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「First love 初恋」は台湾でも人気。国際フェアに見る台湾コンテンツの現在地。

田中美帆台湾ルポライター
今月13日の映画公開に合わせて台北駅構内に張り出された広告(撮影筆者)

「First love初恋」が台湾で3週連続首位

 「『First love初恋』っていう日本のドラマを観たよ。ストーリーも主題歌もよかった。観た?」

 最近、複数の台湾人の友人から、立て続けにもらったメッセージである。Netflixオリジナル作品として11月24日から配信されている同タイトルは、字幕付きで台湾でも配信されている。Netflixドラマの台湾ランキングでは、3週連続で首位、12月19日〜25日は2位につけていた。日本で12月3日に公開された映画『THE FIRST SLAM DUNK』に至っては、アニメが今も再放送される中、台湾では今月13日に正式公開を迎えた。ラッピングバスが台北市内を駆け回り、台湾の文芸雑誌『聯合文學』では特集が組まれた。封切り直後となった先週末にはチケット売り切れの会場も見られた。

 ことほどかように、台湾における日本コンテンツ人気は健在で、連日、日本コンテンツがやってきて話題となるのだが、台湾コンテンツはどうなっているのだろう。

コンテンツの大規模フェア、開かる。

 台湾では、2020年からコンテンツ輸出に向け、政府あげて予算規模を拡大し、大規模な展示会を催すようになった。

 展示会の名は「台湾クリエイティブコンテンツフェスタ」(TCCF創意內容大會)。2022年11月3日から11日間にわたって、会場となった台北の松山文創エリアで台湾や参加各国のコンテンツがさまざまにプレゼンし、IP(知的財産権)の交易会場と化した。

 2022TCCFの柱は主に4つ。大規模なプレゼンテーションを行うPITCHING(提案大會)、映画の配給会社・番組制作会社や出版社といった各種制作会社が出展ブースを設けたMARKET(內容交易市場)、クロスメディア的な応用技術のパフォーマンスが行われたINNOVATIONS(創新展演)、コンテンツ産業にかかわる関係者が議論するFORUM(國際趨勢論壇)である。

TCCFのMARKETの様子。ブースが列をなし、交渉が行われていた(撮影筆者)
TCCFのMARKETの様子。ブースが列をなし、交渉が行われていた(撮影筆者)

 11日間の開催期間中、台湾内外から159社が参加し、831件の作品が出展。PITCHINGにはのべ689人、MARKETにはのべ1万4,323人、INNOVATIONSにはのべ4万3,029人、FORUMにはのべ1,193人が参加した。TCCFの開催は3度目。今回は前月に台湾の観光が解禁されたばかりとあって、出展ブースには日本や韓国、マレーシアなどからも参加が見られた。

 会場には、日本からテレビ東京の出展ブースが置かれていた。アニメ・ビジネス本部国際事業室の陳映庄さんは、こんなふうに語る。

 「台湾は、テレビ東京で制作するドラマやバラエティ番組のいちばん大きなマーケットです。今回も大きな販売チャンスと考えて参加しました」

 『元祖!大食い王決定戦』『家、ついて行ってイイですか?』といったバラエティ番組の他、ドラマ『孤独のグルメ』は台湾も舞台になって話題を呼んだ。これら番組は、台湾のケーブルテレビ局などが買い付け、台湾のお茶の間で親しまれている。今回の会場で見かけた日本のテレビ局はテレビ東京だけだったが、台湾の各番組でNHK民放問わず、他局も見かける。

台湾コンテンツ推進への本気度。

 筆者が会場に向かった11月9日。今回のTCCFの記者会見場で全体コンセプトの説明が行われた。続いて、政府関係者が次々と挨拶に立った。1人は文化部長の李永得氏、文化内容策進院からは今年から董事長となった彭俊亨氏と李明哲院長ら、台湾政府コンテンツ推進のトップが顔をそろえた。

 台湾文化部は日本の文化庁、文化内容策進院は韓国の「文化コンテンツ振興院」といったところだ。後者は、2018年に成立した「文化内容策進院設置条例」に基づき、翌19年に設立された比較的新しい政府系組織だ。前者が主に企画への補助金を出すのに対し、後者は民間投資を喚起し、コンテンツのマーケット整備を行う。

 12月27日に行われた蔡英文総統の記者会見で、男子に義務付けられている兵役期間延長が発表され、日本メディアでも多くがこの点に注目したが、2023年の政府予算案のうち、国防14.6%に対し、教育科学文化は18.2%と予算比率は国防費よりも高い。さらに文化部への予算額は、前年比20%増の212.2億元(約955億円)で通過している。ちなみに、日本でも防衛費増税が発表されたが、それでも2022年度の補正後の予算比率からすれば、防衛費も文教及び科学振興費も4.9%で、台湾の比率とは大きく異なる。

 予算のすべてがコンテンツ推進に投下されるわけではないが、台湾が法整備を行い、専門組織を立ち上げて予算増を実行したことから見れば、コンテンツ進出の本気度は明らかだろう。

台湾コンテンツの試行錯誤

 国策として政府主導でコンテンツ産業を盛り上げた韓国では、その方針が大きく実を結び、Netflixドラマ「梨泰院クラス」や「イカゲーム」、2022年に活動休止したものの爆発的人気を誇ったBTSらK-POPアーティストの登場など、近年も凄まじい勢いを見せている。 

 台湾のコンテンツはといえば、政府の後押しなどを得て海外進出を狙ったものの、結果として成功したとは言い難い。

 たとえば同名小説をドラマ化した「天橋上的魔術師」(邦題:歩道橋の魔術師、関連記事)、歴史ドラマ「斯卡羅」(原作「傀儡花」、日本語版『フォルモサに咲く花』)、Netflixドラマ「華燈初上」(邦題:華燈初上〜夜を生きる女たち)は、3作すべて2億元(約9億円)以上という台湾ではかなり高額の制作予算を投じた。

 3作品とも台湾内では高成績を収め、うち2作品はNetflixを通じて世界配信されたが、1作は買い付けられなかったという。筆者自身、最後まで完走できなかった作品もある。

 台湾びいきかもしれないが、韓国では90年代末から足かけ20年以上にわたってコンテンツ輸出に力を入れてきたわけで、台湾は緒についたばかり。制作予算も「イカゲーム」に投じられた額が約24億円だったことを鑑みると、韓国との開きはなおも大きい。

 ここで思い出すのは、台湾が爆発的なコンテンツを生み出した過去である。2001年、日本のコミック「花より男子」を実写化したドラマ「流星花園」は、出演者たちのユニットF4はアジアで一大ムーブメントを引き起こし、その後の台湾ドラマをアイドルドラマ路線へと導いた。

 この「日本のコミックを原作としたアイドルドラマ」による成功体験は、長い間、台湾の映像制作に大きな影響を及ぼしていた。端的にいえば、このフレームワークを飛び出す作品が出てこなかった。

 そのことを示唆し、枠組みを飛び出そうという声が、他ならぬ出演者自身から出たことがある。

 2016年、台湾テレビアワード「金鐘奨」で呉慷仁が主演男優賞を受賞。その授賞式の席上、出演作の監督や制作陣への感謝を述べた後、およそ次のような発言をした。

「台湾でドラマを撮るのは楽ではありません。稼げないから、大勢が中国大陸へ行ってしまう。それも悪くないが、台湾で映像制作を続ける人たちに訴えたい。(政府の)上の方々にはより多くのリソースを求めたい。テレビ局の皆さんにはもっと多様なタイプのドラマを発掘してほしい。監督に出会えた私は運が良かったけれど、明日の撮影を待つ役者はまだまだたくさんいるのです。皆のために、多くの選択肢が必要です。役者はきっと全力を尽くします」

 これと相前後して、台湾発の小説などをベースにした、オリジナル作品が増えていった——今の台湾は、政府による環境整備が本格化し、多様な作品を生み出す土壌が整い始めたばかり。今後、台湾のコンテンツ制作に求められるものは何なのだろう。

台湾の専門家に聞く、映像コンテンツの現在地。

 「いちばん求められるのは本、脚本ですね」

 こう話すのは、2016年に始まった台湾と日本の合作作品『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』のプロデューサーとして活躍する西本有里さんだ。現在は、同シリーズ第4期の制作がスタートしているという(関連記事)。

 2022年、西本さんが勤める霹靂國際多媒體股份有限公司では、映画『素還真』を公開した。同作は、台北映画祭、金馬奨の複数の部門で高い評価を受けた他、韓国、スイス、カナダといった海外の映画祭でも入選を果たす。日々、台湾内外の作品にも触れ、リアルな制作現場で「世界と戦うために必要」と強く感じているのは脚本だという。

 原作や史実を映像化する場合、脚本、つまりストーリーテリングの良し悪しが作品を左右する。その意味では台湾作品は、視聴者の「知らない」があまり想定できておらず、物語の世界に引き込む力が強いとはいえない。史実を知りたい人ならともかく、初見かつ未知の視聴者に最後まで付き合わせるには、なかなか厳しいものがある。

 もう一つ、制作現場で感じているのは、台湾では俳優の層が薄いことだ。

 「日本の場合は、俳優の養成所、芸能事務所の育成機関、小劇場などがありますよね。今、改めて、そうした土壌から、子役も含め、映画やテレビで活躍する異なる世代のスターが生まれていたのだなと思うようになりました」

 予算、映像技術、俳優陣、技術陣、脚本……世界的なプラットフォームが席巻していく中で、良質なコンテンツを生み出すには、制作体制もまた国境を越えていくのかもしれない。

台湾コンテンツの可能性はどこに?

 では、グローバルに展開していける台湾コンテンツは何だろう。

 TCCFで展示されていたVR(仮想現実)技術をあげておきたい。ゼロイチで何かを生み出すクリエイティブではないが、1を10や100にするクリエイティブもクリエイティブのひとつだろう。平面に描かれた絵を現実に似た仮想空間として見せるには、高い技術が必要だ。言ってみれば、半導体のように、平面から仮想空間へ加工する技術を世界トップレベルに進化させれば、世界中の作品のOEMを担うことができる。

 後日、TCCF会場と同様、VR技術を体験できる高雄市の博物館「VR体感劇院」を訪ねる機会があった。そこで、ドイツのイラストレーターが作画したイラストが約20分のVRにアレンジされている作品を体験した。こうした技術が今後、コンテンツ業界に新風を吹き込み、新たなエンターテインメントが生まれるのではないか。そんな可能性を感じた。

 世界のインフラがテレビからインターネットへと取って代わる中で配信プラットフォームとどう付き合うかが問われ始めている。バジェットの移動に加えてコンプライアンスの登場とコンテンツを取り巻く状況は大波の最中にある。台湾と日本のコンテンツが世界へと大きく羽ばたく日を楽しみに待ちたい。

台湾ルポライター

1973年愛媛県生まれ。大学卒業後、出版社で編集者として勤務。2013年に退職して台湾に語学留学へ。1年で帰国する予定が、翌年うっかり台湾人と国際結婚。上阪徹のブックライター塾3期修了。2017年からYahoo!ニュースエキスパートオーサー。雑誌『& Premium』でコラム「台湾ブックナビ」を連載。2021年台湾師範大学台湾史研究所(修士課程)修了。

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