なるか365日連続公演。過疎の町、観客ゼロで即終了という「劇団ハタチ族」の挑戦の結末まであと3日

終演後には観客に残り日数を持ってもらい記念撮影

2015年元日、観客が1回でもゼロになったらストップするという、劇団ハタチ族の前代未聞の「365日公演」がスタートしました。舞台は人口4万人、人口減少が進む島根県雲南市。劇団を率いるのは、何度も演劇をやめるなど中途半端な人生を送ってきた代表の西藤将人さん。「どうせできないだろう」と見られていました。それが363日目に突入したのです。

ステージは劇場ロビー

島根県雲南市、JR木次駅前にある「チェリヴァホール」の入口に365日公演の看板が立っています。駅前と言っても列車は1時間に1本。発着時以外はあまり人は歩いていません。チェリヴァホールは、入居していたスーパーが撤退し、鉄筋コンクリート3階建ての大半が空っぽのままです。

365日公演のステージは、465席の大ホールではありません。大ホールの横や建物1階にあるロビーに、組み立て式の簡易ステージといすを並べた手作りのステージです。備え付けた音響セット。小さなライトを浴びて舞台に立ちます。

ロビーに設置する組み立て式の舞台と客席
ロビーに設置する組み立て式の舞台と客席

365日公演の初日は、正月らしい落語の演目を演劇風にアレンジした「新春ハタチRAKUGO」。雪が降りしきる中、用意したいすが埋まる38人が訪れました。

「皆さまのおかげで明日も公演が打てます」と深々と頭を下げた西藤さん。観客と一緒の記念撮影で「あと364日!」と声をそろえましたが、周りは「無意味で無謀な企画だ」という冷ややかな声の方が多かったのです。

離れたり戻ったりの繰り返し

代表の西藤さんは、生まれも育ちも隣の鳥取県。中学校で不登校になり、ガラス清掃やフランス料理の修業を経験しましたが、どれも中途半端なまま逃げてきました。演劇も離れたり戻ったりの繰り返し。演劇の中心地である東京に憧れ、何度も目指しながらも、かなえられずにいました。

そんな西藤さんが雲南市に移住し、ハタチ族を立ち上げたのが2013年。そこには、演劇から離れたときも見捨てずに声をかけてくれた、地元の高校教員の亀尾佳宏さんやチェリヴァホールの存在がありました。

亀尾さんはチェリヴァホールの関係者と「演劇のまちづくり」を目指して市民劇を行い、地域を盛り上げていました。西藤さんは、亀尾さんに出会って雲南市で活動するうちに「東京じゃなくて雲南の方が面白い芝居がつくれる。雲南でしかできない芝居がしたい」と気付いたのです。

舞台に立つ西藤将人さん
舞台に立つ西藤将人さん

ハタチ族として年数回公演をしていましたが、もっと成長するために場数を踏みたいと考えていたとき、1ヶ月毎日異なる公演した別の劇団の実例を聞きました。「1ヶ月ならできるんだ。それなら1年やってみよう」。

発想自体が無茶です。でも、できなさそうだから、やる価値がある。「実力がまだまだなのはわかってる。でも『うまくなってから』って言ってたら、いつまでもできない」。団員たちも反対しませんでした。

会場はチェリヴァホールが協力。さらに、自己満足で続けても意味がないと、観客ゼロで終了、別の劇団の上演があればハタチ族は休演して応援する、という2つのルールを決めました。

本番前日の深夜に脚本が完成

ハタチ族の劇団員は、舞台制作などを含めて9人。地元に住んでいる人がほとんどで、日中は別に仕事を持って働いています。公演も平日は午後8時から。団員も、お客さんも仕事を終えて駆けつけられる時間に設定しています。

危機はすぐに訪れました。1月に予定していた二人芝居。西藤さんが脚本を書き上げたのは本番前日の深夜でした。毎日本番をこなしながら別の演目の稽古をし、さらに脚本やキャスティングも考えることは想像以上に難しいことでした。

相手の女優は不安のあまり隠れてトイレで泣きました。でも、やるしかありません。本番は迫っています。西藤さんと2人、朝から必死で台詞を覚えました。ほかにも1回も稽古ができないまま本番を迎えた演目もありました。

人気演目「フランチャイズの犬」の一場面
人気演目「フランチャイズの犬」の一場面

2月には、直前までお客さんの姿がなく、いよいよ終了かと覚悟したり、極限状態の中、団員同士が楽屋で泣きながら意見をぶつけ合ったりしたことも。西藤さんは「毎日がドラマ。『情熱大陸』みたいな感じですよ」と人気のテレビドキュメンタリーになぞらえます。

延べ来場者は約4000人。1日平均10人ちょっとですが、毎日のように通う人も多く、中には200回を超えた人もいます。官民挙げた応援で地元の輪が広がりました。西藤さんは公民館や学校に呼ばれて芝居をすることも増えました。

毎日必死に舞台をつなぐ姿を見て「私だって何かできるはずと思うようになった」「俺は本当にがんばってるのかと自問自答する」といった声や「距離が近い。演劇がこんなに面白いと初めて知りました」という声が届いています。

実力派の東京の劇団や役者が続々と雲南市を訪れて公演しました。自分の地域でも365日公演が実現できないか、検討を始めた演劇関係者もいます。ハタチ族の挑戦が、触れあった人々の心に火を付けました。

大晦日、さらなる奇跡は起きるか

毎日本番なんてできるのか。山の中にあり、交通の便が悪い、過疎の町で演劇を見に来る客なんてそんなにいないだろう。西藤さんが逃げずに続けられるわけがないだろう…

そんな多くの予想を裏切り、たくさんの人の応援を得て、365日公演は残り3日となりました。28日には東京から学生3人が12時間車を運転して、わざわざハタチ族を見に訪れました。3人のために西藤さんは即興で一人芝居を演じました。

もう達成は目前です。奇跡と言えるかもしれません。西藤さんは最終日の大晦日、さらなる奇跡をとまたもや無謀な目標を掲げました。

大晦日にある最終公演のポスター
大晦日にある最終公演のポスター

大晦日の演目は、西藤さんが脚本を書きおろす「演劇卒業」。いつものロビーではなくチェリヴァホールの大ホールを借りています。目指すは465席の満席。

満席は普段でも難しく、かなり高いハードルです。しかも、一年最後の出かけにくい大晦日。「もう死ぬ気でやります。ここまできて、スマートになんかやりたくないんです。何とか満席にしたい」。

<追記>12月31日、達成しました。こちらもご覧ください。

前代未聞の365日連続公演、島根の「劇団ハタチ族」が達成(続報)

ハタチ族の団員たち
ハタチ族の団員たち