令和初の国賓おもてなしは「安倍―トランプ選挙互助会」の発動だった

フーテン老人世直し録(442)

皐月某日

 日米首脳会談が行われた27日の夕刊各紙は、毎日新聞を除いてみな一面トップに「8月妥結」の見出しを掲げた。トランプ大統領が日米貿易交渉の妥結の時期を「8月」と明言したからである。(毎日新聞だけは安倍総理のイラン訪問が見出しになった)

 この「貿易交渉8月妥結」が今回の安倍総理による「おもてなし外交」の本質のすべてだとフーテンは思う。26日の朝から晩まで、ゴルフ、大相撲観戦、炉端焼きとトランプを接待漬けにし、27日には新天皇が最初にもてなす国賓の栄誉をトランプに与えた目的は、貿易交渉の妥結を選挙後にずらしてもらうことにあったと思うからである。

 つまり安倍総理は自分の選挙の勝利のためにトランプの協力を仰いだ。見返りは当然トランプの大統領再選に全面協力することである。この訪日の目的は、言ってみれば「安倍―トランプ選挙互助会」の結成と発動のためだった。そしてディールの第一弾として農業が対象にされた。

 なぜならトランプは米国の農民や農業団体から突き上げを食っている。中国との貿易戦争に踏み切ったトランプは、強硬策を次々打ち出せば中国が恐怖して後ろに下がると思ったが、案に相違して中国は下がらず、中国製品に高関税をかけられた報復として米国の農作物に高関税がかけられた。その不満が米国の農業界にある。

 我々は忘れがちだが、そもそも米国は肥沃な土地を持つ農業大国で、世界中に農作物を輸出して豊かになった。しかしかつてお得意さんだった欧州各国はEUを作って域内関税を撤廃し自給自足できるようになる。米国の農作物は欧州で売れなくなり、米国は他に販路を広げなければならなくなった。

 その最大マーケットの中国に農作物が輸出できなくなれば事態は深刻である。大統領選挙に大きな影響を与える。そこでトランプは脅せば屈する日本に目を付けたと思う。日本政府はTPPで妥結した水準を死守すると言うが、そんな交渉の仕方では最初からTPPの水準までは認めると言っているようなもので、米国からすればもう一押しで崩れるように見える。

 日本に早期妥結を飲ませようとするトランプは前回の4月の日米首脳会談で、「5月の訪日の時に妥結したい」と言って安倍総理を慌てさせた。7月の選挙前に米国の言いなりになれば選挙にマイナスの影響が出るのは必至である。おそらく安倍総理は交渉妥結を選挙後に遅らせることをトランプにお願いした。

 交渉というのはお願いすれば必ず見返りが必要になる。安倍総理はおいしい見返りを用意しなければならなくなった。そのおいしい見返りを26日にゴルフ場でそっとトランプに囁いた。するとトランプはすぐさまそれをツイッターに書き込む。午後1時39分に「貿易交渉で前進があった。7月の選挙の終わるのを待って、大きな数字を期待する」とツイートしたのだから、貿易交渉は交渉をする前から米国の勝利であることが分かってしまった。

 外交交渉の内容が妥結前に公表されることはないのが普通である。しかしトランプは政治家ではなく商売人だからその常識は通用しない。8月に大きな成果が得られることをツイッターで明らかにしてしまえば、安倍総理はそれを無視できない。言いなりになるしかない。だからトランプは夜の炉端焼き屋で「今日は生産的だった」と笑みを浮かべた。

 かつて安倍総理は「農業は国の基。美しい田園風景を守るため万全の処置を講ずる」と語った。TPPで大筋合意した時である。農業団体の反発を抑えるにはそう言わざるを得なかった。しかし安倍総理が言うまでもなく「農業が国の基」であることは間違いない。食糧を自給できなければ他国の奴隷になるしかなくなる恐れがあるからである。

 ところが日本の食糧自給率は韓国と並び先進国最低で40%を切る。あの山国のスイスでさえ60%の自給率があるというのにである。フーテンはかつて米国の元農務次官に米国の農業戦略を取材したことがある。その時に聞かされた話は衝撃的なものだった。

 我々は小学校でコッペパンと脱脂粉乳の給食を食べた世代だが、それは日本が戦争で焼け野原となり、食糧難の時代に米国が好意で小麦と脱脂粉乳を提供してくれたとばかり思っていた。ところが元農務次官の話は違った。

 米国は日本人をコメからパン食に変え、米国の農作物に依存させようと長期戦略を立て、小麦と脱脂粉乳を提供したというのである。子供の頃に覚えた味は大人になっても忘れない。だから学校給食でパンを食べさせたというのだ。そしてそれは見事に成功したと元農務次官は言った。

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。89年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」次回日時:6月26日(土)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。皆様から寄せられた質問に答えます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。現在令和3年12月までの会員を募集中です。

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