ローカル線は地域の”お荷物”なのか。鉄道と地域を考える

運行20周年を迎えたJR木次線のトロッコ列車「奥出雲おろち号」

「本当によかった」。今年8月8日、島根県雲南市のJR木次駅で、出雲大東駅の業務を委託された指定管理者「つむぎ」の南波由美子代表(42)は、ほっとした表情を見せた。

この日、7月の西日本豪雨の被害を受け、一部不通となっていたJR木次線が全線で運行を再開したのだ。木次駅には「ようこそ木次線へ」「がんばってます木次線」といった横断幕が並び、沿線住民らがダンスを披露。運行20周年を迎えた人気のトロッコ列車「奥出雲おろち号」の出発をにぎやかに見送った。

南波さんが安堵あんどの表情を浮かべたのには理由がある。同じ島根県内では、3月末にJR三江線が廃止になったばかりだからだ。

松江市の宍道駅と広島県庄原市の備後落合駅を結ぶJR西日本木次線(路線距離:81.9キロ)は2017年度、輸送密度が204人で、三江線を除けばJR西日本管内で下から2番目の少なさとなっており、木次線をめぐる状況の厳しさを指摘する記事がインターネットに載ったこともある。

さらに、豪雨直後は再開まで1年以上かかるという見通しが示されたこともあって、沿線では「復旧せずこのまま廃止になるのか」と不安感や危機感が募っていた。

被災した鉄道の復旧支援が拡大

実際、自然災害はローカル線廃止の要因になってきた。

2005年9月、宮崎県の高千穂鉄道は台風で鉄橋が流されて運休し、その後、廃止が決まった。隣の鹿児島県の鹿児島交通枕崎線も集中豪雨での被害が、岩手県のJR岩泉線も土砂崩れによる脱線事故が引き金となり、それぞれ廃止になっている。

とはいえ、被災した鉄道がすべて廃止になるわけではない。大ヒットしたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」で有名になった岩手県の三陸鉄道は、東日本大震災の被災から3年がかりで復旧し、「奇跡の復活」と言われた。

そのほか、11年7月の新潟・福島豪雨で不通となった福島県のJR只見線会津川口―只見間は、21年度の復旧に向け、工事が進められている。今年6月、被災した鉄道の復旧支援を拡大する改正鉄道軌道整備法が成立し、国の補助が受けられるようになったことで、地元負担が当初予定より半減した。同法は今後の鉄道の災害復旧の後押しになるだろう。

鉄道とバスの違い

鉄道が廃止になった場合は、代替交通機関としてバスが使われることが多い。

2000年と翌01年に福井県で列車衝突事故を起こした京福電鉄が運行停止となった際にも、代行バスが走った。しかし、鉄道では1便2両で計300人を運ぶのに対し、バスは1台40人。福井市内への通勤・通学で利用する人が多く、全員が乗れずに積み残されることが起こった。

自家用車への切り替えなど車に頼る人が増えた結果、交通量が増えて渋滞が起こり、会社員や高校生の遅刻が多発。もともと自家用車で通勤していた人にも影響が及んだ。雪が降り積もる冬季は、渋滞がさらにひどくなる。お年寄りがバスを待って立ち続ける姿も見られた。

こうして高齢者や生徒など車を持たない、いわゆる「交通弱者」は出掛けにくくなり、人との交流が減ったり、観光客が減ったり、地域の疲弊につながったりしたとして、代行バスは「壮大な負の社会実験」と、新聞でも取り上げられた。

こうした経緯から、大量輸送、定時運行という鉄道の強みがあらためて見直され、京福電鉄の後継となる第三セクター「えちぜん鉄道」の誕生へとつながっていった。現在、「えちぜん鉄道」は車両にアテンダント(乗務員)を配置し、お年寄りの乗り降りを手助けするなど、地元の人に寄り添ったサービスを展開している。

ローカル線のポテンシャル

福井県のケースは大量輸送という鉄道の強みが発揮できる場合であり、沿線地域が人口減少に直面する多くのローカル線では、事情は異なってくる。バスは、鉄道に比べて維持や運行のコストが低く、バス停の設置も容易で小回りがきく。こうしたメリットを活用すれば、鉄道廃止後でも移動しやすい地域をつくっていく道はあるだろう。

それでも、鉄道には「鉄道だからこそ」の要素がある。

例えば、鉄道に乗ることが好きな「乗り鉄」をはじめ、鉄道写真を撮る「撮り鉄」、駅舎をめぐる「駅鉄」。さらに、切符を集める「切符鉄」、駅弁を楽しむ「駅弁鉄」、列車の駆動音や構内放送などの音を収録する「音鉄」など、日本の鉄道ファンの裾野は広い。鉄道があるから来るという人は確実にいる。ローカル線には、地域に人を呼び込むポテンシャルがあると言えるのだ。

人口3000人の鳥取県若桜町に本社を置く若桜鉄道。2015年に沿線で行われた「SL走行社会実験」では、全国から1万3000人もの人が集まり、地域への経済効果は推定で1805万円に上った。

また、鉄道会社の経営者に「鉄道とバスの違いは何か」と尋ねた際、「鉄道があれば、地図に路線名や駅が載る。その広告効果は非常に大きい」と口にする人が多かったことは印象的だった。

鉄道と地域は運命共同体

本格的な人口減少時代に突入した日本で、これから地域に新しい鉄道や路線をつくることは基本的に難しい。そう考えると、いまローカル線が走っている地域は、他の地域が持つことが難しい「資源」を持っていると言い換えることもできる。

冒頭に紹介した木次線では、地元の劇団が車両内と駅舎で演劇を上演する「観劇列車」や、地元の食と酒を楽しむツアー、親子連れ対象の運転士体験などが次々と行われ、地域を盛り上げている。いずれも沿線住民が企画し、豪華な「観光列車」ではなく一般の車両を活用して工夫していることが特徴的だ。

こうして鉄道を生かす動きは、各地で起こっている。私がまとめた2013年度のデータでは、JRをのぞく全国82の地域鉄道のうち6割近い49の鉄道が、前年度より乗客数を伸ばしていた。この傾向は現在も続いている。

取材で全国を回ってみて、気付いたことがある。鉄道と地域は運命共同体であるということだ。定説として言われる「鉄道がなくなって栄えた地域はない」というのは、多くの地域に当てはまる。

ローカル線を地域資源ととらえ、その資源を生かすかどうかは、地域次第なのだ。