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久光製薬優勝の陰のMVP リベロ・座安の統率力

田中夕子スポーツライター、フリーライター

リベロに注目

今年度の全日本女子バレーボールチーム登録メンバー44名が、昨日(4月16日)発表された。

選手の名前を見ながら、なるほど、とか、へぇー、とか言いながら、次の全日本はどうなるのかを想像するのは、なかなか楽しい時間でもある。

個人的に注目しているのは、リベロ。

座安、井野両選手以外はすべて初選出。

セッターとリベロが変わるというのは、チームにとっても大きな変化が生じることでもある。

単純に誰が選ばれるかというだけでなく、この人が入ったらどうなるか。

サーブレシーブを得意とするのか、ディグを得意とするのか。

ポジションの位置取りや二段トスの技術、統率能力はどうか。

サイドアタッカーとのバランスを考えても、前衛の攻撃だけでなく、サイドアタッカーがバックアタックに入るケースや、サーブレシーブからの攻撃を展開する際にどこにリベロがいて、どれだけのカバーができるか、アタッカーの助走を十分に取るためには? などなど、リベロというポジションからチームを考えても、思い浮かぶパターンは幾つもある。

座安の“統率力”はピカイチ

単にレシーブをする、パスを返すというだけでなく、味方のブロックを後ろから見て、どこからスパイクが抜けているか、足りないところを的確に指示する。

ワンタッチを取るためのブロックならば、その位置で対処し、抜けたコースを拾うのが自分の役目ならば、スパイクレシーブやフェイントの処理に備える。

攻撃の際には、ブロックフォローに入りつつ、アタッカーに対して相手ブロッカーの枚数や、レシーバーの位置を伝え、「打て!」と声で背中を押す。

それもリベロが果たすべき重要な役割だ。

「統率力」という面で、最も高い能力を発揮しているのが久光製薬の座安だろう。

Vリーグではサーブレシーブ賞やベストリベロを獲得しているスペシャリストだが、昨年5月のロンドンオリンピック最終予選の直前で、メンバーから外れた。

「佐野さんのほうが、私よりもすべて上回っていました」

悔しさをバネにしつつ、気持ちはすぐに切り替えた。

「オリンピックに行きたい、じゃなく、オリンピックに私が連れて行く、という気持ちになりました。だから、リーグ優勝は絶対の目標。それが叶えられないようじゃ、この先につながっていかないんだぞ、って」

先日のVリーグ決勝で優勝した久光製薬は、長岡、石井といった若いアタッカーを試合出場を通して成長させることを1つのテーマとしていた。

データが集まり始めた中盤以降、相手ブロックを怖がり、安易なフェイントや、やみくもに勝負に行ってミスを連発した2人を、コートの中で常に叱責したのがリベロの座安だった。

中田監督曰く、「彼女は他人にも厳しく、自分にも一番厳しい選手」。

練習中から妥協せず、1本レシーブを弾くたびに「これじゃあ世界とは戦えない」と自らを叱咤する。

セミファイナルで調子が上がらなかった石井に「下を向くな。そんな姿勢じゃ出られない選手は納得しない」と言ったのも座安だ。

言うべきことを言うからには、自分も実践しなければならない。

サーブレシーブが悪くても、スパイクで挽回しようと思えばそれが可能なアタッカーに対し、レシーブを専門とするリベロはどれだけ目立たぬファインレシーブを連発していても、1本のサーブを弾けば「リベロなのに」という目を向けられる。

「大変だけど、だからこそ、勝つために何ができるかというのが一番多いポジションだと思うんです」

会場でバレーを見る機会があれば、リベロだけを追い続けるのも悪くないはずだ。

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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