日米同盟は「不変の原則」という安倍演説にトランプ演説が浴びせたパンチ力
フーテン老人世直し録(277)
睦月某日
1月20日に行われた安倍総理の施政方針演説は、例年と異なり外交の話から始めて「日米同盟」の重要性を特に強調するものとなった。
安倍総理は施政方針演説の冒頭で、昨年末にオバマ大統領と共に行った真珠湾慰霊に言及し、日本の外交・安全保障政策の基軸である日米同盟を「不変の原則」と言い切り、永遠に日米は一体であるとの認識を示した。
そのうえで、できる限り早期に訪米してトランプ新大統領との間で「同盟の絆」を更に強化する考えを強調したが、これは「アメリカ・ファースト(米国第一)」を掲げて当選したトランプ次期大統領に「日本はアメリカなしに生きられない」と「すり寄る」ことで「こっちに厳しくしないで」と訴えかけたのである。
ところが安倍総理の演説から12時間後、正式に第45代アメリカ大統領に就任したトランプ氏は就任演説で、「他国を守り他国を利してきたこれまでの政策をやめて米国民の利益のためだけに政治を行う」と選挙公約通りの政治を実行すると宣言し、安倍総理の「すり寄り」は初っ端からパンチを浴びる格好になった。
安倍総理が「不変の原則」と考える日米同盟は、両国首脳の認識に大きなズレのあることが浮き彫りにされ、また昨日までのアメリカと今日からのアメリカは異なる方向を向くことが明らかになった。ズレはどこから生まれたのか、そしてこの事態に対応するにはどうするかを考える。
トランプ新大統領の演説はこれまでの大統領と異なり、アメリカが世界のリーダーとしてどのような世界を構築するか、その理念を語るものではなかった。語られたのは悲惨なアメリカの姿である。
これまでの米国政治は、自国の産業を犠牲にして外国の産業を豊かにし、外国の軍隊を援助して自国の軍隊を枯渇させ、外国の国境を守って自国の国境の守りを拒否してきた。その結果、アメリカには貧困と失業と犯罪が蔓延することになったという。
従って外国製品を買うのをやめてアメリカ製品を買い、雇用を増やして経済を活性化させ、外国に取られた雇用と富を取り戻し、古い同盟関係を新なものに作り替え、それで世界を結束させてイスラム国を根絶するのだと言った。
意味不明のところも多いが、米国民の被害者意識に訴えて選挙に勝利した以上、アメリカとの貿易で利益を上げている国、移民を送り込んでくる国、そしてアメリカの軍事力に依存している国を標的にアメリカの力を見せつけ利益を吸い上げるさまを米国民に見せつけようということだ。
日本は格好の標的となる。2015年の貿易収支で日本は中国、ドイツに次ぐ第三位の対米黒字国である。とはいえ日本は対米投資額で世界一、米国内の雇用に対する貢献度は圧倒的に高い。それを差し引けば日本が目の敵にされる謂われはないのだが、しかし口で説明してもトランプ新大統領には通じないだろう。それを言ってもトランプ支持者が納得するはずはないからだ。
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