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まるで選挙演説のごとき施政方針演説に安倍総理の窮状を感じる

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(199)

睦月某日

まるで選挙演説のような施政方針演説を聞かされた。施政方針演説とは通常国会の冒頭で内閣総理大臣が今年の政府の基本方針を示すものである。現在の日本が抱える課題を列挙し、それぞれに政府がどう対応するかを明らかにする。ところが今年の安倍総理の施政方針はのっけから野党批判で始まった。

徳川幕府で勝海舟のライバルであった小栗忠順の言葉を引用しながら、「批判だけに明け暮れ、対案を示さず、あとは『どうにかなる』。そういう態度は国民に対して誠に無責任だ」と野党批判を行ったのである。これにフーテンは唖然とした。

なぜならどこの国の野党も議会での仕事は政府を批判する事で対案を示す事ではないからである。それを安倍総理はご存じないらしい。安倍総理がしきりにすり寄る米国でも、議会の役割は政府を追及する事で、こちらでは野党だけでなく与党の議員も追及する。

そして与党も野党も政権に対し対案を示す事などしない。納税者である国民を代表し政府のおかしな所を追及するだけである。国民から預かった税金を政府が間違った方向に使わないよう監視の目を光らせるのが議会だという民主主義の根本原理を、安倍総理は知らないのである。

野党が対案を示すのは選挙の時で十分だ。選挙では政府与党の政策に対峙する政策を野党は打ち出しそれで国民に信を問う。それが民主主義の原理である。繰り返すが議会で政府を追及するのにいちいち対案を出さなければならない民主主義国など世界中ない。

また安倍総理が引用した小栗忠順の「どうにかなる」は幕府に向けた批判である。「どうにかなる」で幕府は倒れたが、それで日本国が滅亡した訳ではない。むしろ日本は旧体制が倒れて新時代を迎えた。

従って安倍総理が小栗の言葉を引用するなら政権与党内部に向けて使うべきである。野党に向けて使う意味が分からない。幕府に対立した尊王攘夷の討幕派は現在の野党に当たるが、幕府を批判するだけで対案など出さなかった。だから幕府が倒れた後の日本は大混乱で新体制が整うまで時間がかかった。現代の日本人はそれを良しと考えているのではないか。野党は批判だけして政権を倒す。幕末維新の教訓はそれである。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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