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男子バレー世界選手権が開幕。超アウェイの歴史的一戦を、日本代表はどう力に変えるのか。

田中夕子スポーツライター、フリーライター
男子バレー世界選手権が開幕。フォロイタリコの超満員の観客が熱狂(写真/平野敬久)

空の見える屋外コートで迎えた開幕戦

 試合開始2時間前。17時半を過ぎてもまだ空は青く、太陽の光も差し込む。

 赤、白、緑の国旗が描かれた紙を持つ、地元・イタリアの観客で少しずつ埋まり始めるスタンド。満員の観衆が詰めかけた、フォロイタリコ。1960年のローマ五輪で会場となった歴史ある地で、男子バレーボール世界選手権2018が開幕した。

 通常屋内で行われるインドアバレーボールとは異なり、空の見える屋外コート。

 どうなるのか、という不安よりも、日本選手たちはその場に立てる期待に胸を躍らせていた。主将の柳田将洋が言った。

「この場に立てることを誇りに思おう、とみんなで共有して試合に臨みました。いろいろな条件は重なりますが、なかなかできない経験なので。自分としても、これからにつながるいい経験値になるな、と思います」

アウェイも上等「つまらないオープニングゲームにしたくない」

 バレーボールの国際大会は日本開催が多く、普段からいわば「ホーム」の状態で試合に臨むことが多いため、当然ながらアウェイになれば、開催国が優位に立つことは承知している。たとえば、練習時間の設定や試合の組み合わせや試合時間。加えて、1次予選の2試合は開催国が対戦相手を決めることができるため、イタリアは開幕に日本を指名した。

 裏を返せば、より勝利する可能性が高いチームで、なおかつ適度な緊張感を持たなければそれほど簡単には勝てない、と思われるより都合のいい相手。ランキングや相性から考慮した結果がおそらく「開幕カードは日本」という結論に至り、それは日本選手も承知の上。だからこそ、とイタリア・セリエAでプレーする石川祐希も意気込んでいた。

「日本なら絶対に勝てるだろう、と思われている状況だからこそ、やってやりたい。こんなこともできるのか、と驚かせたいですよね」

 通常ならば互いが平等である試合会場を使った公式練習も、イタリアは試合開始と同じ19時半からであるのに対し、日本は18時。まだ日も落ちていないためだいぶ条件は違ったが、言い訳にはしない。中垣内祐一監督も前日会見でそう言い切った。

「向こうは何回練習した、こっちは何回しかできない、ということで差が出るとは思わないし、大したビハインドにはならないと思っています。もちろんやりにくいとは感じるかもしれないけれど、だからといってできない理由にはならない。むしろひと泡吹かせてやる、ぐらいの気持ちで開放してほしい。プレッシャーのかかった環境で力を発揮していくのが一番の課題で訓練機会であり、そこで平常通り、自分の力を出していくのが我々の臨むところで、求められているところだと思うので。選手たちにとっては、この先何年も、何回も語れるような場であることは間違いない。そこで委縮して、いいようにやられるような、つまらないオープニングゲームにはしたくないですね」

悔しい敗戦も「次へ進む雰囲気に変える」

 スタジアムが揺れるようなイタリア国家の大合唱に続き、19時30分。試合開始。照明や空間感覚もさることながら、選手をもっとも苦しめたのは風だ。

 スタメンセッターの関田誠大は普段通り、アタッカーの打点を生かす丁寧なトスを上げるものの、サイドへのトスが風にあおられて少し浮くため、「自分がはやく入りすぎた」という石川はタイミングが合わずブロックにつかまり、得点チャンスを逸する。さらに、スパイク以上に影響が生じたのはサーブ。ジャンプフローター、ジャンプサーブ、どちらも風の影響でコントロールがしにくく、普段通りに打っているはずでも思いのほか伸びすぎてアウトになるため、今度は少々力を弱めるとネットにかかる。それは日本だけでなくイタリアも同様。サーブで攻めきれない展開が続くため、柳田が「試合前に想定していたよりも、相手のサーブを脅威に感じることはなかった」と言うように、相手サーブに大きく乱されることもなく、僅差のまま中盤、後半を迎える。だがその状況からでも勝負所はサーブで攻め、スパイクコースをより厳しい場所に打ち込むイタリアに対し、日本は対応するのみに留まり、こちらから仕掛けるまでにはつながらない。

 何度も勝機はあったが、20ー25、21ー25、23-25とストレートで敗れた日本は初戦を勝利で飾ることはできずに終わった。

 貴重な経験とはいえ、悔しい敗戦。だが、これからは連戦も含め試合も続く。まだまだ、下を向く場合ではない。ローマからフィレンツェへ場所を移し、次戦へ向けて柳田が言った。

「日の丸の重みはもちろんみんな感じながらやっているし、負けることに対して責任を感じていますが、まだ大会は続くので、プラス材料、モチベーションとして次へ進める雰囲気に変えていければ今の僕たちにとっては一番いい。(初戦はケガで出られなかった)西田(有志)もずっと『出たい、出たい』と言っていたので、そういう鬱憤も含め、彼もこれから爆発すると思います」

 日本にとって2戦目となる次戦は現地時間13日の17時(日本時間14日0時)から、対ドミニカ共和国。歴史的な舞台に立ち、勝ち切れなかった悔しさや経験をどう生かすのか。第2戦に注目だ。

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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