ものみな始まる子年には現職総理が退陣するジンクスがある

フーテン老人世直し録(485)

睦月某日

 今年は「戦争」の年になる。新年早々フーテンはそう思った。米国のトランプ大統領がイランの革命防衛隊司令官暗殺の指令を下し、1月3日未明イラクの国際空港に到着したソレイマニ司令官をドローン攻撃で殺害したと発表したからだ。

 それ以降の米メディアは「米イラン戦争」の話でもちきりである。なぜならソレイマニ司令官は米国では中東地域でテロ組織を操る「テロの親玉」だが、イランからすれば最高指導者ハメネイ師を支える「英雄」だから、このドローン攻撃は「宣戦布告」に等しく、イランは必ず軍事報復に踏み切る。「第三次世界大戦の始まり」と言うメディアもある。

 米メディアではなぜトランプが暗殺を指令したのかが注目された。トランプの選挙公約は「米軍撤退」である。泥沼に陥ったシリアからもアフガニスタンからも米軍を撤退させようとしてきたし、北朝鮮の独裁者金正恩と「ラブレター」を交わして在韓米軍撤退を匂わせたこともある。

 サウジアラビアの石油施設がイランからと思われるドローン攻撃を受けた時も、それに対抗するドローン攻撃を直前になって中止させた。理由は人的損傷を避けるためだったと言う。それがなぜここにきて「開戦」を決断したかのような行動に出たのか。

 それが弾劾問題から国民の目をそらせ、今年の大統領選挙に有利に作用する方法なのか。だとすればトランプの思考回路がますますわからない。大統領選挙の年に戦争に打って出る大統領候補者などいない。しかも相手は強固な信念で「反米」を唱える中東の大国である。

 そのイランは米国主導の経済制裁によって国民の反政府感情は高まり、デモが頻発するなど政府にとって困る状況が続いてきた。それがこの司令官殺害によってイラン国民は「反米」で一体化する。さらにトランプはイランが軍事報復に踏み切れば直ちに52の目標を攻撃すると脅し、その中には文化遺産も含まれるとツイッターに書き込んだ。

 52はかつて「ホメイニ革命」でイランに人質にされた米国人の数を意味する子供じみた発想で、文化遺産の破壊は「戦争犯罪」に当たる。そのため米メディアはトランプの思考を理解しかねている。

 ついにはトランプに他の選択肢を選ばせるため、最も極端な方法を紛れ込ませたのをトランプが選んでしまい、政府にとっても「驚き」だったという報道まで出てきた。こうなるとカルロス・ゴーンに海外逃亡を許したどこかの間抜けな国と同じで、米国も国家の体をなしていないという話になる。

 そしてフーテンは日本経済の生命線である中東地域に「戦争」が起ころうとする時に、自分たちには関係ないと言わんばかり、正月用の馬鹿番組を予定通り放送しているテレビを見て愕然とする。この3日間の米国と日本のテレビの内容の差は「何コレ?」である。

 フーテンはソレイマニ司令官殺害の報を聞いて、真っ先に年末に閣議決定された海上自衛隊の中東派遣を思った。「調査・研究」を目的とすることから国会で議論されることもなく、「調査・研究」が目的であるから充分な武装をせずに派遣される海上自衛隊は大丈夫なのか。戦争に巻き込まれることにならないか。それを思った。

 自衛隊内では情報収集と分析を行い、当然ながら改めて任務の再確認を行っていると思う。だが派遣を命じた政治家たちはどうしているか。みな正月休みを取っているらしく会議らしい会議が開かれたという報道はない。

 安倍総理の日程を見ると、ソレイマニ司令官が殺害された3日は六本木の「グランドハイアット東京」の日本料理店「旬房」で昭恵夫人と昼食をとり、午後は一緒に映画「決算!忠臣蔵」を観る。午後3時2分に報道各社のインタビューを受けて、4時7分に富ヶ谷の私邸に戻ったとある。インタビューは殺害の一報を受けて行われたものだろうと思ったら映画の感想を聞いただけだった。

 この日、米メディアは3500人規模の米軍が中東地域に増派されると報じ、国連のグテーレス事務総長は「世界には新たな湾岸戦争をする余裕はない」と自制を促した。米国のポンペイオ国務長官は英国、フランス、ロシア、サウジアラビア、中国などの要人と電話会談する一方、中国とロシアの外相はイラン外相と電話会談し、米国の力の乱用と米国を非難した。

 翌4日、安倍総理は午前8時から袖ケ浦の「カメリアゴルフカントリークラブ」で昭恵夫人の父親らとゴルフを楽しむ。そこでようやく記者団から中東情勢について聞かれ、「今月、中東を訪れたい」とだけ述べた。これまで米国とイランの仲介役を務めたいと積極的な姿勢を見せてきたが、一気にトーンダウンして慎重姿勢に転じた。

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。89年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾のお知らせ」2月25日(火)19時~21時 場所:東京都大田区上池台1-21-5スナック「兎」(03-3727-2806) 東急池上線長原駅から徒歩5分■参加費:1500円 ■申込先:agoto@K6.dion.ne.jpに住所氏名明記で

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