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国会の存在が希薄さを増す日本政治を見せられている

田中良紹ジャーナリスト

第186通常国会が6月22日に閉幕した。閉幕したと言われても「開かれていたのか」と思うほど印象の薄い国会である。始まる前は「好循環実現国会」と位置付けられ、アベノミクスの「第三の矢」を巡って議論が交わされると国民は思わされていたが、蓋を開ければ集団的自衛権の行使容認を巡る議論しか印象に残らない。

それも安倍総理の私的な諮問機関が作成した案を与党が議論し、続いて公明党を入れた協議が進行していただけで、国会が主要な議論の舞台ではない。国会では野党が与党内部の議論を横からつついていたに過ぎない。国家の基本にかかわる問題で、国権の最高機関である国会が脇役になっている状態を我々は見せられた。

昨年の臨時国会も安倍政権は「成長戦略実現国会」と位置付け、しかし蓋を開ければ「日本版NSC」と「特定秘密保護法」を巡る議論に終始した。ただこの時は法案が国会に上程され、論戦の主舞台は国会であった。最後は強行採決によって成立する様を国民は見ることが出来た。

経済を前面に掲げて国民生活に関わる国会だと思わせながら、実際は安全保障に関わる問題を多数決によって強行する政治を国民は見たのである。しかし今回はそうした事でもない。議論の主舞台でもない国会はますます存在感を薄め、政治の中心的な役割から外されていく印象である。

昨年成立した「日本版NSC」も「特定秘密保護法」も民主主義の基本に反する法律であった。何が議論され、何が秘密にされたかを主権者である国民は全く検証できない。国民に永久に秘密にするというのは欧米の民主主義では絶対に許されない。しかし日本ではそれが強行可決された。

しかも恥ずかしいのは、強行可決の後で与野党の国会議員が欧米に視察に行き、「日本版NSC」と「特定秘密保護法」がいかに欧米とは異なるかを勉強してきた事である。従ってこの通常国会はまず冒頭で「日本版NSC」と「特定秘密保護法」の再検証から始めなければならなかった。

民主党は通常国会の前に「特定秘密保護法を廃案にする」と息巻いていたが、民主党の言うようにはならず、しかも議論は国民に十分明らかにされなかった。今国会で行われたのは「特定秘密」を監視する機関を衆参両院に作る「国会法改正案」を成立させた事だ。ところがその機関は政府に対し強制的に情報提供させる権限がない。従ってないも同然の機関を作るのである。

「国会法改正案」は会期末ぎりぎりに成立した。会期末ぎりぎりというのは時間をかけて議論したためではない。法案が提出されたのが5月末、自公に加え日本維新の会、結いの党、みんなの党の共同提出であった。従ってろくな審議をしなくとも成立は目に見えている。実際参議院では7時間しか審議せずに法案は成立した。

欧米の議会は政府を監視するためにある。国民から集めた税金を行政府が適正に使っているかを監視するのが議会の役目だからである。また国民の税金を預かっている政府には「説明責任」がある。政府が内部の議論を秘密にし、決定した事を秘密にすることは許されない。

ただ国民の生命が脅かされたり、外国との交渉に影響が出る情報は一時的な秘匿が認められる。しかしその場合でも妥当性をチェックする必要はある。欧米ではそのチェックを与野党の国会議員が行う。議員は秘密を守ることを義務付けられるが、そのチェックがなければ民主主義は民主主義にならない。

それを学んできた筈の我が国の国会議員が作成したのは、「三権分立であるから行政府の権限も尊重されなければならない」として強制的に情報提供させる事をしない法案であった。日本の議員は「三権分立」の意味をまるで分かっていない事が分かったが、それが「監視のフリ」だけする機関を作るのである。

昨年の暮れに日本から視察に来た議員たちを迎え、欧米の事情を説明したドイツ、イギリス、アメリカの議会関係者が「国会法改正案」の成立の経緯を知ればおそらく愕然とするだろう。そして日本の民主主義の未熟さを蔑むことになると思う。

私がこの国会の重要な課題だと思っていた「日本版NSC」と「特定秘密保護法」の再検証は、こうして国民の目にさらされないまま、民主主義とは真逆の方向を向く事になった。

最も国民の印象に残ったと思われる集団安全保障を巡る議論も、議論と言うより安倍総理が言いたいことを言い募るだけで野党とかみ合わず、同じことの繰り返しを見せつけられた。通常国会の表看板であったアベノミクスも、ロンドンで安倍総理が「日本に投資を」と呼びかける姿が私の印象に残るだけで、国会とは異なる場所での発信が多い。

最も民主的と言われたワイマール憲法下で、ヒトラーは43%の得票率しかなかったが、連立によって政権を獲得すると、「全権委任法」を成立させて国会を無力化し、それから先はマスメディアを操って国民の熱狂的支持を取り付けていった。

今の国会の存在感のなさは「全権委任法」成立後のドイツを思わせる。安倍自民党も43%の得票率で政権を奪還したが、全有権者に占める得票率はわずか24%である。24%の支持しかないのに国会が無力化するというのでは情けないとしか言いようがない。

ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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