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一国の総理がチンドン屋の真似までしたから五輪功労の受賞なのか

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(547)

霜月某日

 一国の総理がチンドン屋の真似までしたので五輪功労章を贈られたのか。16日に安倍前総理がIOC(国際五輪委員会)のバッハ会長から五輪オーダー(功労賞)を贈られたというニュースを聞きフーテンの頭に浮かんだのは、リオデジャネイロ五輪の閉会式でスーパーマリオの格好で登場した安倍前総理の姿である。

 リオ五輪の閉会式に安倍前総理がマリオの格好で登場する演出は極秘にされ誰も知らなかった。そのために安倍前総理は0泊4日の強行スケジュールで地球の裏側のブラジルまで出向いた。この発案者は森喜朗東京五輪組織委会長である。裏側には生臭い政治のどろどろがある。

 リオ五輪の閉会式に次の開催地の代表として出席するのは東京都知事の役割だった。五輪旗を引き継いでそれを大きく振り、次の開催地が東京であることをアピールする。小池百合子東京都知事は自分が主役であるはずの閉会式に安倍前総理が登場することを知らなかった。

 主役の座を奪われた小池氏は「閉会式では安倍総理が大活躍されて、これはひょっとして、もっと国が応援してくださるのかな、その意思表示かなと思う次第でございます」と嫌味たっぷりな反応を示したが、森喜朗氏や安倍前総理の思惑は別のところにあった。

 リオ五輪開催直前の日本では、舛添要一東京都知事の金銭スキャンダルが世間の注目を集め、しかし本人はリオ五輪の閉会式に出席するまでは辞めない態度を貫いていた。東京五輪委の武藤敏郎事務総長によれば、森会長が安倍総理にマリオの役をやるよう説得したのはちょうどその6月だという。

 森氏は舛添都知事を辞めさせ、後任に丸川珠代衆議院議員を充てようと考えていたが、リオ五輪前に都知事選挙を行えば、その都知事の任期は東京五輪前に終わってしまう。そのため舛添知事が閉会式に出るのを黙認し、代わりに閉会式の主役の座を安倍総理が奪ってしまうシナリオを書いた。

 舛添氏はそのシナリオを知るはずもなく、世論にぼこぼこにされながらも閉会式に出るまで辞めないことを安倍総理も森会長も了解していると思っていた。ところがそのシナリオが公明党によって覆される。

 東京都議会議員選挙を党にとって最重要と考える公明党は、次の年に行われる都議会選挙への影響を懸念し、舛添都知事を早く辞めさせ、増田寛也氏を都知事候補に担ぐシナリオを言い出す。

 その裏には菅官房長官がいた。つまり森氏と安倍総理の間で作られたシナリオが菅官房長官と公明党と二階幹事長によって修正された。今回のコロナ対策でも、安倍、麻生、岸田氏らが主張した30万円給付を、二階、公明党、そして表には出なかったが菅官房長官らが一律10万円給付に変更したのと構図がよく似ている。

 はしごを外された舛添都知事は6月15日に辞任、7月31日に都知事選挙が行われることになる。そこに殴り込みをかけたのが安倍前総理に冷遇され不満を募らせていた小池百合子氏である。電撃的な造反劇は都民の支持を集め、小池氏は自民党、民進党、共産党支持者らからも票を奪い、リオ五輪直前に東京都知事に就任した。

 森氏と気脈を通じる自民党東京都連は完敗し、一時はこの造反劇に協力した政治家の除名方針を決定するが、それも菅官房長官、公明党、二階幹事長によって押さえつけられた。

 舛添都知事をリオ五輪に出席させ、代わりに主役の座を安倍マリオが務めるシナリオは、同時に東京五輪開催の2020年まで安倍総理が総理の座にい続けるシナリオをも意味する。二階幹事長はそれを見抜いていて「0泊4日のブラジル行きは、任期を延長したい意欲の表れだ」と周囲に語った。  

 だから自らが主導して党則を変え、「安倍3選」の流れを作り出し、それによって自らの権力基盤を強め、菅官房長官をポスト安倍に押し上げる時期を狙ったのである。安倍前総理がチンドン屋の真似までしたのは、長期政権を狙うための布石だが、それを利用して自らの権力基盤を強化した二階幹事長は、中曽根政権時代の金丸幹事長とそっくりだ。

 金丸氏は中曽根総理が任期延長の意欲を持っていることを利用し、それに協力することで自らの権力基盤を強め、その力で逆に中曽根総理の任期延長を1年に押しとどめ、竹下登氏への権力移譲、すなわち金丸氏が従来から主張してきた「世代交代」につなげた。

 しかし安倍前総理は2020年にコロナの直撃を受けた。そのため東京五輪開催も、岸田前政調会長への「禅譲」も、その後の憲法改正のシナリオも、自らの3度目の総理就任も、すべての予定が狂い、病気を理由に退陣せざるを得なくなった。

 そして今や、森会長の2年延期進言を押し切って、来年夏までの1年延期にしたことが妥当だったかどうかが問われている。欧州では「第3波が到来した」と言われ、各国は規制を強化せざるを得なくなった。日本も同様である。そして米国ではコロナ対策強化を公約に掲げたバイデン大統領が来年1月に就任する。そうした状況下で来年夏に本当に東京五輪は開催できるのか。

 15日に来日したIOCのバッハ会長は菅総理と会談し、来年夏の開催実現に向けて緊密に連携していく方針で一致した。またバッハ会長は無観客ではなく「観客を入れた五輪にする」と語ったが、具体的にどうするか基準は示さなかった。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:4月27日(土)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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