消費増税10%から逃げられなくした「森友疑惑」
フーテン老人世直し録(398)
神無月某日
安倍総理は15日の臨時閣議で来年10月1日から消費税を現行の8%から10%に引き上げる方針を表明した。
消費税率10%への引き上げは、6年前に当時の民主党と自民、公明の3党合意で決まっており、予定通りのことではあるが、しかし4年前に安倍政権が第一段階として5%から8%に引き上げたところ、景気が長期低迷に陥り、その後は引き上げ時期を2度も延期してきた経緯がある。そのため総理周辺には今回も引き上げ延期を求める声があった。
にもかかわらずなぜ1年も前から引き上げを表明することになったのか。それは引き上げから逃げられない事情があるからだ。逃げられない事情があるなら、むしろ早く表明して景気対策に本腰を入れる姿を国民に見せ、そちらに目を集中させれば消費増税前に行われる来年の統一地方選挙と参議院選挙に悪い影響を与えないと考えたのである。
では逃げられない事情とは何か。それは安倍昭恵総理夫人が名誉校長を務めていた森友学園に財務省が大幅な値引きで国有地を売却した「森友疑惑」の発覚である。「森友疑惑」は2017年2月9日の朝日新聞報道から始まった。
それが17日に国会で取り上げられると、安倍総理は「私や妻が関係していたなら総理も国会議員も辞める」と気色ばんだ。その答弁の異様さが逆に尋常ならざる事態を想像させ注目を集めることになる。
安倍総理と昭恵夫人が売却に何の関係もないなら、安倍総理は財務省に対し、疑惑を解くよう厳しく指導する立場にある。ところが財務省の佐川理財局長(当時)が近畿財務局と森友学園側の交渉記録をすべて廃棄したと答弁しても安倍総理はそれを問題にせず、むしろ是認する姿勢を見せた。
フーテンには佐川理財局長(当時)と安倍総理がまるで「共犯関係」にあるように見えた。そして財務省は徹底して総理を守る側に立つことで2度も消費増税を延期した安倍総理を今度こそ逃げられない立場に追い込むのではないかと想像した。
消費税率10%引き上げは財務省の悲願である。増え続ける社会保障費と財政赤字に対処するには安定的で取りやすい消費税が適していると彼らは考えている。しかし政権を運営する政治家の側から見れば消費増税は容易ならざるリスクをはらむ。
最初に消費税導入を打ち出した大平政権は総選挙で大惨敗、消費税導入3%を決めた竹下政権もボロボロになった。3%を5%に上げた橋本政権も参院選に敗れて退陣を余儀なくされた。
フーテンの眼から見ると日本人は増税には敏感だが税の使われ方に鈍感である。税金は取られても必ず還元されてくるものだから、その差し引きを考えれば一概に増税を拒否する必要もないのだが、どうも還元される方を見ようとしない。
また日本は、欧州の福祉国家が高い税金で成り立っているのに対し、「福祉は悪」と考え自己責任で成り立つ米国が増税ではなく減税に力を入れるのを見せられ、欧州と米国という原理の異なる先進国の間にあってどっちつかずの考えで混乱している。
2009年に民主党が政権を取った時、4年間は消費税を上げないと公約し、一方で子供手当や教育の無償化を打ち出した。それは国民に先に恩恵を与え、4年後にこのままでは財源が不足するので消費増税か、それともサービスカットかを選択させて選挙を行う方針だとフーテンは思った。
先に増税では国民は還元されるありがたみを実感できない。先に恩恵で後から増税にすれば国民が消費増税を選択することになる。うまいやり方だと感心したが、自民党の「バラマキ批判」にメディアが乗せられ、民主党の内部がぐらついてアイディアは成功しなかった。
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