合流した野党は本物の野党になることが出来るのか

フーテン老人世直し録(537)

長月某日

 9月15日に立憲民主党と国民民主党、それに無所属の議員が合流して新立憲民主党が誕生した。新党には150名の議員が集まり、衆議院では100名を超え11年前に政権交代を果たした旧民主党と同規模になったという。

 それをもって1955年に左派と右派に分かれていた社会党が合流し、それに刺激されて保守陣営も自由党と民主党が一つになり、自由民主党と日本社会党の二大政党が対峙した「55年体制」と似てきたと評価する向きもある。「2020年体制」の始まりという訳だ。

 しかしこれまでのところ合流した野党が何を軸に自民党と対峙しようとするのか、その具体的な構想が語られていない。枝野代表は23日に外国特派員協会で記者会見を行い、「自然エネルギー立国」を掲げたが、具体的にどのような国家を目指し、どのような手順でどう進めていくかのプランは示さない。

 また「かつての民主党は間違っていた」と言い、「これからは自民党の新自由主義と明確に対峙していく」と言ったが、それも具体的に何を指すのか、どこがどう間違っていたのかが分からない。合流は昔の民主党に戻るだけと批判されるのを恐れ、昔の民主党を間違っていたと言って差別化したかっただけのように思えた。

 政権交代した時の民主党は「国民の生活が第一」をスローガンに掲げていた。そのスローガンで参議院選挙に勝ち、衆参「ねじれ」を作って、自民党の安倍政権が国際公約した米軍に対する海上自衛隊の給油活動を継続できないようにした。そのため安倍総理は退陣し、「ねじれ」があるからその後の自民党政権もガタガタだった。そして09年に旧民主党は政権交代に成功した。

 それは小泉政権の新自由主義政策に対する明確な対立軸を示したことの結果である。従って旧民主党が「国民の生活が第一」を掲げたことは間違ってはいなかったと思う。自民党の「小さな政府」に対し旧民主党は「大きな政府」を対立軸にしたのである。

 そして旧民主党は「4年間は消費増税をやらない」と公約し、少子化対策として「子供手当」を打ち出した。自民党にはこれが最も痛かった。だから「バラマキ」と猛烈に批判する。「財源はどうする」と追及されると小沢氏は、行政の二重構造を崩して無駄を省き、「霞が関の埋蔵金」を掘り出すと主張した。

 日本の官僚は霞が関にいるだけではない。地方に出先機関があり、そこにいる大勢の官僚が地方政府のやるべき仕事を先んじて行う。それをやめさせ地方に権限を与えれば財源は出てくるという考えだった。しかしこれが明治以来160年間にわたり日本を支配してきた官僚機構の反発を呼ぶ。

 小沢氏は霞が関の守護神である検察の標的となった。東京地検特捜部によって秘書が相次いで逮捕され、小沢氏は代表辞任を余儀なくされた。副代表の石井一氏も「郵便不正事件」で大阪地検特捜部の標的となるが、こちらはアリバイがあって摘発を免れ、厚労省の村木厚子氏がでっち上げ逮捕され、でっち上げした検察は証拠改ざんを行って信用を失墜させた。

 フーテンは戦後初の政権交代を官僚機構と自民党が恐れ、意図的な検察捜査を行ったと見たが、旧民主党はこれと戦うことなく、自民党からの「バラマキ」攻撃にも撥ねかえす姿勢を見せなかった。そしてあろうことか「消費増税をしない」という国民に対する選挙公約を裏切ったのである。

 自民党が「消費税10%」を党の方針にすると、菅直人政権はそれを2010年の参議院選挙で民主党の公約にした。前年の衆議院選挙の公約と真逆の公約を掲げたのだから国民は驚き裏切られたと思った。

 参議院選挙で民主党は大敗し「ねじれ」が生まれた。責任を取って総理は退陣すべきである。ところが菅総理は続投を表明した。戦後の政治史で参議院選挙に負けて責任を取らなかったのは第一次安倍政権の安倍総理と菅総理の二人だけだ。

 自民党は二階国対委員長らが政略を仕組んで安倍総理が自ら辞めるようシナリオを書いた。しかし旧民主党にはそういう芸当が出来る政治のプロがいない。死に体の菅政権は自分が死に体であることに気づかないのか政権を継続させた。

 その菅政権を東日本大震災が襲う。この大災害で死に体だった菅政権が生き延びる。日本にとってこんな悲劇はないとフーテンは思った。その時防災服姿で毎日会見を行ったのが枝野幸男官房長官である。

 外国特派員協会で枝野氏は「防災服姿の自分は評価されている自負がある」と語ったが、フーテンはパニックを恐れて正確な情報を出さなかった官房長官が評価されているとは思えない。フーテンと枝野氏の認識のずれがこれほど大きいことに大変驚いた。

 そして合流新党の結成を1955年の左右社会党の合流と重ねる考えにも抵抗がある。「55年体制」の社会党と共産党は野党を自称していたが、本物の野党ではなかった。野党には政府与党を監視し批判する役割はあるが、それだけでは野党でない。権力を奪って国民に約束した自分たちの構想を実現するのが野党である。

 ところが「55年体制」の社会党は選挙で過半数を超える候補者を擁立しなかった。全員が当選しても政権交代は起きない。一方の共産党は全選挙区に候補者を立て社会党の足を引っ張る。これでは政権交代など起きるはずがない。つまり自民党を万年与党にしていたのは社会党と共産党なのだ。

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。89年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾のお知らせ」10月25日(日)18時~20時 場所:東京都大田区上池台1-21-5スナック「兎」(03-3727-2806) 東急池上線長原駅から徒歩5分■参加費:1500円 ■申込先: maruyamase@securo-japan.com に住所氏名明記で

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