男は、殴られても我慢しなければいけないのか

■ 5段組見開き

当欄でもたびたび取り上げる、「離婚時の子どもの拉致abduction 」問題に関して、ついに大手の新聞(東京新聞)で、5段組見開きスペースを使って大々的に特集されている。

記事では、拉致/連れ去りは「違憲」だとする訴訟を紹介しており、代理人の作花知志弁護士のコメントも詳しく紹介されている(ウェブ版はこちらから→別居・離婚で配偶者に子ども連れ去られ、会えなくなるなんて…)。

この問題を大手新聞が見開きで取り上げるのも珍しく、日本社会が「共同親権」のほうをやっと向き始めたようだ。

そんな時、この問題に関してさらに考えたいのが、「DV(ドメスティックバイオレンス)」に関する問題だ。

上の新聞記事で冒頭に取り上げられるのは夫側からの実際にあったDVであり、子を連れ去った加害者は夫側である。DVは夫が行なうもの、という「常識」をもとに言及される事例なので、記事としてもわかりやすい。

だがその一方で、DVは現在、離婚時の便利な道具として用いられてもいる。それは「虚偽DV」と呼ばれ、DVの実態はなくても女性センターなどでの相談記録があれば、ある程度DVが実際にあったとして認めらるという。

その際、虚偽DVの被害者はほとんどの場合、「妻」だ。DVの訴え=被害者は妻という「常識」が、離婚相談業界(行政の相談施設や司法組織含め)には定着している。

このこと(離婚時に生じるDV案件のうち、被害者の大多数は妻側)という「常識」をもとに、「虚偽DV」が離婚弁護士と妻側で創作され、拉致と離婚の根拠とされてしまう。

DVの加害者は男である、この、ある種の社会常識が、離婚時に妻サイドが子どもを拉致する際の根拠となる。

■DVの実態

だが実際のDV加害者のうち、20~25%ほどは妻側であり、4人か5人に1人は、夫側が被害にあっている(DV被害、最多8万2207件 男性被害者が増加傾向)。

欧米の調査でも、25%ほどの夫/男側がDV被害にあっている(増え続ける男性DV被害者......「恥ずかしい」と誰にも相談できない)。

また別の内閣府調査では、広い意味でDV被害を受けたと訴える男女比率は、妻側23.7%、夫側16.6%だとされている(配偶者からの暴力に関するデータ 6.アンケート調査による被害経験)。

DVの実体としては、4~5人に1人は、夫側が被害にあっている。そしてその被害意識の実態をさらにみていくと、妻側と変わりない比率で夫側も被害意識を抱いている。

社会に顕在化しやすいのは、「夫加害、妻被害」の構図であり、冒頭の訴訟でもこの構図に立った事例を紹介する。訴訟進行上も、DV被害の7~8割は妻という構図に立ったほうが裁判所(と世間)の理解を得やすいというのは事実だろう。

だが実際は、夫側も妻側と変わらない程度で「被害にあっている」と感じている。その被害感とは比べてだいぶ減りはするものの、20~25%は被害にあっている。

■ 男は、殴られても我慢しなければいけない

実際の夫/男側のDV被害は25%よりもっと多いと推測する。だが、調査としてはその実態を把握しきれていない。

その理由としては、「相談に行く場所がない」があり、具体的には公的な「女性相談センター」はあちこちにあるが、「男性相談センター」は僕は聞いたことがない。

ここでも、男=DV加害者という図式が定着しており、行政の予算配分もそれに基づいて行なわれる。

もう一つは、「男は、DV被害を受けても我慢しなければいけない」というある種の社会規範に縛られているいうことがあると思う。

それは上に引用したニューズウィークの記事でも触れられている。記事はこのように書く。

最近、声をあげる男性が増えてきたとはいえ、やはり「女性から暴力を受けている」ことを「弱さ」と結びつけ、「男らしくない」「恥ずかしい」などと世間体を気にしてうち打ち明けられずにいるようだ。

「信じてもらえない(だろう)」という諦めもあるようだ。DVにおいては女性が被害者である場合が圧倒的だからだ。

出典:増え続ける男性DV被害者......「恥ずかしい」と誰にも相談できない

これはドイツの調査のようだが、「女性から暴力を受けること」を「男の弱さ」と結びつける。男が女から殴られることは「悪いこと」「恥ずかしいこと」であり、それは隠さなければいけないという意識が働く。

この意識こそがまさに「社会規範」であり、人々か日常生活を送る時に知らず知らず刷り込まれていく取り決めだ。「弱い倫理」と言ってもいい。

つまり現代社会には、

男は、殴られても我慢しなければいけない

という社会規範が占めており、男性ジェンダーはこの規範に著しく縛られている。そのため、DV被害を訴えることができず、意識としては女性と変わらない被害を持ちながら、公的な場所に出てきて訴えることはしない。

だから、そうした声を受け止める公的な場所(男性センター)もない。

■ フェアな離婚議論

だが、虚偽DVは、「男は殴る存在」「男は加害者」「男は殴られることはない」という、「前提」や「常識」をもとに論理構成されている。この前提と常識には、「男は弱い存在」という文言は排除される。

その文言があると、虚偽DVが成り立たなくなるのだ。

だからこそ、虚偽DVを暴き虚偽DVを根絶するためには、「男もDVを受け怖がっている」という事実をオープンにしていく必要がある。

それがオープンに(顕在化)されて初めて、子どもの拉致abduction の根拠(虚偽DV)が崩れ、夫にとっても妻にとっても「フェアな離婚議論」に進むことができる。

そのフェアな離婚議論に、つまりは「共同親権」の議論も含まれる。