歴史的危機の中で世界に例のない会期制を盾に国会を閉じようとする安倍政権

フーテン老人世直し録(516)

水無月某日

 日本の国会には世界には見られない独特の制度がある。それが「会期制度」だ。日本国憲法は1年に1度通常国会を開くことを決めていて、その会期は国会法によって150日間と定められている。

 今年の通常国会は1月20日に召集されたから会期末は来週の6月17日である。新型コロナウイルスがなければ7月23日から東京五輪が開かれる予定だったから、今年の通常国会は会期延長をしないことを前提に国会に提出した法案の数も少なかった。

 しかし新型コロナウイルスの大流行で今年初めに考えられていたことはすべて吹き飛んだ。世界各国はコロナとの戦いをどう進めるか、そしてコロナ後の世界にどう生き残りをかけるか「未知への挑戦」を迫られている。

 そうした時に東京五輪を前提に6月17日で国会を閉じる考えも前提と共に吹き飛んだはずだ。我々は改めてコロナとの戦いとは何か、コロナ後の世界とは何かを国民を巻き込んで議論しなければならない時を迎えている。

 ところが国会では野党が会期延長を求めているのに、政府与党は延長せずに国会を閉じる構えだ。東京五輪を前提に少なく提出された法案の目途が立ったからというのが表向きの理由である。

 しかしこの姿勢は従来の自民党の考え方とは相容れない。かつての自民党は「会期制度」に批判的で、1年中国会を開いて議論する「通年国会」を主張していた。一方の社会党や共産党など野党は会期制を支持し、150日間で国会を閉めろと主張していた。

 日本の「会期制度」では、会期が終わるとそれまで審議されてきた法案は原則廃案になり、次の国会では一から出し直す必要がある。そのため野党は審議未了廃案に追い込むため国会で物理的に抵抗し、時間を稼ぐ戦術を採った。審議拒否や牛歩戦術などはそのためだ。

 一方の自民党は野党の物理的抵抗に業を煮やし、1年間は国会を閉じない「通年国会」を主張した。田中角栄元総理などは、国会議員が毎月歳費をもらっているのに、1年中国会を開いていないのはおかしいと主張していた。

 それが現在では与野党の主張が真逆になった。それは自民党が変質したというより安倍総理の誕生で変質したと言うべきだ。とにかくこの総理は国会が嫌いである。

 日本国憲法では、衆参いずれかの4分の1の議員の要求があれば、内閣は臨時国会を召集しなければならないと定めている。しかし安倍総理は森友問題で揺れた2017年の通常国会を延長なしで6月に閉めた後、衆参双方の4分の1の議員が要求した臨時国会の召集を9月末まで遅らせ、召集日に衆議院を冒頭解散して審議を吹き消した。

 しかし世界で「会期制度」を採用する国はない。例えば米国は下院議員が選挙で選ばれた時から次の選挙までを1つの会期と考える。下院議員選挙は2年ごとなので会期は2年間となる。夏休みや冬休みはあるが、議会は常に開いている。何が起きても対応できる。合理的な考え方だとフーテンは思う。

 英国議会は1年間が1つの会期だ。立憲君主制の国だからエリザベス女王が議会を招集するが、その儀式は1年に1度行われる。昔の自民党が主張していた「通年国会」はこれに当たる。だが英国と同じ議院内閣制を採用している日本が「会期制」を導入しているのは戦前の大日本帝国議会の名残りだという。

 戦前の大日本帝国議会は憲法で通常国会の会期を3か月と定めていた。臨時国会もあったが数日程度で頻度も少なかった。つまり戦前の国会議員はほとんど国会に行くことがなかった。戦前の政治は薩長藩閥の官僚が議会を拠り所とする政党政治家を圧倒した歴史だから、国会を開かせたくなかった事情があったのだろう。

 ただし国民から選挙で選ばれた衆議院議員は、国会の閉会中も行政府を監督する必要があるとして「常置委員会」を設立する構想を持っていた。それがあれば会期延長と同じ効果を持ち、議会の政府に対する力が強まる。しかしこれには世襲の貴族院が反対し、法案は成立することなく終わった。

 戦後に日本国憲法を作る時、この「常置委員会」を誕生させようとする動きもあったが、GHQに受け入れられなかった。また当時の日本社会党は国会を無休にする構想を持っていたがそれも実現しなかった。そして3か月という期間だけは150日間に延長された。

 いずれにしても「会期制度」は世界では特異な、そしてどこに合理性があるのか分からない制度である。行政府の官僚にとっては監視の目を逃れるメリットがある。しかし政党政治家にとっては自らの活躍の場を奪われる制度でしかない。ただ安倍総理のように官僚との「二人羽織」で政権を維持する政治家には好都合なのだろう。

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。89年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾のお知らせ」8月2日(日)18時~20時 場所:東京都大田区上池台1-21-5スナック「兎」(03-3727-2806) 東急池上線長原駅から徒歩5分■参加費:1500円 ■申込先:maruyamase@securo-japan.comに住所氏名明記で

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