Yahoo!ニュース

プーチン大統領の「強腰外交」vs安倍総理の「すり寄り外交」

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(267)

極月某日

ロシアのプーチン大統領が日本訪問を前に読売新聞社と日本テレビのインタビューに応じた。13日夜の日本テレビの番組でその模様を見たが、プーチン大統領が語った内容はフーテンが予想していた通りで、「領土問題は存在しない」というロシア側の常識を説いてみせたにすぎない。

ところが平和条約交渉に前のめりになっている安倍総理によって、これまで日本のメディアは15日に行われる日ロ首脳会談であたかも「領土交渉に進展がある」かのような報道を行ってきた。

インタビューを見る限りプーチン大統領は15日の首脳会談を「領土交渉を行うための前段階」と位置付けている。そして領土交渉を行うためにはその前に両国が信頼関係を醸成しなければならないことを強調している。

これまで安倍総理はプーチン大統領と15回も首脳会談を行い、ファーストネームで呼び合うなど強い信頼関係で結ばれていることを強調してきたが、それは手前勝手な思い込みに過ぎないことが露呈された。

相手は信頼関係はこれからだと考えているのである。それを言うためにプーチン大統領は中国との関係に言及し、領土問題を「面積二等分」で解決するため40年もかかって信頼関係を築き、また安全保障面も含めた「戦略的パートナーシップ」が必要だと述べた。

さらにプーチン大統領は今年G7の議長国である日本に対し、「ウクライナ問題でG7各国が課している経済制裁をそのままにして日本とロシアがどうやって経済関係をより高いレベルに発展させるのか」と、G7の切り崩しを狙っている姿勢をあからさまにした。

インタビューでプーチン大統領は「強腰外交」が身上であることをいかんなく発揮した。そして15日の首脳会談で安倍総理が「すり寄り外交」をするならば、「その先もある」と「領土交渉を行う」用意があることを匂わせた。

ただしプーチン大統領の言う「領土交渉」は1956年の日ソ共同宣言に戻る話である。つまり平和条約を締結した後、歯舞、色丹の2島を「引き渡す」というものだが、その前に信頼醸成が必要で、そのためには日本側が提示した8項目の経済協力や、ロシアの主権の下での日ロの経済協力活動が条件になる。

「引き渡し」は「返還」とは異なり、主権が日本に戻るのかが不明だが、プーチン大統領の言葉から読み取れるのは主権はあくまでもロシアということである。第二次大戦で獲得した領土だから、それを「返せ」というなら戦争に勝って「奪い取れ」というのが基本的な考え方なのだろう。

戦争という手段を用いずに島を「取得」するのなら、戦争をするのと同等の犠牲を覚悟して交渉に当たらなければ実現することなどできないのが分からないのか。それがプーチン大統領の考え方だとフーテンは思った。

この記事は有料です。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバーをお申し込みください。

「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバー 2016年12月

税込550(記事8本)

※すでに購入済みの方はログインしてください。

購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。
ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:3月31日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

田中良紹の最近の記事