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菅総理の「ニタニタ作戦」はさらに支持率を急落させる

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(552)

極月某日

 各メディアの世論調査で菅内閣の支持率が軒並み急落している。共同通信やJNN、NHKの調査では前回より10ポイント以上の下落幅を記録し、毎日新聞に至っては不支持が支持を上回った。政権発足から3か月以内での大幅下落は極めて珍しい。

 新政権が誕生してから100日間は「ハネムーン期間」と呼ばれ、メディアも野党も批判を控え新政権のお手並みを拝見する。新政権はその間に自分たちの政策課題を次々に打ち出して国民に真価を問う。従って評価が定まり批判が出てくるのは3か月が経ってからというのが普通だ。

 ところが現在は世界がコロナ禍というパンデミックに直面している。国民の心理は普通ではない。安倍前総理は突然の学校一斉休校要請で社会を混乱させ、続くアベノマスクやコラボ動画で国民の顰蹙を買い、ついには任期途中で病気を理由に政権を投げ出した。

 後継となった菅総理には、世襲議員である安倍前総理にはない「叩き上げ」としての重心の低さと実直さが期待されたはずだ。それが政権発足当初の高い内閣支持率に表れる。支持率は70%を超え、小泉純一郎、鳩山由紀夫に次ぐ歴代3位となった。それがあっという間に50から40%台に急落したのである。

 理由は、自ら最大の課題とした新型コロナ対策で目に見える指導力を発揮していないことがまず挙げられる。その間に感染者数は急増し、医療体制のひっ迫が深刻な懸念となった。そのためGoToの一時停止が求められるようになるが、「観光立国」路線を推進してきた菅総理は慎重な構えを崩せないでいた。

 また安倍晋三後援会主催の「桜を見る会」前夜祭を巡る政治資金規正法違反事件を東京地検特捜部が立件しようとしていることや、公職選挙法違反事件で公判中の河井克之衆議院議員の後援者である大手鶏卵業者が、吉川貴盛農水大臣や複数の自民党政治家に現金を渡していた容疑で捜査の対象となった「政治とカネ」の再来がある。

 そしてもう一つ、フーテンが指摘したいのは菅総理の発信力の欠如である。菅総理は記者会見をほとんど開かない。そして肝心の国会答弁では、うろたえ、目が泳ぎ、言っていることがころころ変わり、最後はぼそぼそと官僚の原稿を読む。

 12月4日に事実上国会が閉幕した夜、菅総理はNHKのニュース番組に出演したが、日本学術会議の任命拒否問題を質問されると不快な表情を見せ、その後に「総理は怒っている」と官邸の広報官からNHKに電話があった。総理は都合の良い質問にしか答えないという態度が満天下に晒された。

 その週末の世論調査で支持率が急落する。すると菅総理はそれを埋め合わせるかのようにNHK番組から1週間後の11日、インターネットの動画配信サービス「ニコニコ生放送」に出演し、「みなさんこんにちは、ガースーです」と笑顔を見せた。

 こちらのふれこみは視聴者から質問を受ける形式で、ジャーナリストより国民と直接会話をするというのだ。しかし視聴者の質問は司会者がセレクトして読み上げるのだから、国民との対話のように見えるが本当の直接対話ではない。

 質問内容もジャーナリストが質問するのと同じものばかりだった。当然ながら機微に触れる質問は出てこない。そして目に付いたのは、とにかく菅総理が笑顔を絶やすまいとする姿勢だ。それがフーテンには「ニコニコ」ではなく「ニタニタ」に見えた。

 冒頭の「ガースー」もそうだが、若者を意識し、国民に媚びれば支持率が上がるとでも思っているのだろうか。菅総理はとんでもない勘違いを犯している。「ニタニタ作戦」ではさらに支持率を落とす。

 歯の浮くような「ポエム」を恥も外聞もなく国民に語ったのは安倍前総理だった。それを好む国民もいたが、フーテンは聞くたびに恥ずかしさに耐えられなかった。そういう人間からすれば国民に媚びるのではなく、実直さを前面に出して本当のことを語ることが必要ではないか。

 政治家が本当のことを語るのは難しい。国民に本当のことを語れば支持を減らす可能性がある。しかしそれでも危機のリーダーには本当のことを語る勇気が必要だ。そして自分の判断が間違っていたと気付けば、頑固をやめて柔軟に転換する。それが危機の政治家に求められる。

 菅総理が「ニタニタ作戦」を展開した頃、海の向こうのドイツではあのメルケル首相が眉をしかめ、拳で机をたたいてコロナ禍の深刻さを訴えていた。最初のロックダウンの時には国家権力が私権を制限することに複雑な思いでいることを率直に語り、それが移民問題で低下した支持率を回復させたが、優しさのメルケルが今度は鬼のような形相を見せた。

 菅総理の国会答弁は極めて評価が低い。一つには安倍前総理と比較されるからだろう。安倍前総理は野党への対抗心をむき出しに口八丁手八丁の答弁を行った。そのために恥ずかしげもなく嘘を言う。それを「度胸がある」と言ってしまうことには抵抗があるが、生まれ育ちがそうさせるのか、安倍前総理は何をやるのも物おじしない。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:4月27日(土)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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