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10月22日で安倍総理を辞めさせるシナリオ

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(328)

神無月朔日

 「希望の党」が安保法制や憲法改正を巡る考えを入党の条件とする考えを示したことで、民進党内部や共産党、社民党との間に軋轢が生まれている。安倍政権の安保法制強行採決に反対し4野党共闘を進めてきた側から反発が出る心情は理解できるが、しかしそれはあまりにも短絡的で感情的な政治の見方である。

 現下のシナリオは10月22日に自公政権を過半数割れに追い込み、歴代どの政権より劣悪な安倍政治をその日で終わらせるためのプランである。つまり政権交代を本気で実現しようとしている。だから安倍政権の安保法制強行採決は許されないが、しかし翌日から政権を担うための現実的対応にも備えるのである。

 安倍総理の臨時国会冒頭解散は「森友・加計問題」を臨時国会で追及される前に選挙で過半数の信任を得、国民から支持されたとして居直る狙いがあった。そのため消費増税の使い途と北朝鮮情勢をこじつけて解散の大義とした。

 「希望の党」の出現がなければ総選挙で自公が過半数を超えることは誰が見ても確実な情勢である。だからこそ安倍総理は解散に踏み切った。そして11月初旬にはトランプ米大統領を迎えて日米同盟の強化を国民にアピールし、それによって「森友・加計問題」を国民の念頭から消し去るつもりだった。

 しかし「希望の党」はそれを阻止する構えである。そのためには政権を獲得したその日から米国や韓国と共に北朝鮮情勢に対応しなければならない。その時に2年前の安保法制強行採決はけしからんと言って安保法制廃止の閣議決定を行えば、日本の政治は鳩山由紀夫元総理が辺野古基地移設に反対を唱えた時と同様の大混乱に陥る。

 辺野古基地移設は沖縄県民の反対を無視する政治の暴挙である。従って移設に反対を唱えることは正論である。しかし政治は正論を唱える事ではない。それを実現することである。実現の手段も持たずに正論を主張すれば混乱するだけというのが未熟な民主党政権の過去の教訓である。

 安倍総理に代わる新総理は11月初旬にトランプ米大統領を迎え協力関係を国際社会にアピールしなければならない。その時の政権与党が安保法制廃止を主張したのではその政権も短命に終わる。それが占領されてから戦後一貫して米国の影響下に置かれてきた日本政治の現実である。

 従って新政権は直ちに安保法制を廃止することはしない。しかしそれは安倍政権の安保法制強行採決を是とすることを意味しない。立憲主義を否定したやり方に反対することと現状ですぐ法律を廃止しないことは政治的に何も矛盾しない。

 問題は「集団的自衛権を限定的に容認する」とした「限定的」の中身にある。安倍政権の米国に対する従属姿勢は歴代政権の中でもとびぬけて強い。表現は悪いがまるで足の裏を舐めるようである。従って米国はこの政権を「使い走り」に使う。都合が良いから安倍総理に良い顔をして見せるが腹の中では馬鹿にしている。

 そういう総理が集団的自衛権を容認したことは自衛隊を米国に差し出したに等しく極めて危うい。同じく集団的自衛権を認めるにしても日本の国益を最大限に考慮して対応する総理でなければ困る。そして日本の国益を確保するにはかつての自民党と社会党が水面下で手を組み「絶妙の外交術」を駆使して米国を翻弄したのと同じ構図が必要になる。

 「絶妙の外交術」とは米国の歴史家マイケル・シャラーが『日米関係とは何だったのか』(草思社)で使った言葉だが、かつての自民党は米国の軍事的要求に抵抗するため社会党と水面下で手を組み、社会党に平和憲法に基づいた反対運動を起こさせ、それを口実に軍事負担を少なくして経済成長を達成したことを指す。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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