トイレ掃除もガイドも…濁流に飲まれた秘境駅を守る76歳 JR芸備線きょう全線復旧

いつも列車が見えなくなるまで手を振り続ける

10月23日、全線復旧するJR芸備線。2018年7月の西日本豪雨災害の影響で不通になって以来、1年3ヶ月ぶりとなるこの日を心待ちにしていた人がいる。中国山地の秘境にある無人の備後落合駅を守ってきた永橋則夫さん(76)だ。

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広島市と岡山県新見市を結ぶJR芸備線。

中国山地を縫うように走る159.1kmのローカル線で、備後落合駅はJR芸備線と、同駅から松江市に至るJR木次線の接続駅となっている。

交通の要所としてかつては多くの旅客、貨物が行き交ったが、時代とともに便数は減り、駅も無人に。

不通になる前の定期列車は3方向とも数本で、駅周辺はひっそりと静まりかえっている。

14時台には3方向からの列車が一気に集っていた
14時台には3方向からの列車が一気に集っていた

永橋さんは備後落合駅から歩いて2分の家で生まれ育ち、「朝は蒸気機関車の汽笛で目が覚めた」。

国鉄に入社し、憧れていた蒸気機関士として活躍した後、退職して鉄道とは縁のない生活を送っていた。

そんな永橋さんを目覚めさせた、ある事件があった。2016年秋、広島県三次市と島根県江津市を結ぶJR三江線の廃止が公表されたのだ。

「備後落合駅もこうなったらいけない。自分に何ができるのか、何をするべきか」。思い至ったのが、備後落合駅のガイド役だった。

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「かつての備後落合駅の内情を知っている人は自分しかいない。よし、やろう」。

原稿を練り上げて2017年4月、初めての備後落合駅ガイドに挑戦。2日間で100人以上が集まり、人気となった。

その後も定期的なガイドのほか、毎朝トイレを掃除し、日中は乗客に列車の乗り換え案内をしながら、最終列車の到着後に戸を閉めて1日を終える。

伸び放題だった周辺の草を刈り、駅舎に写真や資料を並べるコーナーを設けて横断幕も作った。

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永橋さんはJR西日本から正式に管理を委託されていないのに、自主的に駅を管理し、ガイド役も買って出ているのだ。

こうした姿を見て近くに住む柳生光明さんが手伝うようになり、地元の自治会でも備後落合駅から鉄道に乗るツアーが行われた。

そして今では、永橋さんのガイドを聞きにわざわざ全国から人が訪れる。

たった一人で始まった動きが、周りを巻き込み、渦になり始めている。

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2018年7月、濁流に飲まれる線路を見て「もうダメだ」と涙がこぼれた。

それでも復旧を信じて変わらず国鉄時代の制服を身につけ、トイレや待合室を掃除した。

昨年12月には一部区間が再開され、そして全線再開を迎える。「待ちに待っていた」と永橋さん。最後にこう続けた。

「とにかく情熱。情熱だけ。もしかしたら、ここもひょっとするかもしらん。そうならないために、何ができるか。すると言うたら、するんよ」

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(写真はすべて筆者撮影)