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ホームゲームで初勝利! VC長野がV.LEAGUEで戦う意味

田中夕子スポーツライター、フリーライター
松本市で行われたVC長野のホームゲーム。スポンサーを掲げた選手のパネルでお出迎え

おらが村のトップクラブ

 選手の等身大パネルが出迎え、体育館入口に進むと小さなグッズ売り場がある。

「一番人気はタオルです。首に巻いてもいいし、一緒にブンブン振ってもいいし、どうぞ盛り上げて下さい」

 通りがかる人に気さくに売り場を手伝う地元の人々が声をかけ、オリジナルグッズをアピールする。タオルだけでなく選手の写真入りバッジやチケットホルダー。取り立てて珍しいものではないが、穏やかな笑顔で「カッコいいでしょ」と言われると、思わず手に取りたくなる。

 新生Vリーグと銘打ちビジネス化を掲げるV.LEAGUEでは、ホームの体育館は3000人以上を収容しなければならないため、地元の南箕輪村でホームゲームを開催することができない。おらが町、ならぬ、おらが村のVC長野の記念すべきトップカテゴリーでの開幕に、会場となった松本市総合体育館まで地元からバスでサポーターが応援に駆け付けたが、広いスタンドは空席が目立った。

 試合開始の12時に先立ち、10時40分からホームゲームイベントがスタート。暗転した会場でクラブ公認応援団でもあるチアが踊り、DJと応援団が開始までの時間を盛り上げる。前々日のサントリーや、前日の豊田合成、大企業を母体とするチームの開幕ホームゲームイベントと比べれば規模は比べるにも及ばない。だが、選手1人1人を紹介するVTRや常にかかり続ける音楽、会場で配布されるマッチデープログラムは手が込んでいて、ベンチ入り選手だけでなくトレーナーやコーチも含めた選手紹介を経て、キャプテン、監督がコート上でコメント。何度も繰り返されるVC長野コールが、決して大入りではないスタンドを盛り立てた。

10年でたどり着いた夢舞台での初勝利

キャップやタオル、チケットホルダーなど会場入り口に並べられたグッズコーナー
キャップやタオル、チケットホルダーなど会場入り口に並べられたグッズコーナー

 クラブの創立は2008年。運営会社であるVC長野クリエイトスポーツの代表取締役であり、トップチームの監督でもある笹川星哉が、出身校の東海大三高の同級生たちと共に立ち上げ、14年からは法人化。1つの企業に属するチームではなく、複数のスポンサー企業や自治体の協力を得て運営するクラブとして活動をスタートさせた。

 自ら動いてスポンサーへの営業活動を行いながら、選手も獲得する。地域リーグから始まった挑戦は資金面でも、人集めの部分でも課題ばかりで笹川監督は「(設立してから)半分は苦しいことばかりだった」と振り返る。15年からチャレンジ2に参戦、その年に優勝し、チャレンジ1に昇格。昨シーズンは5位に終わったが、自治体からの支援や経営状況など、Vリーグが提示するS1ライセンスを取得し、今シーズンからはトップカテゴリーであるディヴィジョン1への参戦が決まった。

 とはいえ、見渡せば大企業の社員としてリーグ期間中は社業に携わることなくバレーボールに集中できる環境がほとんどである中、VC長野の選手はそれぞれが異なる仕事を持ち、リーグ中もフルタイムで勤務する。練習も19時15分から21時30分までと限られ、週に一度参加するのがやっと、という選手も少なくなく、笹川監督も「自分たちはまだ、結果や順位どうこうと言えるようなレベルではない」と言うように、実力差は否めない。

 だが、そんな環境下でありながら、ホームでの開幕2戦目となった大分三好ヴァイセアドラ―との一戦で初勝利を挙げた。両チームとも昨シーズンはチャレンジリーグ1で切磋琢磨してきたが、この2シーズンでVC長野が大分三好に勝利したのは6度の対戦でわずかに一度だけ。そんな相手に対してストレートで快勝を収めたVC長野の選手、スタッフは歓喜し、大分三好・小川貴史監督は敗因をこう述べた。

「昨シーズンまでと比べて、ブロックとレシーブの連携、複数枚ブロックがついた時の完成度や、そこからの攻撃の精度が格段に上がっていました」

 トップカテゴリーの参戦に向けたレベルアップを図るために、昨季までジェイテクトスティングスで監督を務め、イラン代表や日本代表でもスタッフとして携わって来たアーマツ・マサジェディが今季からコーチに就任。最初から難しい戦術遂行を要求するのではなく、ブロックのステップや手の出し方、スパイク時のボールコントロールやアプローチの仕方など細かな技術指導により、選手の技術も向上。セッターの椿芽久も「海外の選手の特徴や巧さを映像で見せてくれたり、実際にアーマツコーチがやって見せてくれて、『こういう時はこうやればいい』と的確な指示をしてくれる。そのおかげで『こうしていいんだ、こうすればいいんだ』という発想や工夫がどんどん生まれるようになった」と手応えを示す。限られた練習環境の中でも、アーマツコーチも「我慢しながらやり続ければ、絶対うまくなるし、現にVC長野の選手はみんながびっくりするぐらい成長している」と胸を張る。

ここからが未来へのスタート

開幕2戦目で初勝利を挙げた笹川監督。「VC長野はもちろん、もっとVリーグを知ってほしい」と訴える
開幕2戦目で初勝利を挙げた笹川監督。「VC長野はもちろん、もっとVリーグを知ってほしい」と訴える

 加えてもう1つ、小川監督が敗因として掲げたのが「ホーム」の力だ。

「会場の雰囲気、設営、みんなでつくってきたものをぶつけてきたな、と。VC長野が勝ちに値するゲームをしたと思いますし、みんなで盛り上げて長野のチームを勝たせたい雰囲気が伝わってきた。いいプレーが出た時の声援やMCさんの声、後押しする声が我々にとってプレッシャーだったと感じましたし、長野県のチームに完敗した。次は我々のホームゲームで、大分の力で借りを返したいです」

 3500人と掲げる1日の観客動員数には遠く及ばず、同じホームゲームでも開幕で対戦したパナソニックパンサーズには完敗を喫したのも現状であり、これから試合を重ねる中で体力面や技術、戦術面など幾多もの厳しい局面が訪れるのは確かだ。

 だが、得点板の横に座り得点係をする中学生が、会場と一緒に手を叩き「VC長野!」と応援していたり、試合を見た女子中学生が「体でボールを上げるんだ、という全力の姿勢がかっこよかった」と目を輝かせる姿は、地元の人々とつくりあげる、まさにホームゲームと呼ぶにふさわしい雰囲気だった。

 興業として成り立たせるためにも、トップカテゴリーとして戦う力を養う意味でもまだまだ課題は尽きない。だが、それでもここで戦い続けることが、10年前に描いた夢の実現であり、これからにつながる未来のスタートでもあると笹川監督は言う。

「僕らのクラブは資金もないし、力もない。まだまだです。でも、たとえば今日見てくれた人が『面白い』と思って次は1人、また1人と呼び込んでくれればそれが100人にだってなる。『また見たい』と思われるクラブになるためには、結果を残すこともそうですが、まずはVC長野というバレーボールクラブ、そしてVリーグそのものを知ってもらうこと。新参者ですが、もっと気軽に足を運んでもらえるような工夫をする。そうやって1つずつ、『長野の集客動員数はすごいぞ』と思われるような形を少しずつでもつくれるように。地方からでも、できることを全力でやり続けたいです」

 試合後の撤収作業も笹川監督が指揮を取り、地元の人々と一緒に選手も椅子を片付け、床のシートをたたみ、事務所に送付する荷物を箱に入れ、丁寧に振り分ける。

 その光景だけでも思う。こんなクラブがいつか日本一になる日が来たら、これ以上のサクセスストーリーはないのではないか、と。長野のクラブとして胸を張り、共に闘う。新しい挑戦は、まだ始まったばかりだ。

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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