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小泉進次郎の結婚報告には政争の匂いがプンプンする

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(456)

葉月某日

 8月7日の午後のワイドショーの時間帯で自民党の小泉進次郎衆議院議員とタレントの滝川クリステルさんの結婚が報じられた。二人は菅官房長官に結婚の報告をするため官邸を訪れ、そこに常駐する政治部の番記者たちによってその場で記者会見が行われた。

 二人に対するインタビューは一斉にワイドショーで中継され、進次郎議員は結婚を決意した理由を「政治という戦場で常に鎧を着ている自分が、二人でいるときは鎧を脱いで政治家ではなく人間小泉進次郎になれるから」と言い、クリステルさんは妊娠しており来年年明けに子供が生まれることも明らかにした。

 それを見てフーテンの頭には様々な疑問が渦巻いた。なぜ結婚の報告を官邸という場で、しかも勤務中の官房長官に対して行ったのか。結婚はあくまでも私事であり、普通のサラリーマンならお世話になっている上司に報告する場合、休日に二人で自宅を訪ねて行うのが普通である。

 仕事場で報告するのなら自分ひとりで行い、そこに結婚相手を同行させることはない。仕事中にそんなことをすれば周囲から顰蹙を買うのが普通だ。しかし進次郎議員にそうした常識はなく、クリステルさんも公私の別が分かる人間ではないらしい。二人は記者たちが常駐する権力機構の中枢に自分たちから堂々と乗り込んで結婚報告した。

 しかも興味深かったのは訪ねた相手が官邸の主である安倍総理ではなく、女房役の菅官房長官だったことである。菅氏から「ちょうど総理もおられるから」と促されて安倍総理にも報告したようだが、安倍総理はあくまでも「ついで」だった。

 さらなる疑問はタイミングである。結婚を決意したのがいつかを聞きそびれたが、妊娠したのは3月か4月と思われるから、それで結婚する気になったのならそれ以降はいつでも発表できたはずだ。それを8月7日まで遅らせたのはなぜか。

 統一地方選挙と参議院選挙が終わってからと思ったのか。しかし選挙前に発表していれば進次郎議員の選挙応援には政治に関心のない若い女性も駆け付け、「れいわ新選組」の山本太郎代表とは別のフィーバーが巻き起こった可能性もある。しかしそれをしなかった。

 進次郎議員は6日の広島と9日の長崎原爆記念日を意識したと語ったが、参院選後で8月6日以前に発表する選択肢だってあったはずだ。そう思っていると10日の新聞の朝刊に『月刊文芸春秋9月号』の広告が掲載され、菅官房長官と小泉進次郎議員の対談が記事になっていることを知った。タイトルは「令和の日本政治を語ろう」だ。これで疑問のかなりが氷解した。

 記事はまだ読んでいないが想像はつく。菅官房長官が小泉進次郎の後ろ盾となり、これから総理総裁を目指すための「戦闘宣言第一弾」ということだろう。その記事が出るタイミングに合わせて、進次郎議員は総理官邸に菅官房長官を訪ね、メディアが注目するように滝川クリステルさんを同行した。計算づくの結婚発表ということだ。

 そう考えればこれは進次郎議員の戦闘宣言であると同時に、菅官房長官にとってもキングメーカーになるための戦闘宣言という二つの意味がある。その戦闘宣言発表のタイミングまでクリステルさんとの結婚発表を遅らせたことになる。

 参議院選挙での最大の注目点は広島選挙区で自民党の溝手顕正元参議院会長が落選したことである。溝手氏は岸田派の大幹部で、安倍総理から禅譲を狙う岸田政調会長にとっておひざ元の広島で派閥の大幹部を落選させたことは致命的な失点となる。これで安倍総理の禅譲シナリオは崩れたと見る向きもある。

 禅譲シナリオとは安倍総理が余力を残しながら岸田氏に総理を譲り、岸田総理に憲法改正の露払いをさせた後に再び総理に返り咲き、自らの手で憲法改正を成し遂げるというものだ。かつて中曽根総理も竹下登氏に禅譲して消費増税をやらせ、支持率が下がったところでもう一度自分が総理をやろうと考えたことがある。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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