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トランプを掌に乗せた習近平、トランプに乗せられた安倍晋三

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(298)

卯月某日

25日の朝鮮人民軍創設85周年を前にメディアは連日にわたり北朝鮮危機を煽っている。この日に北朝鮮が核実験を行えば米国のトランプ政権は振り上げたこぶしを下ろさずに軍事行動を起こすというのである。

孫氏の兵法は「兵は詭道なり」と教えている。戦争の基本は「騙し合い」にあるという意味だ。つまり戦争を巡る情報には嘘があふれている。それを肝に銘じなければ戦争について考えることはできない。

戦争を巡る嘘、特に米国発の嘘情報の数々を見せられてきたフーテンは昨今の北朝鮮危機を煽るメディアにいささか憤りを感じる。米国が北朝鮮を攻撃することで米国にどんな利益がもたらされるのかをまず考えてもらいたい。

オバマケア見直し法断念とロシア疑惑で3月に危機的状況に陥ったトランプ政権にとっては国民の目をそらす格好の材料である。しかしそれは米国の国家的利益と何の関係もない。

米国が北朝鮮に軍事攻撃すれば同盟国韓国は壊滅的な打撃を受け、世界経済は大混乱に陥る。23年前のクリントン政権による北朝鮮核施設爆撃計画ですでに検討済みの話である。現在ならさらに被害は大きくなり韓国のみならず日本やグアムの米軍基地も北朝鮮の攻撃に遭う可能性がある。

「テロとの戦い」が世界経済に甚大な影響を与えないのとは異なり、第二次朝鮮戦争が起これば冷戦後最も深刻な戦争となり、世界が被る打撃は計り知れない。しかもそれは米朝首脳会談で中国に北朝鮮問題を委ねようとしたトランプ政権の基本方針とも反する。

「中国が北朝鮮を抑えなければ米国はあらゆる選択肢を含め単独でも行動する」と米国が言うのは、中国に問題解決を委ねたいという意味で、米国が軍事行動に踏み切るという意味ではない。世界最強の軍事力を持つ米国が中国に「お願い」する訳にはいかないから、表では「中国がやらないなら米国は軍事的行動も辞さない」と強がりを見せるだけの話である。

本音では「中国になんとか抑えてもらいたい」とお願いをしている。それを分かっているから中国は北朝鮮問題を自国の経済的利益に結びつけようと考える。北朝鮮がある限り米国は中国に頼るしかないと見た習近平国家主席は米国に数々の経済的譲歩を迫っている。

トランプ大統領は選挙中から中国との貿易不均衡を最大の問題だとし、中国を「為替操作国に指定する」と公約していた。中国からの輸入品には45%の関税をかけて報復するとも主張していた。そのためトランプ政権は対中国強硬と見られていたが、米中首脳会談後には北朝鮮問題とのバーターでそれらの主張を取り下げた。

さらには主要国の中で米国と日本だけが参加していないAIIB(アジアインフラ投資銀行)への参加を呼びかけられ、トランプ大統領は前向きな発言をしたとの情報もある。フーテンには北朝鮮問題でトランプ大統領は習近平の掌に乗せられたと見える。

であるから中国は北朝鮮に圧力をかけ米国に協力していると見せるが、それでも北朝鮮を存続させ、北朝鮮問題を簡単には終わらせないようにするのが利益となる。中国と裏腹にトランプ政権とは良好と思われたロシアがシリア問題でトランプ政権と対立したことで、ロシアが北朝鮮の存続に一役買うかもしれない。中国とロシアが水面下で手を組むことは大いにありうる。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:3月31日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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