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猪瀬、舛添、竹田と邪魔者を次々に消す「アベノミクス」4本目の矢

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(429)

弥生某日

 竹田恒和JOC会長が18日の理事会で6月の任期切れに伴い退任する考えを表明した。表向きは世代交代を図るためというが、誰もその説明を鵜呑みにする者はいない。フランスの捜査当局が東京五輪招致を巡り買収疑惑捜査に乗り出していることから、詰め腹を切らされたと見る向きが多い。

 しかし本人が腹を切っても疑惑が消える訳ではない。日本と同じやり方で招致を成功させたブラジル五輪委のヌズマン会長は、リオ五輪が終わるとブラジルの捜査当局によって逮捕・起訴された。

 ブラジル五輪委はシンガポールにある「ブラック・タイディングス社」に200万ドル支払って招致を成功させたが、日本の招致委員会も同じところに同じ金額を送金している。招致委員会のトップを務めていた竹田会長は送金をコンサルティング料だとして買収疑惑を否定しているが、どのようなコンサルティングを依頼したかなど詳細は明らかにしていない。

 この問題は2016年に欧米メディアが報道し、日本の国会でも追及されたが、第三者委員会が「違法性はなかった」と結論付けて幕引きが図られた。しかし昨年12月に竹田会長はフランスの捜査当局に事情聴取されていた。さらに今年1月にフランスの裁判所が予審手続きに入ったことが分かり再び日の目を見ることになった。

 おりしも日産のカルロス・ゴーン前会長が昨年11月に突然東京地検特捜部に逮捕され、長期拘留が続く中、欧米では日本の司法制度に対する批判が高まっていた。そうした中で竹田会長は事情聴取され、予審手続きの開始が明らかにされたのである。

 ブラジルのように五輪後ではない。日本には五輪前に五輪に傷がつく疑惑で本格捜査が始まったのである。しかも1月にはシンガポールの「ブラック・タイディングス社」代表が禁固刑の判決を受けた。ブラジルだけでなくシンガポールもフランスの捜査に協力していることが分かる。

 日本はフランスとの間で犯罪人引き渡し条約を結んでいない。そのため竹田会長が日本国内で逮捕される恐れはないが、フランスは世界96か国と条約を結んでいるため、竹田会長が海外に出れば逮捕される可能性がある。そのためか竹田会長は今年になってIOCの会議も欠席するようになった。

 竹田会長は2001年にJOC会長に就任して以来、一貫して五輪招致活動の先頭に立ってきた。父親がJOC会長として名古屋五輪を招致できなかったことが意欲の背景にあるとみられる。そして2006年、東京都の石原慎太郎知事をその気にさせることに成功した。

 しかし2009年、東京はリオデジャネイロに敗れ、2016年の招致に失敗した。その反省から2020年招致に向けてブラジル五輪委のやり方を取り入れたのかもしれない。招致活動は民主党政権下で進行するが、2012年に安倍政権が誕生すると「アベノミクス」4本目の矢として一段と脚光を浴びることになった。

 しかもその間に東日本大震災があったことから、安倍政権はそれと結び付け「復興五輪」を前面に押し出す。そのため安倍総理は福島の原発事故を極小化し、国際社会に向かい「原発事故はアンダーコントロール(統御)されている」と嘘を言うようになった。

 さらにここからが重要なのだが、東京五輪組織委会長になった森喜朗氏にとって目障りな人間が次々に表舞台から消えていくのである。竹田会長の他に五輪招致活動の先頭に立ったのは猪瀬直樹東京都知事である。2013年9月7日に東京開催が決まると、森喜朗氏をはじめ安倍政権内部から猪瀬批判が始まる。猪瀬氏が組織委会長の座を狙っているからだと言われた。

 そして10日後の17日、東京地検特捜部が公職選挙法違反容疑で医療法人徳洲会の強制捜査に乗り出すのである。当時の徳洲会は組織が分裂状態にあり、検察には内部情報が多数もたらされていた可能性がある。そして徳洲会を作った徳田虎雄氏は石原慎太郎氏と盟友関係にあった。

 当初は徳洲会の組織内候補である徳田毅衆議院議員の事件と思っていたら矛先が猪瀬氏に向かう。東京都知事選に出馬する際に徳洲会から5千万円の現金を受け取っていたことが検察からメディアにリークされ、メディアの報道は猪瀬氏に集中した。

 猪瀬氏は5千万円を選挙に使ってはおらず「借金」だと言い、強制捜査が始まってすぐ返済したと弁解した。しかし返済したから東京地検にその金が発見され、メディアにリークされたのである。しかも5千万円の借金が現金で受け渡しされるはずはない。「裏金」であるのは明白だった。政治の素人である猪瀬氏は自分で自分の墓穴を掘った。

 さらにここからが手が込んでいた。安倍政権はすぐに猪瀬氏を辞任させなかった。翌14年2月7日からソチ・オリンピックが始まることになっていたので、都知事選をオリンピックムードの中で行えるよう猪瀬氏の辞任を遅らせたのである。

 猪瀬氏は11月の定例都議会で汗をふきふき釈明を行う醜態をさらすことになる。12月中旬過ぎにようやく辞任を表明、後任を選ぶ都知事選はソチ・オリンピックが開幕した4日後の2月11日に行われ、無所属の舛添要一氏が当選した。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:3月31日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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