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【熊本地震】解体か修復か 町屋問題に揺れる城下町

田中森士ライター・元新聞記者
解体が進む城下町の町屋=2016年4月(くまもと新町古町復興プロジェクト提供)

熊本の城下町に残る町屋が、存続の危機に直面している。熊本地震で多くの建物が損壊し、解体が進んでいるのだ。こうした町屋の保存に取り組むのが、地震後に立ち上がった復興団体「くまもと新町古町復興プロジェクト」。「このままでは伝統的な景観が失われてしまう」と危機感をあらわにする、事務局長の吉野徹朗さん(40歳)は、景観維持のため奮闘する。

「町の魅力が失われる」と危機感を募らせる吉野事務局長=2017年4月6日撮影
「町の魅力が失われる」と危機感を募らせる吉野事務局長=2017年4月6日撮影

町屋をどうすべきか…頭をかかえる住民たち

熊本市中央区の新町・古町地区に残る町屋は、明治から戦前にかけて建てられた木造家屋。狭い間口で奥行きのある建物が道沿いに並び、かつては商人や町人らが居住していた。

大きく損傷した古町地区の町屋=2017年4月6日撮影
大きく損傷した古町地区の町屋=2017年4月6日撮影
大きく損傷した古町地区の町屋=2017年4月6日撮影
大きく損傷した古町地区の町屋=2017年4月6日撮影

同団体によると、同地区の町屋は300軒弱。しかし、その多くが熊本地震で被災した。建て直すにしても、木造家屋を敷地面積いっぱいに建築することは、法令上困難。また、所有者の高齢化も進んでおり、新たに商売を始めることは考えにくい。仮に解体した場合、駐車場やマンションなどへの転用が見込まれ、町屋の景観は失われていく。解体か修復か。住民らは皆、頭を抱えている。

町屋解体後に転用された月極め駐車場=2017年4月6日撮影
町屋解体後に転用された月極め駐車場=2017年4月6日撮影
町屋解体後に転用されたコインパーキング=2017年4月6日撮影
町屋解体後に転用されたコインパーキング=2017年4月6日撮影

所有者らが抱える問題を解決し、町屋の景観を残そうと、地震後に立ち上がったのが同団体。創設は「自然な流れ」(吉野さん)だったという。

地域コミュニティーが発災後の安全網に

吉野さんが、町屋の保存にこだわるのには理由がある。町屋が失われると地域コミュニティーが崩壊し、「災害時の安全網が失われる」との考えからだ。

町屋の被害状況を身ぶりを交え説明する吉野さん=2017年4月6日撮影
町屋の被害状況を身ぶりを交え説明する吉野さん=2017年4月6日撮影

吉野さんは十数年前、転勤で福岡から熊本へ引っ越してきた。新町・古町地区の町屋を見て、「なんだかいい町並みだな」と感じ、熊本にずっと住み続けると決めた。

吉野さんが住む五福小校区は、普段から地域活動がさかんな地域だった。自治会に商栄会、まちづくり系の組織。多くの住民が活動に参加しており、コミュニティーが形成されていた。

これらのコミュニティーは、地震直後に力を発揮した。前震翌日の2016年4月15日。吉野さんらは、避難所となっていた同小で、朝から炊き出しを行った。余震が続く中、運営は驚くほどスムーズにいった。もともとあった組織が、うまく機能したからだ。吉野さん自身も「活動の内容が違うだけで、普段と進め方は何も変わらないな」と感じた。

地震直後、小学校に避難した住民ら=2016年4月(同団体提供)
地震直後、小学校に避難した住民ら=2016年4月(同団体提供)

4月16日の本震後も、炊き出しは続いた。そして、県外からの支援が行き届き始めた数日後。近所を歩くと、痛々しい姿の町屋が目に入ってきた。その時、吉野さんの頭に不安がよぎった。「町屋の解体が進めば、住人は地域外へ転出してしまう。そうなれば、地域コミュニティーは維持できないのではないか」。その危機感から、4月20日、同団体は誕生した。

町屋の活用がコミュニティー維持につながる

団体は当初、瓦礫(がれき)の撤去や家財道具の運搬などのボランティアにあたった。その後は、町屋への関心を高める目的で、修復体験のワークショップを開催。度々東京へ出向いては、町屋が置かれた状況を伝え続けた。

瓦礫撤去のボランティアにあたる人々(同団体提供)
瓦礫撤去のボランティアにあたる人々(同団体提供)
家財道具の掘り出しのボランティアにあたる人々(同団体提供)
家財道具の掘り出しのボランティアにあたる人々(同団体提供)

全国から支援金が寄せられたり、有名アーティストが復興応援ライブを開催してくれたりと、地道な活動は徐々に実を結び始めている。

しかしながら、文化財として指定されていない町屋も多く、現状では公的補助が受けられない住民が多数を占める。とはいえ、公費解体してしまえば、「城下町の風情」は失われてしまう。

そんな中、吉野さんらが今取り組んでいるのが、町屋の新たな活用だ。町屋を修復し、飲食店や物販店、オフィスとして再生させる。それにより、地域の賑わいを創出し、観光客や意欲ある若者を呼び込む。地元住民が外から来た人々と交わることで、新たなコミュニティーも生まれる。結果、町屋が媒体となり、地域になくてはならないコミュニティーが維持される。こうしたサイクルを実現させるべく、吉野さんたちはすでに準備を進めている。

米国から届いた寄せ書きが町屋の外壁に飾られていた=2017年4月6日撮影
米国から届いた寄せ書きが町屋の外壁に飾られていた=2017年4月6日撮影

「これまでは目の前のことをやるので精一杯だった。しかしこれからは、先を見据えながら活動に取り組みたい。それが僕たちに支援してくれた全国の方々への恩返しだと思う」

吉野さんたちの挑戦は、まだ始まったばかりだ。

くまもと新町古町復興プロジェクトの活動は、同団体のFacebookページホームページで確認できる。

ライター・元新聞記者

株式会社クマベイス代表取締役CEO/ライター。熊本市出身、熊本市在住。熊本県立水俣高校で常勤講師として勤務した後、産経新聞社に入社。神戸総局、松山支局、大阪本社社会部を経て退職し、コンテンツマーケティングの会社「クマベイス」を創業した。熊本地震発生後は、執筆やイベント出演などを通し、被災地の課題を県内外に発信する。本業のマーケティング分野でもForbes JAPAN Web版、日経クロストレンドで執筆するなど積極的に情報発信しており、単著に『カルトブランディング 顧客を熱狂させる技法』(祥伝社新書)、共著に『マーケティングZEN』(日本経済新聞出版)がある。

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