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なぜ在日米軍はオスプレイの訓練を再開させたか

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(270)

極月某日

オスプレイの飛行訓練が事故から6日しか経っていない19日に再開された。そのニュースを見てフーテンの頭に浮かんだのは、先日の日ロ首脳会談で安倍総理が見せた「すり寄り外交」である。あの会談は「強腰」を見せれば日本は「引っ込む」という教訓を全世界に見せつけた。

プーチン大統領の対日外交姿勢は明確である。まず日本に極東地域で経済協力をやらせ、次に日本が主権を主張する4島においてもロシアの主権下で経済協力をやらせる。その協力がロシアを満足させるものであれば平和条約の締結に応ずる。その先に日本の求める領土交渉はある。

基本的に4島はロシアが第二次大戦で勝ち取った領土だが、1956年に「日ソ共同宣言」で「平和条約を締結して歯舞、色丹の2島を引き渡す」とした経緯がある。従ってそこは認めて「引き渡し」に応ずるが「引き渡し」が直ちに「返還」を意味するものではない。

1956年の「平和条約締結と2島返還」はアメリカの妨害で実現しなかった。アメリカは安全保障の見地から2島返還と平和条約を結ぶことに反対した。だから日本に「4島一括返還」という高いハードルを主張させ、平和条約締結が難しくなるようにした。従って今後の領土交渉でも日米安保体制をどうするかが大きな課題となる。 

プーチン大統領が日本において行った発言はそういうことである。これに対して安倍総理は「領土交渉を行うためにはプーチン大統領の信頼を得るしか道はない。私はプーチン大統領を信ずる。経済協力を重ねて一歩ずつ領土交渉を行う」というものであった。

鳩山総理が行った1956年の日ソ交渉は、経済協力などなくとも「平和条約を結んで2島を引き渡す」だったが、安倍総理の交渉ではその前に経済協力の実を上げなければならなくなった。さらに日米安保体制の見直しも条件となる可能性が示唆された。それを先週全世界が知ったのである。

当然アメリカの政治家、官僚、軍もこの交渉をみてその先行きがどうなるかを分析し、いかなる対応をとるべきかを検討しているはずである。そして安倍総理に対しては「強腰」が有効であることを再確認した。

その時期に沖縄でオスプレイが「墜落」した。在日米軍にとっては由々しき事態で、沖縄の反米感情が高まることは必至である。それは在日米軍も分かっている。しか安倍総理は在日米軍の目の前でプーチン大統領と信頼関係を強めていく決意を語り、さらに日米安保体制の弱体化が領土交渉の前提であるかのようなプーチン発言を許した。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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