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安倍総理がやるべきは法改正のパフォーマンスより消費増税見直しだ

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(497)

弥生某日

 安倍総理は4日野党党首と個別に会談し、新型コロナウイルス拡大に備え、民主党政権が8年前に成立させた「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の改正案を、来週の国会に提出し成立させることへの協力を求めた。

 日本維新の会は賛成したが、立憲民主党と国民民主党、それに社民党は「協力はするが、現行法で対応は可能」、共産党は「現行法で対応可能なので法改正の必要なし」との立場を表明した。

 現行の特別措置法でも総理は期間と区域を定めて「緊急事態」を宣言することが出来る。また「新型インフルエンザ等」の中に新型コロナウイルスも含まれると解釈することも可能と思うが、安倍総理は法改正にこだわり、来週10日に閣議決定し、来週中の成立を図ることになった。

 しかし現実には、安倍総理がスポーツ文化イベントの自粛や小中高校と特別支援学校の全国一斉休校を要請し、法律に基づかないとはいえ国民は事実上の「緊急事態」と捉え、その要請を受け入れている。スポーツの無観客試合や相次ぐ音楽イベント中止はそれを物語る。屋上屋を重ねる法改正に何の意味があるのかフーテンには理解できない。

 国際社会は、感染源の中国より韓国、イタリア、イランと並び日本にこそ懸念があるという見方を強めており、そんな中で日本がわざわざ法改正してまで「緊急事態」を宣言すれば、それこそ「危ない国」のレッテルを自分で貼り、「東京五輪」を自ら遠ざけることになる。

 従って法改正をしても安倍総理に「緊急事態宣言」が出来るとフーテンは思わない。「緊急事態宣言」を出すべき時期はとうの昔に過ぎ、それを逸してしまった以上、自分の手で終息させるというパフォーマンスにこだわればむしろ日本を危うくする可能性がある。

 そもそも今回の事態を招いた最大の責任は中国の習近平政権にある。例年決まって3月5日に開催する全人代を前に、地方の代表者会議を強行するため、新型コロナウイルス感染状況を軽視した可能性があるからだ。

 中国湖北省武漢市で新型ウイルスの感染が発生したのは昨年の11月下旬、しかし世界保健機関(WHO)に報告されたのは12月31日だった。集団感染が急増する中、中国政府は1月23日に武漢市を封鎖するが、WHOはその日に緊急事態宣言を「時期尚早」として見送る。中国政府がWHOに圧力をかけたとの見方が流れた。

 遠藤誉筑波大名誉教授によれば、中国政府は「封鎖」を予告してから8時間後に実行したため、富裕層を中心に数十万人が武漢市から脱出したという。翌24日から31日までが中国の正月に当たる「春節」で、多くの中国人が海外に渡航したとみられる。

 WHOが緊急事態宣言を出したのは「春節」が終わる1月31日、安倍総理が中国湖北省に滞在歴のある外国人に入国拒否を表明したのもその日だった。1月に日本を訪れた中国人は92万4800人と言われる。

 一方で1月29日から日本政府は、武漢に住む日本人を帰国させるためチャーター機を飛ばすことにし、帰国者をいったん隔離して検査し、また2月4日横浜に寄港したダイアモンドプリンセス号の乗客も隔離して検疫したが、しかしそれまでに日本を訪れた中国人観光客は前年を上回る勢いだったのである。

 従って日本の問題は感染ルートが不明であることだ。それが国際社会から「危ない国」と見られ、国民に不安をもたらす原因である。そしてそこには安倍政権のインバウンド効果を偏重する経済政策が横たわっている。かつての日本は貿易立国として輸出産業に力を注いだ。

 しかしそれは日米貿易摩擦を生み、冷戦が終わってからも日米同盟を重視するあまり、日本は対米黒字を縮小する方向を採らざるを得ず、それに代わる方法として観光客を呼び込むインバウンド効果に頼るようになった。特に中国人観光客の増大を狙う様々な取り組みが重視されるようになった。

 安倍総理の頭には今年の最重要課題として「習近平国賓訪日」と「東京五輪」しかないと前回のブログに書いたのも、その流れの中にある。安倍政権がカジノに力を入れるのもその流れだ。それが新型コロナウイルスの発生によって浮き彫りとなり、また裏目になった。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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