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「台湾ではタピオカドリンクが朝食」と放送 実際の台湾の朝ご飯事情は

田中美帆台湾ルポライター
台北のドリンクスタンドで買ったタピオカミルクティー。甘さ控えめ(撮影筆者)

 テレビのバラエティ番組で「台湾ではタピオカドリンクが朝の定番、1日平均3杯」と放送され、話題になった。さすがにそれはウソだろうという意見も多かったようだ。

 ツイッターを確認すると、出るわ出るわ、ツッコミが多数ヒット。5月31日の時点で関連のまとめサイトには番組に登場された当人たちの謝罪もシェアされた。台湾在住のため、この原稿を書いている時点では番組を見ていないが、衝撃的な言葉だけが拡散されている事態に、気の毒な印象を受けた。断っておくが、彼女たちを批判する意図はない。個人的には番組側のチェックの甘さも感じるし、いずれにしても、異文化がテーマになると起きがちな事例だ。

 そこで、改めてタピオカドリンクを含め、台湾での飲み物にまつわる事情や台湾の朝ご飯を知っていただくものとして、進めていく。

自販機よりもスタンド。台湾のドリンク事情

 この数日、家族親戚、仕事仲間、通学先のクラスメートに同じ質問を投げかけてみた。知り合いにタピオカドリンクを1日3杯飲んでいる人っている?と。「聞いたことない」「めっちゃ不健康だし無理でしょ」という答えばかりが返ってきた。ある調査結果によれば、タピオカミルクティーのカロリーは1杯700kcalを超える。一般に、お茶碗1膳160gのご飯のカロリーは269kcalなので、換算するとご飯2杯半以上を摂取していることになる。「1日にそんなに飲めないよ。お腹ふくれちゃう」「飲んでも週1」といった答えが返ってきた。ちなみに、ヒアリングした15人ほどのうち「1日2杯飲んだことある」が最高だった。

 また、すでにツイッターで今回の騒ぎを知っていた数人は、次のように指摘する。

 「ドリンクスタンドだと、そもそも朝から開いてないですよね」

 台湾におけるタピオカドリンクの代表的な販売場所は、街角のドリンクスタンドだ。自動販売機がどこにでもある日本と違い、台湾には自販機はない代わりにドリンクスタンドがあちこちにある。紅茶から緑茶までお茶系の飲み物のバリエーションは豊富で、おまけに氷の有無から糖度まで客が指示したものを作ってくれる。たいていが数坪程度、店舗内には飲み物を作るスペースとレジがあるくらいの広さで、客は品物を受け取ると持ち帰って飲むのが基本スタイルだ。

 こうした店舗が開くのは、おおよそ朝10時以降。学校や会社に向かう人たちはとっくに始業している時間で、そもそも朝ご飯、という時間には開いていない。タピオカドリンクをひっさげて日本にも進出した有名店や、台湾全土でチェーン展開しているドリンク店の営業時間を調べてみたが、やはり10時半、もしくは11時と表記されていた。普段からドリンクスタンドの飲み物をよく買う従姉妹に「どんな時間帯に買うことが多い?」と聞くと「仕事終わった帰り道。疲れてるからね」と笑った。

 さて出来上がった品物は、ドリンク用のプラ袋に入れて持ち運ぶのが主流だが、最近ではエコ意識の高まりでプラの代わりに持ち運び用の手提げが人気だ。

理屈はエコバッグと同じ。手提げ、ストローとプラ製品から別の素材に移行しつつある(撮影筆者)
理屈はエコバッグと同じ。手提げ、ストローとプラ製品から別の素材に移行しつつある(撮影筆者)

 この手提げ、厚手の布製のものもあれば、伸縮素材のタイプもあって、ヒアリングした人たちだけでも結構な確率で持っていた。プラごみを減らす動きが盛んな台湾にあっては、もはやメジャーなツールといっていい。余談だが、似た動きはもうひとつある。ストローだ。ステンレス製やガラス製のものがあり、掃除用の製品も開発されて、少しずつ定着してきている。いずれも、台湾の飲み物にまつわる習慣が生み出した商品だ。

 2年ほど前から、一部コンビニでもタピオカドリンクの販売が始まった。そのため、時間に制限なく買えるという意味では「朝からタピオカ」も可能性としてゼロではない。ただ、タピオカのサイズなど、好みへの細やかな対応はドリンクスタンドに軍配があるし、台湾の人たちのタピオカドリンクに対する知識を見ても、やはり番組の情報には大きな疑問符がつく。それでは台湾の人たちが朝、何を食べているのかを見ていこう。

バリエーション豊かな台湾の朝ご飯事情

朝ご飯屋さんの朝食例。この日は豆乳スープに中華クレープ、そして中華まん。これで2人前(撮影筆者)
朝ご飯屋さんの朝食例。この日は豆乳スープに中華クレープ、そして中華まん。これで2人前(撮影筆者)

 現在、通っている大学院の授業には時折、朝ご飯を携えたクラスメートたちがやってくる。手にしているのは、サンドイッチやコンビニのおにぎり、バナナなど、日本とさほど変わらない。持って来たものを食べながら仕事を始めたり、授業が始まったり、というのは、日本では顔をしかめる人もいるだろうけれど、台湾では責める人はない。

 パン食は比較的若い世代に多い、という声も耳にする。これについて50代前半の台湾人夫は、子どもの頃の朝ご飯は白がゆに付け合わせ、というのが定番だったそう。当時は母親が家で作ってもいたけれど、家の前の通りまでおかゆ屋さんが売りに歩いていたというから、台湾の朝ご飯の風景もずいぶんと変わったものだ。今では、おかゆを売りにする店舗がいくつもある。

 おかゆというと、日本では白がゆに梅干し、それに海苔とか漬物なんてあたりがシンプル定番だが、台湾のおかゆで付け合わせといえば「肉鬆(ローソン)」と呼ばれる肉でんぶだ。日本でいうならふりかけのような。それに、タマゴ蒸し、台湾風煮物、野菜炒めなど、栄養バランスもよい。

義母がある日作ったおかゆセット。この日は芋がゆ。手前は具のない茶碗蒸しといったところだが、付け合わせがあるので十分(撮影筆者)
義母がある日作ったおかゆセット。この日は芋がゆ。手前は具のない茶碗蒸しといったところだが、付け合わせがあるので十分(撮影筆者)

 台湾の食事もどんどん西洋化してきていて、「これが定番」と示すのは難しい。和食とは言い切れない日本の朝ご飯とある意味、変わらない。ただ、先ほどのおかゆ屋さんも含めて台湾は外食化が定着している、ということはいえる。

 というのも、朝の時間帯に営業する朝ご飯専門店があるのだ。早いところでは朝5時から開店し、売り切れもしくは昼過ぎに店は閉まる。こうしたお店の朝ご飯は、台湾旅行のガイドブックで紹介されることが多いので、召し上がったことのある方もいるかもしれない。

 台湾でも人気のライフスタイル誌『&Premium』(マガジンハウス)では、今年の1月号から毎号、台北の朝ご飯を紹介するコーナーができた。これまでに紹介されたのは、蛋餅(タンビン)と呼ばれる中華クレープ、燒餅(サオビン)と呼ばれる焼きパイ、飯●(ファントゥワン、●はコメ偏に団の旧字)と呼ばれる台湾風おにぎり、汁ビーフン、タロイモのサンドイッチなど。言うまでもないが、各種それぞれにバリエーションがあるし、店によって材料や味付けは個々のものだ。コーナーを担当する近藤弥生子さんに、多種多様な中からどんな基準でお店選びをしているのか伺った。

 「台湾だからこんな感じじゃない?っていうあてずっぽうではなくて、みんなが、どんなふうに朝ご飯を食べているか、台北の朝ご飯風景はどんなふうかを伝えられるように心がけています」

 確かに、筆者が普段見慣れているのは台北の朝ご飯シーンだが、都市化して手軽に、しかも片手で食べられるスタイルのものが多い。そういえば、台南に行った時、朝ご飯でサバヒーがゆを食べたことがある。朝からすごい行列で、遅いと売り切れる、といっていたのを思い出した。

台南のサバヒーがゆ専門店のおかゆ。朝から行列ができ、売り切れたら販売終了(撮影筆者)
台南のサバヒーがゆ専門店のおかゆ。朝から行列ができ、売り切れたら販売終了(撮影筆者)

ステレオタイプを持つ前に。

 今回の一件を通してわかったのは、いくら日本からの旅行者数の多い台湾といえども、いくらガイドブック数が多くて増刷されたものがあったにせよ、いくら雑誌での特集が多くて人気といわれていても、日本人はまだまだ台湾のことを知らない、ということだ。

 例の学生さんたちが、熱心にタピオカドリンクを研究していることに疑いはない。ただその、先週大いに話題になった当該の番組は、台湾でもすでに字幕付きで放送が始まっている。この回が台湾で放送されたら……と考えると台湾の人たちに申し訳ない気持ちになる。

 台湾には日本語を勉強している人が、統計上だけで約20万人以上いる。筆者の周囲にはNHKをリアルタイムで見ている人もいれば、江戸川乱歩を日本語で読む友人もいるし、プロ野球観戦に台湾から日本へと出かけていく人もいる。SMAPの解散は報道番組のテロップで速報が流れたし、先の東大入学式のスピーチは翌日には全文の中国語訳がSNSでシェアされていた。日本のドラマには、いったい字幕作業はどうしているのか不思議だが、同時放送、というタイトルだってある。

 だからこそ、台湾に対する日本人の知識の程度は際立つのだ。

 タピオカに限らない。自戒を込めて添えるなら「台湾ってこうだよね」と持ち前の知識で決めつけるシーンは、長期の台湾滞在者にだってママある話だ。ただ、そこで私たちが気をつけたいのは、私とあなたが違うように、日本人にも多種多様な人がいるように、台湾にも一言でくくれない人たちがいて、歴史があって、ライフスタイルだってそれぞれだ、ということ。だからこそ、実際にいろいろな情報にアクセスし、足を運び、自分で考えながら、豊かな台湾の姿を見てほしい。きっと、日本にはない視点が発見できるはずだから。その豊かさを確かめに、また台湾を訪れていただけるとうれしい。

台湾ルポライター

1973年愛媛県生まれ。大学卒業後、出版社で編集者として勤務。2013年に退職して台湾に語学留学へ。1年で帰国する予定が、翌年うっかり台湾人と国際結婚。上阪徹のブックライター塾3期修了。2017年からYahoo!ニュースエキスパートオーサー。雑誌『& Premium』でコラム「台湾ブックナビ」を連載。2021年台湾師範大学台湾史研究所(修士課程)修了。

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