男子バレー 豊田合成を初優勝に導いたクリスティアンソン監督の「改革」

豊田合成を初優勝に導いたクリスティアンソン監督。選手からの信頼も厚い。(写真:田村翔/アフロスポーツ)

「日本のバレーを変え得る名将」

優勝後の記者会見は、30分に及ぶ独演会となった。

「我々のチームには日本代表選手も、みなさんが取り上げるようなスター選手もいない。勝ったから話を聞いてくれるけれど、豊田合成がプレーオフに進むのも厳しいのではないか、と思っていたんじゃないでしょうか」

ウィングスパイカーの高松卓矢が「非常に人間的な監督なので、感情をいつも露わにする」と称する通り、勝っても負けてもコメントに少々の皮肉が加わるのはいつものこと。

だが、ただの皮肉屋ではない。

これまで優勝争いはおろか、下位に甘んじることも少なくなかった豊田合成トレフェルサに悲願の初タイトルをもたらした人物であり、3シーズン前の監督就任時からキャプテンを務めるリベロの古賀幸一郎は「間違いなく日本のバレーを変え得る名将」と称賛する。

アンディッシュ・クリスティアンソン監督、1949年生まれの66歳。

かつて母国のスウェーデン代表チームやイタリアセリエAやベルギー、ギリシャリーグで指揮を執り、2013年の6月に豊田合成の監督に就任した。

就任直後のシーズンは前年に続いて5位に終わるも、2シーズン目となった昨年はチーム初の3位、そして今季も10月に開幕したVプレミアリーグでは11勝1敗と首位を独走し、トーナメント形式の天皇杯で初優勝。目に見える成果を残し、チームは躍進を遂げた。

何ができないか、ではなく、何ができるのか

要求は厳しく、選手だけでなくスタッフも「叱られることはあっても褒められることはめったにない」と口を揃えるが、ただ怒鳴り散らすだけの監督ならば、チームから絶大な信頼を受け、チームを変えるきっかけを与えることなどできるはずがない。

ブロックとレシーブの連携に基づくディフェンスシステムの構築や、相手のブロッカーが複数揃った時の攻撃パターンなど、試合で発揮すべき技術や戦術の知識の広さや深さも、選手やチームを変えた一端ではあるが、それだけではない。いわば「改革」とも言うべき、チームを変えた最も大きな要素は、ただ与えられることをこなすだけではなく、1人1人が理由とすべきことを「考える」能力を植え付けること。

たとえば、目標を掲げる際もただ漠然と「この試合に勝利しよう」「今年のリーグで優勝しよう」という曖昧なものではなく、この試合に勝つために1人1人が何をすべきかといった明確な役割を提示し、勝利するためにクリアすべき数字を掲げる。勝てばいい、負けたらダメ、ではなくて、重視するのは掲げた数字がクリアできたか否かであり、チャレンジしたか、していないか。

クリスティアンソン監督が就任して以後、「確実に攻撃の引き出しが増えた」と自負する高松はこう言う。

「アンディッシュはベテランでも、古賀さんでも、僕や(2年目の)傳田でも、ミスをしたりやってほしいプレーと違うプレーをしたら練習を止めて叱咤激励するし、逆にいいプレーをしたら『今のはいいトライだった』と褒めてくれるので、そういう意味ではすごくわかりやすいし、僕は大好きです」

練習の質を変え、選手の意識を変える。そのために指揮官は何を示し、どこに導くべきなのか。クリスティアンソン監督はこう言った。

「チームの成長、という面で言えば、選手たちは『考える』ことができるようになったことが大きい。それは『なぜだ』と、やるべきことに対して『なぜこれが必要なのか』と勇気を持って聞くことができるようになったということです。練習でも試合でも、なぜこれをやるのか、今日はなぜこうするのか、彼らには常に『Why?』がある。やろうとしていることを理解し、消化しているから、疑問があれば質問してくるようになりました。そういうことができるようになれば、自分の潜在能力はどの部分にあって、試合の中でもこの状況をどう打開し、解決策は何か、と考える力もついてくるのです。私は、常に何が可能なのか、どんなことができるのかを見つけていきます。決して、何ができない、ではない。ただ『ハイ、ハイ』と聞いているだけの選手は何も生み出してくれないでしょう。このチームに対して何が可能か、この選手、シチュエーションでは何が可能かを見出していくのです」

何ができないのか、ではなく、何ができるのか。

それを理解したからこそ、豊田合成トレフェルサは強さを携え、初のタイトルを手にするまでに成長を遂げたのは間違いない。

この結果を次にどうつなげるか。むろん「リーグで優勝を目指す」など、野暮なことは言わない。個の技術力と意識を引き上げ、チームとしての組織力を高めること。

すべきことをすれば、自ずと結果はついてくる。

初優勝を遂げた選手たちの顔は、数年前には見られなかった「自信」で満ち溢れていた。