となる15得点を挙げるなど活躍を見せた。石川自身は「3週間身体を動かしていなかったので、感染する前と比べれば疲労感は感じるが、パフォーマンスに影響する感じはない」と言う。これまではサーブでも相手のターゲットとされることが多かったが、ポジションが異なったことに加え、ジャンプフローターサーブでも狙われることが少なかったことから「パスの良さは証明できたのではないか」と自信をのぞかせた。

「目の前の試合、目の前の1点を大切に」

 日本でもバレーボールに留まらず、大会開催の可否が検討され、首都圏を対象に緊急事態宣言が再び発令されれば有観客から無観客、最悪の場合は中止という選択肢も浮かび上がる。

 ロックダウン下にあるイタリアも同様で、試合はすべて無観客で開催されているが、チームに複数の陽性反応者が出れば試合はできない。石川が所属するミラノだけでなく、多くのクラブが試合の延期を余儀なくされており、開幕前のスケジュールをすべて消化できるかもわからない現状だ。

 さらに感染が拡大すればリーグ自体が昨シーズン同様、中止という決定が下される可能性もあるが、見えない未来に臆するよりも石川が見据えるのは今。

「昨シーズンはパドヴァで地元の方々やサポーターが応援してくれて、“認められた”実感がありました。でも今シーズンは無観客なのでその機会がない。受け入れられた、認められたというのも1つの自信に変わるところで、その自信があるかないかでプレーの勢いが変わる。それがかなわないのは、とても残念に思います。でもこれからも自分は世界のトッププレーヤーを目指して戦っていきたいと思いますし、こんな状況ではありますがとても大事なシーズン、1年になると思っているので、プレーヤーとしては常に目標を見失わず、前だけを見て戦っていきたい。流れを変える1点、ここで1点欲しいというところで決められる努力をしなければならないと思いますし、目の前の試合、目の前の1点を大切に、チームの勝ちに貢献できるプレーをしたいです」

プロアスリートとして「希望の種になれるような年にしたい」

 明日、5日には春高バレーが開幕する。

 開催地である東京を中心とする首都圏への緊急事態宣言が再発令されるのか否か、出場選手や関係者も不安は尽きないが、石川自身も高校時代に2年続けて制した大会であり、インターハイ、国体など公式戦が中止になった高校生たちにとっては今年最初で最後の大舞台でもある。高校生たちに向けて「後悔がないように思いきり楽しんで戦ってほしいし、ここまで感じて来た気持ちを思いきり表現して臨んでほしい」とエールを送った。

 イタリアの現状、日本の現状、どちらも先の見えない厳しい状況ではあることは変わらない。だが当初のスケジュール通り進むならば7月には1年延期された東京五輪も開催される予定だ。1人のアスリートとして目指す舞台であることは変わりないが、現在の状況を踏まえ「やってほしいか、と言われれば正直やってほしいけれど、判断するのは難しい」と前置きしながら、石川はこう言った。

「アスリートとしてオリンピックの舞台は特別です。でも、今の世界情勢を考えると簡単な判断ではない。僕自身もコロナウイルスに感染した身として、一番は健康、元気であることだと思っているので、命を最優先に考えてほしいと思います」

 新たな年の始まり。不安が続く今だからこそ、石川は2021年の抱負を漢字1文字で求められ「希」と示した。

「2020年は誰もが予想していなかった状況で、世界中、たくさんの人々がつらい経験、苦しい思いをしたので2021年は希望が溢れる年であってほしいという思いも込めて希望の「希」を選びました。僕自身もプロアスリートとして、希望の種になれるような年にしたいです」

 世界のトッププレーヤーになる、という揺らがぬ目標を持ち続け、プロバレーボール選手としてさまざまな経験を重ね、新たな覚悟を持って挑む。2021年の石川祐希はどんな姿、プレーを見せるのか。進化の過程に注目だ。

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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