その座にとどまれば不都合な真実が明るみに出てくる森喜朗東京五輪組織委会長

フーテン老人世直し録(563)

如月某日

 森喜朗東京五輪組織委会長がJOC(日本五輪委員会)の会合で「女性蔑視発言」を行い、翌日にその発言を撤回した問題で、「これで問題は終了した」と幕引きを図ったIOC(国際五輪委員会)が9日、「森氏の発言は完全に不適切で、五輪の理念に反している」と異例の声明を発表した。

 五輪憲章の精神を踏みにじる発言として、世界各国から抗議の声が上がった現状に、慌てたIOCが異例の発表を行ったものとみられる。しかしこうした対応を見せられると、商業主義と各国の政治利用によって、近代五輪の精神はすでに上から下まで丸ごと消し去られてしまっていることを痛感する。

 妙な話だが、森発言によって五輪を問い直す声が高まり、それが近代五輪精神の復活に繋がれば、森喜朗氏はその陰の功労者と見ることもできる。そのためにはこの人物がその座にとどまることは許されない。もしその座にとどまろうとすれば、第二、第三の不都合な真実が明るみに出てくる可能性がある。

 新聞・テレビは報じないが、10日発売の週刊誌には、フーテンが前回のブログで書いた五輪を巡るカネの疑惑が取り上げられ、また見出しには「サメの脳みそ、ネズミの心臓」も登場した。フーテンが現役の政治記者時代によく聞かされた森喜朗氏の評価である。

 サメの脳みそもネズミの心臓も体に比べて格別に小さいことを意味する。誰が言い出したかは知らないが、自民党政治家の間では森喜朗氏を評価するとき、よく持ち出された悪口だ。つまり体だけは大きいが気が小さくオツムも小さいという意味である。

 今回の問題発言の後で、萩生田文科大臣が森喜朗氏を擁護した。謝罪会見の後半で質問する記者に森氏が逆切れしたことを指し、「本当に反省しているからああいう態度になる」と萩生田大臣は言った。これは気が小さいことを指している。気が小さい人ほど窮地に陥ると強がる。森氏は強がって逆切れになった。萩生田大臣は森氏の気の小ささを知っているからあの発言になった。

 中曽根政権時代の中曽根総理は綱渡りの政権運営だった。最大派閥の田中派の言うなりにしかなれないのだが、なんとかして脱田中を図りたい。しかし田中派以外の福田、宮沢、河本派はみな反中曽根の立場である。

 そこで中曽根総理は田中派の中の金丸・竹下グループと秘かに手を組み、竹下登に福田派の次の総理候補である安倍晋太郎への働きかけをさせた。しかし福田赳夫は安倍晋太郎になかなか跡目を譲らない。その頃、中曽根が目を付けたのが森喜朗氏である。

 森氏は簡単に工作に乗ってくるというのだ。中曽根官邸の首席秘書官は「福田派殺すにゃ刃物は要らぬ。森をおだてりゃ事は済む」と口癖のように言っていた。つまり森氏はちょっとしたエサを与えれば、すぐそのエサに飛びつく。派閥への忠誠心もない。融通無碍で現実的利益に聡いという。

 その森氏が頭角を現す下地になったのは「気配り」である。とにかく「気配り」を欠かさない。フーテンが聞いて驚いたのは、自分の顔と名前をプリントした専用の包み紙を作って、地元の後援者から届いた貰い物を自分の専用の包み紙に包み直し、それをあちらこちらに贈っているというのだ。とにかくそこまでやって人間関係を重視する。

 一方で、世界の動きや政策にはあまり関心がないと言われた。森氏が総理になった2000年当時、米国のクリントン政権はIT革命によってグローバル化を図り、製造業中心の日本経済を弱体化させ、中国を国際社会に招き入れようとしていた。しかし森総理はIT革命の「IT(アイティ)」を読めなかった。「イットって何だ」と言った話は有名である。

 同時に数々の失言でも有名だ。総理に就任すると、1日の行動をメディアは「首相動静」として報道するが、「あれは嘘を言っても良いんだろう」と言ってメディアを敵に回した。また「日本は天皇を中心とした神の国」と民主主義を否定する発言を行う。選挙が近づくと「無党派層は寝ていてくれれば良い」と本音をあからさまにした。

 そもそも小渕恵三総理の急死を受け、「密室の談合」で決められた総理だったため、最初から国民には人気がなかった。そこに問題発言が重なり、さらに2001年2月10日に起きた米原子力潜水艦と日本の高校生の練習船「えひめ丸」との衝突に際し、情報を知ってもゴルフをやめなかったことが問題視された。支持率は一桁台に落ち込んだ。

 2001年参議院選挙を前に公明党が「森おろし」を始め、自民党からも同調する動きが起こり、予算成立後の4月に森総理は退陣を表明する。だがその後に行われた自民党総裁選挙で、森派の小泉純一郎氏は「自民党をぶっ壊す!」と叫んで国民的人気を集め、森派の流れをくむ政権が次々に誕生した。森派は自民党最大派閥となり、おかげで森氏は総理退陣後に歴代政権の後見役として権力を強めた。

 その延長で掴んだのが東京五輪組織委会長のポストである。前回のブログでも書いたが、その裏側にはあくなき利権追及の疑惑がある。森氏は2009年に「一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター」を設立し、その代表理事に就任した。講道館柔道の創始者である嘉納治五郎はアジア初のIOC委員であり、この財団が東京五輪を意識して作られたことは明らかだ。

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。89年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」次回日時:5月30日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。現在令和3年12月までの会員を募集中です。

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