Yahoo!ニュース

2021年は3度目の自民党崩壊現象が起きるかどうかだ

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(553)

極月某日

 今日(12月20日)から1か月で米国のトランプ大統領はホワイトハウスを去らなければならない。しかし彼はまだ敗北を認めていない。選挙に不正があり勝ったのは自分だと言い続けている。それを信ずる熱狂的支持者も健在である。

 そのためか共和党下院議員でバイデンの勝利を認めるのは27人しかいないという。183人は自分の選挙に不利になると考えるのかトランプ支持を標榜する。2016年の共和党予備選挙で次点だったテッド・クルーズ上院議員も、今ではすっかりトランプに忠誠を誓っている。

 しかし14日に選挙人の投票結果を見届けた共和党上院のミッチ・マコネル院内総務は、バイデンを次期大統領と認めて祝意を表した。共和党上院トップの動きが共和党の中で影響力を発揮するのか、それとも共和党はトランプ党に変貌してしまうのか、それがこれからの見ものである。

 ともかくトランプは、マイノリティの台頭とグローバリズムの影響で地位を低下させた低学歴白人労働者の圧倒的支持を掴んだ。彼らは非白人エリート層が支配する米国社会を嫌悪する。グローバリズム以前の白人中心の豊かな米国を取り戻そうとする。

 現在、バイデン次期大統領は閣僚に非白人のエリート層から多様な人材を登用しようとしているが、それはトランプ支持者が最も嫌う人たちだ。バイデン政権は米国社会の「融和」を掲げるが、それが逆に「分断」を加速させるのではとフーテンは懸念する。

 一方で日本に目を転ずれば、冷戦後の米国で共和党政権から民主党政権に交代した年には、自民党政権に崩壊現象が起きた。それがこれまで2度あった。1度目は1993年にブッシュ(父)政権がクリントン政権に代わった時、日本では政治改革を巡って自民党が分裂、非自民非共産の8党派が細川政権を誕生させ、自民党が初めて野党に転落した。

 2度目は2009年である。米国のブッシュ(子)政権の後にオバマ政権が誕生した年、日本では総選挙で麻生自民党政権が大惨敗、民主党が初の政権交代を成し遂げて鳩山政権が誕生した。

 そして来年2021年は米国でトランプ政権がバイデン政権に代わる。その年に日本で3度目の自民党政権崩壊現象が起こるか。それが注目される。

 おりしも政権発足3か月も経たないのに菅政権の支持率が急落した。自民党内には予算を成立させた後の「4月退陣」を口にする者も出てきた。歴代3位という高支持率でスタートした菅政権があっという間に落城寸前になった。なぜそうなるか。菅政権発足の背景にその答えは隠されているように思う。

 歴代最長を記録した安倍前政権は「モリカケ桜」に加え、河井前法務大臣の公職選挙法違反事件というスキャンダルにまみれた政権だった。そのため検察人事に介入し、黒川弘務前東京高検検事長を検事総長にしようとしたことから世論の反発を浴び、与党の中からも「安倍離れ」が始まる。

 7月22日に日本記者クラブで会見した公明党の山口代表は、安倍政権の支持率の低さについて問われると「それは安倍さん個人の問題でしょ」と冷たく言い放った。「モリカケ桜」は個人の問題で与党に責任はないとの考えをはっきり示したのだ。

 そして今井尚哉総理秘書官らが主導したコロナ対策が次々に失敗すると、菅官房長官と二階幹事長、そして公明党が手を組んで一律10万円支給や「GoToトラベル」の前倒しなど、新たなコロナ対策を推進し始める。その時点で実質的権力はすでに安倍前総理から菅官房長官に移っていたとフーテンは思う。

 存在感をなくした安倍前総理は病気を理由に退陣を表明、後継を菅官房長官に託すことで再起を図ることにした。菅政権はあくまでも自分の任期の残りの穴埋めという一時的なもので、来年9月までと安倍前総理は考えていたはずだ。

 そして来年9月の自民党総裁選には岸田文雄氏を担ぐか、状況次第では自分が名乗りを上げることもあり得る。そうした考えで麻生副総理とはすり合わせが出来ていたと思う。自民党第一派閥の細田派(事実上の安倍派)と第二派閥の麻生派が結託すれば総裁選を左右するのは難しくない。だから細田派と麻生派は今年9月の総裁選で岸田氏に票を回して生き残らせた。

 ところが菅総理が行った内閣と党役員の人事配置は、そうした思惑を打ち砕くものだった。「安倍政治の継承」を言いながら、安倍政治とは異なる方向を目指すことがはっきりしたのだ。

 安倍前総理が宿題とした敵基地攻撃を含む安保法制の見直しや憲法改正に前向きな姿勢が見られない。それどころか「2050年カーボンニュートラル」という野心的な政策課題を打ち出し、長期政権を狙う構えを見せた。

この記事は有料です。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバーをお申し込みください。

「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバー 2020年12月

税込550(記事6本)

※すでに購入済みの方はログインしてください。

購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。
ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

田中良紹の最近の記事