【熊本地震】「次の生活でお金がいるから病院は辛抱」 医療費免除の打ち切りで受診を控える被災者たち

白旗仮設団地に身を寄せる西本さん夫婦は、病院に行くのを控えている(筆者撮影)

熊本地震から2年3カ月。被災地では、昨年9月いっぱいで被災者の医療費窓口負担の全額免除が打ち切られたことに対し、復活を求める声が上がっている。被災者らは、どんな思いで、どういった生活を送っているのか。仮設住宅に足を運び、当事者らに話を聞いた。

「お金はなっだけ使わんごつ」

「次の生活が不安だけん、お金はなっだけ使わんごつしとっとです(極力使わないようにしているんです)。収入も年金しかなかし(しかないし)」

熊本県甲佐町の白旗仮設団地。入居する西本安幸さん(82歳)は、言葉を絞り出した。

白旗仮設団地の入り口には、地元の小学生が書いた応援メッセージがあった(筆者撮影)
白旗仮設団地の入り口には、地元の小学生が書いた応援メッセージがあった(筆者撮影)

同町で生まれ育った西本さんは、地元の建設会社に勤務。隣町に住んでいた妻の浪子さん(82歳)と結婚後は、町内の自宅で仲睦まじく過ごした。定年退職後は日雇いで建設現場に出つつ、自分たちが食べる分の野菜を栽培。「のんびりとした幸せな生活」(西本さん)だった。

そんな西本さんから、熊本地震は全てを奪った。自宅は全壊。解体を余儀なくされた。手塩をかけてきた畑も使えなくなった。夫婦で白旗仮設団地に引っ越し、避難生活が始まった。

昨年10月、自宅の植木を剪定(せんてい)していたところ、脚立から落下。腰を強打した。あまりの痛さに病院を受診すると、骨折が判明。医師からは「手術が必要」と告げられた。費用は、20万円以上とのことだった。

手術を諦め仮設団地へ戻った

自宅を失った西本さんは、災害公営住宅への入居を希望している。できることなら元の場所に自宅を再建したい。しかし、多額の費用がかかることから、諦めた。身を寄せる仮設住宅は、家賃が必要ない。一方、災害公営住宅に入居すると家賃が発生する。それに備え、年金が支給されるたび、少しずつ貯蓄に回していた。

西本さん夫婦が暮らす仮設住宅(筆者撮影)
西本さん夫婦が暮らす仮設住宅(筆者撮影)

貯蓄を切り崩すべきか、痛みを我慢すべきかーー。悩んだ末、病院の説得を振り切って、仮設住宅に戻ることにした。

しかしながら、痛みは次第に強くなっていった。我慢できなくなり、再度受診。「このままでは動けなくなる」との診断結果を見て、手術を決意した。2月下旬、体にメスを入れ、そのまま2カ月入院した。

以前は自転車で移動し、農作業も難なくこなすほど足腰が強かった西本さん。現在は、杖が手放せない。一歩一歩、ゆっくりと、足元を確かめながら歩く。腰の痛みは完全にはなくなっていない。それでも、将来への経済的不安から、診察は受けないと決めている。

浪子さんも、左膝の痛みに苦しむ。膝をかばってきたせいか、腰は曲がってしまった。内臓機能の低下や、両手のしびれにも悩まされる。それでも「次の生活でお金がいるから辛抱」と、病院にはかからない。「医療費免除が復活してくれたらありがたいのだけど」。

同じ仮設団地に住む孫の小都里さん(15歳)は、祖父母が心配で仕方ない。「2人とも痛いのをいつも我慢している。体調を崩した時も、家でじっと耐えている。見ているのはつらいし、大丈夫かなと不安になる」。

夕暮れの白旗仮設団地。ある被災者は筆者に「夜になると将来への不安にさいなまれる」と吐露した(筆者撮影、画像の一部を加工)
夕暮れの白旗仮設団地。ある被災者は筆者に「夜になると将来への不安にさいなまれる」と吐露した(筆者撮影、画像の一部を加工)

20%が「経済的理由で通院回数を減らす」

医療費免除は、国民健康保険と後期高齢者医療制度の加入者のうち、自宅が全半壊した被災者が対象で、国が全額を補助。補助率が下がった昨年3月以降は、県が減額分を負担していた。その後、同年9月いっぱいで打ち切られ、現在県内で継続している市町村はない。

熊本県民主医療機関連合会(県民医連)が実施したアンケートでは、仮設住宅で暮らす被災者が通院を控えている実態が明らかになった。アンケートは、昨年11月~今年1月、益城町と西原村の仮設団地5カ所で実施したもので、479世帯が回答。通院に関する質問には、うち412世帯が回答した。アンケートによると、医療費免除の打ち切り以降、83世帯(20%)が「経済的な理由で通院回数を減らす」と回答。11世帯(3%)は「通院できない」とした。

また、県民医連は昨年の11~12月、益城町の仮設団地3カ所で、1カ月あたりの医療費(世帯合計)に関する別のアンケートも実施している。これによると、約半数が1万円以上で、中には3万円を超える負担が発生しているケースもあった。67%が医療費を負担に感じており、持病をかかえている人ほど高い傾向にあった。

県民医連の井長秀典・事務局次長は「調査の中で、昨年10月以降病院を受診していないという被災者と話す機会があった。その方は目に眼帯をして痛々しい姿だったが、経済不安から行くのをためらっているとのことだった。本当に困っている被災者にとって、医療費免除の再開は一刻を争うことだ」と訴える。

「被災者が安心して次の生活を始めることが、復興」

今年4月、仮設団地の自治会長らが、被災者向け医療費免除の復活を求める団体を設立。署名活動を開始した。会長を務めるのが、白旗仮設団地自治会長の児成豊さん(64歳)だ。

白旗仮設団地自治会長の児成豊さん(筆者撮影)
白旗仮設団地自治会長の児成豊さん(筆者撮影)

「地震がもたらしたのは、将来への不安と悔しさ。被災者にとって、今は地震前よりマイナスの状態だ。白旗仮設団地でも、長引く避難生活で体調を崩す被災者が続出している。医療費免除の取りやめが、まさに命にかかわる問題となっている」

児成さんが危機感を募らせるのは、白旗仮設団地の仲間たちが次々と体調を崩しているからだ。児成さんや同仮設団地の住民によると、これまでに延べ20人以上、救急搬送患者が出たという。朝晩の見守り活動で呼びかけに応じず、ドアを壊して中に入ったところ、住民が倒れていたことも3回あった。

幸い、発見が早かったため、3人とも命は助かったというが、児成さんは「孤独死を出さないのがうちの団地の合言葉。でも、このままではいつ何が起きてもおかしくない」と危惧する。

「病院に行きたくても行けない被災者は、思いのほか多い。彼らは、限界まで我慢して、救急搬送されている。目に見える復旧も大切かもしれないが、それは復興ではない。被災者が安心して次の生活を始めることが、復興ではないか」

その上で、児成さんはこう言葉を継いだ。

「どうにかして医療費免除を復活させてほしい。被災者が安心して次のステップへと進めるよう、どうか導いてください」

児成さんたちは、集めた署名を9月に県へ提出する予定だ。