観光立国官房長官VSコロナと戦う女性都知事

フーテン老人世直し録(523)

文月某日

 「Go To トラベル」の対象から東京都発着の旅行を除外する方針は、感染防止対策と経済の底上げの両立を図るためと説明されるが、フーテンの目には「観光立国」路線を主導してきた菅官房長官と、「コロナと戦う女」を演じたい小池都知事が衝突した結果に見える。

 その経過の中で安倍総理の存在感が希薄だったことから、これはポスト安倍を狙う者同士の政局の一つと見ることもできる。前に書いたように、小池氏は都知事選挙で圧勝はしたがその前途には困難が待ち受けている。直面する感染症対策と来年の東京五輪開催はいずれも国政と連動して立ち向かわなければ財政的にできないからだ。

 一方、今回の都知事選挙は自公が小池氏を事実上支援する形を取ったが、しかし都議会議員補欠選挙では、小池氏が会長を務める都民ファーストの会の候補を自公が協力して落選させた。その結果、都議会での自公の議席数は都民ファーストの会の議席数に1議席差まで迫った。

 来年7月の都議会議員選挙で都民ファーストの会が議席数を減らせば、小池氏は都知事としての存在感を失い無力化する。これまで公明党は小池都政に協力してきたが、自公が都議会で圧倒的優位に立てばその限りではない。その小池包囲網の裏に菅官房長官の存在がある。

 つまり公明党の赤羽一嘉国土交通大臣が言い出したとされる「Go To トラベル」を巡る急転直下の東京外しは、菅官房長官による小池潰しが始まったと見るべきだ。そしてそれを安倍総理が了承したということだ。

 これまでフーテンは「安倍―小池―二階」の三角関係をブログに書いてきた。小池氏と二階氏は共に小沢一郎氏の下で細川政権を作り、その後小沢氏と袂を分かち保守党を経て自民党に迎えられた。その二人が第一次安倍政権では安倍総理のぶざまな退陣劇のきっかけを作る役回りを演じた。

 第二次安倍政権が誕生すると、安倍総理は徹底して小池氏を冷遇し、一方の二階氏には枢要ポストを与えて敵に回らぬよう配慮した。冷遇に耐えかねた小池氏は自民党を飛び出す形で都知事選挙に立候補、菅官房長官が担いだ増田寛也氏を打ち破る。以来「菅―小池」は敵対関係である。

 都知事になると小池氏は、豊洲市場移転延期や東京五輪会場の変更などのパフォーマンスで人気を集め、2017年の都議会議員選挙で自らが作った都民ファーストの会を第一党に押し上げ、自民党を大惨敗させた。さらに「希望の党」を立ち上げて国政を狙い、安倍政権を震撼とさせる。

 ところが小池氏が手を付けた諸々の施策はすべてうまくいかず、スポットライトを浴びる機会にも恵まれなくなる。それが久々に注目されたのは新型コロナウイルスのパンデミックで東京五輪の開催が危うくなった今年3月だ。旧敵である安倍総理と会談し、東京五輪の延期を実現させるまで「休戦」することを約束した。

 「モリカケ疑惑」から「桜を見る会」と、相次ぐスキャンダルで息も絶え絶えの安倍総理はこれに飛びつく。東京五輪中止は安倍総理だけでなく都知事再選を目指す小池氏にとっても致命傷だ。二人は東京五輪延期で運命共同体となる。

 一方、第二次安倍政権で官房長官となった菅氏は「貿易立国」に代わる「観光立国」路線の陰のキーマンになった。そのための最大の柱は東京五輪招致である。週刊新潮の報道によれば、招致を勝ち取るための資金をパチンコ機器メーカーに出させたのは菅氏だという。

 そのパチンコ機器メーカーが菅氏の言うことを聞いたのは「カジノ利権」が目当てだった。「カジノ誘致」を陰で主導したのも菅氏である。「カジノ」を沖縄と北海道に誘致するため、両知事選の応援に自らが乗り出し、沖縄では野党に敗れたが北海道では鈴木知事を誕生させた。

 東京地検特捜部が「カジノ疑惑」で秋元司衆議院議員を逮捕した時に疑惑の現場となったのは沖縄と北海道である。菅氏が力を入れた知事選と一致する。「観光立国」の立場に立てば、東京五輪とカジノ誘致で外国人を呼び込み、インバウンド効果で観光業を潤すのが将来の日本のあるべき姿なのだ。

 ところが新型コロナウイルスのパンデミックが世界を襲う。中国から感染が始まった時、日本が周辺諸国のように水際対策を取らなかったのは、「観光立国」に目がくらんでいたからだが、それが今でも続いている。感染が収束していないのに「Go To トラベル」をやるのはその証拠である。そしてその陰には菅氏がいる。

 小池氏のパフォーマンスの核心にあるのは「戦う女」だ。それが女性を中心に同情を誘うという。「戦う女」の前に現れた新型コロナは従って格好の相手だった。選挙戦はだから防災服姿で押し通し、コロナの危機を煽るのが演説の代わりだった。そしてフーテンが予想したように投票日の直前から感染者数を増大させ、有権者の目をコロナにくぎ付けさせた。

 感染者数の増大は都民に恐怖を与えるが、感染者増大は検査数を増やしたからだと説明すれば、都の財政に負担をかけ、また都民に痛みを与える自粛や休業はさせなくて済む。小池氏はそのやり方を押し通そうとしたが、そこに菅官房長官が付け込んだ。

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。89年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の第一回日時:9月27日(日)午後3時から4時半まで。ご自宅のパソコンかスマホでご覧いただけます。日本と世界の動きを講義し,質問を受け付けます。会員制ですので https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。今入会なら会費2回分無料。録画でも視聴できます。

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