日本にもほしい? 台湾の台風休暇の話。

(写真:アフロ)

ニュースと気象情報は専門チャンネルで

 今年は自然災害が多い。日本では地震や豪雨があり、あちこちで大きな被害が起きている。ここ台湾でも、台風も来れば地震もある。つい先日は、大雨のため台北市内で浸水被害が出た。今年は、今回の台風24号をはじめとして日本に向かう台風が多いようだ。

 台風発生とともに、メディア、特に台湾のニュースチャンネルは一斉にその動向を伝え始める。ケーブルテレビが多く、チャンネル数が優に100を上回る台湾では、チャンネルごとに主力番組が違う。終日、ニュースだけを流す局もあれば、ドラマ専門、映画専門、日本の番組専門とバラエティに富んでいる。

 ニュース専門のチャンネルは複数あり、局によって力の入れどころはそれぞれなのだけれど、どのチャンネルにも共通するのは基本的なテレビ画面の構造だ。まず驚くのはそのテロップの多さだ。メインのニュース画面とその字幕、人名や場所だけでなく、下に別のニュースが数秒ごとに映し出され、右側には占いや各地の天気予報を扱うテロップが流れ、左側にもまた違うニューステロップが流れてくる--といった具合だ。台風をはじめとした気象情報は、このニュース専門チャンネルで扱われる。

 日本の気象報道では、天気図のほか、雨雲の動き、各地の降水確率、予想雨量、気温、熱中症の危険度、あるいは台風の規模、速度や進路予想図など各種データが地図上に図示され、気象担当アナウンサーの言葉を軸に、それらの図が提供される形で報道していく。一方、台湾では、気象アナウンサーの言葉と天気図が主で、日本と比べると視覚情報、つまり図が少ない。各地の情報は画面上ではなく言語情報として提供されるケースが多い。そのため、各地の地名、気象情報にまつわる用語を中国語で理解していなければ、テレビを通じて気象情報を得るのは難易度がやや高めだ。

台湾と台風の関係

 台風情報についても、報道の仕方には日本との違いがある。それは、日本では台風は「24号」など数字で呼ばれるのが通常なのに対して、台湾では名称で報道される点だ。たとえば、9月7日に発生した台風22号は台湾では中国語の「山竹」、21日に発生した24号は「潭美」として、報道ではこの名前で伝えられる。これはテレビに限らず、ネットメディアでも同じだ。

 なお、この台風の国際名称は、2000年から日本など14カ国が参加する西太平洋または南シナ海で発生する台風防災に関する各国の政府間組織である台風委員会で、各号の名前が定められている。台湾では、それに対応して中央気象局が台風情報とともに名前を発表している。

 中央気象局の資料によると、1911年から2017年までに台湾に上陸もしくは近海を通過し、何らかの被害が出た台風は全部で365個だったという。年に3~4個の影響を受けたことになる。2000年以降のデータによれば合計104個の台風が接近もしくは上陸しており、そのうち死者、ケガ人、行方不明者も出したものも少なくない上に、停電、断水、浸水もあれば、農業漁業へは、2011年をのぞく毎年、数億円単位で被害が発生している。

安全を確保するために

 台湾の台風報道の核心といえば「台風休暇」、中国語でいう「颱風假」という特別休暇のことだ。一般にこの休みは「停班停課」という名で呼ばれることが多く、こちらは日本語にすると、休業休校、あるいは通勤通学禁止となる。

 台風発生と同時に、その進路が台湾へと向かっていることがわかると、台湾のニュース報道を担うテレビ局ではその動向が報道される。特に上陸の可能性が高まると、一気に日本の総選挙特番のように様変わりする。台風の進路、各地からの中継、被害状況やその続報などはもちろん、まずこの「台風休暇」決定が判明する予定時刻が伝えられる。

 決定者は、台北市、台南市など、各地方自治体の首長だ。

 この決定を受けて、画面には「北北基明天停班停課」、「台北市、新北市、基隆市は明日、休業休校」を表す速報のテロップが流れる。そして学校は休校、公共機関は休業、それにならう多くの民間企業でも休業となる。

 この決定についての法的根拠となるのが、正式名称を「天然災害停止上班及上課作業●法」という法律だ(●=辛+力+辛で1文字)。日本語で「自然災害休業休校措置法」が設けられたのは、1990年のこと。日本の内閣にあたる台湾の行政院で、休業休校の指示を出せる仕組みが設けられた。当初は、全国一律に適用していたという。そのため、たとえば台風上陸といっても、場所によっては大雨で警報の出る地域がある一方で、離れた地域では小雨が降る程度、といった地域差への対応が求められた。そのため、各自治体の首長が決定権を担うよう法改正が行われた。

 基本的に、重視しているのは市民の安全だ。だが最近では、休業休校の決定が遅れた、あるいは判断がよくなかった、などといって、時に自治体の首長のSNSに市民から非難の書き込みが相次ぎ、炎上へと発展する。炎上ならまだしも、中にはそのまま通常営業を続けた結果、出社した社員がケガをし、訴訟になったケースもある。

 たまたま台風に適用されるケースが多いことから俗に「台風休暇」と呼ばれるものの、法律上は台風に適用を限ったものではない。強風、水害、地震、土石流も含めた自然災害全般が視野にある。

 また、この特別休暇に対する振替をどうするかについては、現在、その地域の首長によっても考え方は異なっており、議論が続いている。

台風休暇と暮らしへの影響

 台風休暇の前後、普段の暮らしには、決まって起きる変化がいくつかある。

 一つは野菜の価格高騰だ。たとえば、最安値で1玉10元のキャベツが80元、100元へと一気に跳ね上がる。一方で、台風が与える農作物への被害も大きい時には数億元となる(1新台湾元=3.7日本円)。ただこれも台風一過で、しばらくすると価格は安定してくる。

 物流への影響に大きな打撃を受けるのが、特に台湾東部沖にある離島だ。人口5,000人ほどが暮らす蘭嶼では、台湾の海洋先住民族タオ族の人たちが生活を営み、本島とは違った文化を持つことで知られる。通常、この島では、船で物資を輸送している。そのため、波が高くなると一溜まりもない。学校の給食などもそうした物資に頼っているため、ひとたび物流経路が滞ると、途端に暮らしを直撃する。離島だけではない。台湾東部は、農業、漁業などの盛んな地域だが、同時に台風の進路でもあり、時に深刻な被害になる。

 こうした価格上昇、あるいは市場の休業などを見越してか、台湾ではインスタントラーメン、野菜、そして水が「台風休暇必需品」とされる。そのため、特にラーメンや水の買い占めが起こる。今年になって、ニュース番組や通販番組で日本の防災セットを見かける機会が増えた。あの「東京防災」の中国語版や無印良品の防災グッズがネットメディアで紹介されている。

 これら「災害が起きても対応できるように」という日本の心構えは、台湾の人たちにとって新鮮に映るようだ。反対に、日本の、台風の日にも出社する姿や、大雪の日の交通機関の混乱が伝えられるたびに、事前に回避する手立てはあるように思えてならない。「台風休暇」に見る「個人の安全」あるいは「危険の回避」という点での向き合い方は、むしろ台湾に学ぶべき点だろう。台風だけではなく、大雪や水害が起きた時に、会社や学校ではなく、まず自分の安全を優先していい、となるだけで、ずっと気が楽になるのは筆者だけだろうか。私たちヒトは、自然の大きな力を前に、抗うことなど、できるものではないはずなのだが。