アメリカで、代替肉の需要が急増しています。

昨年から今年にかけて、バーガーキングやKFC、スターバックスなど大手飲食店から、ウォルマートやホールフーズ、コストコといった大手食料品店まで、全米のレストランや小売店がこぞって、代替肉のバーガーやソーセージ、フライドチキン、タコスなどを販売し始めています。

なぜ急速に普及したのか

豆腐やテンペ(大豆発酵食品)などベジタリアン向けの肉の代用品は以前からありましたが、近年急速に代替肉が浸透したのは、本物の肉に近い味や形状の製品が開発され、肉好きな人々の支持を得るようになったためと見られます。

さらに今年に入り、蜜な状況を避けにくい肉処理工場で新型コロナウィルスの感染が広まり、肉の供給が安定しなくなったため、スーパーの空いた棚に代替肉が並ぶようになりました。これを機に認知度が高まり、需要が急増したと見られています。

代替肉とは何か

そもそも、代替肉とは何なのでしょうか。

今のところ公式な定義はありませんが、“味や形状が肉に近い食品”は大きく分けて二種類あります。

ひとつは、大豆などの植物性たんぱく質をベースに、風味や色付けのためにさまざまな植物由来の成分を添加して本物の肉に近づけた「植物由来の肉」です。

一方、牛や豚、鶏などの動物の幹細胞を培養して作る、”肉由来”の代替肉もあります。こちらは「培養肉」と呼ばれており、まだ市販されていません。現在、世界中で多くの企業が商品化の準備を進めている段階で、来年か再来年には店頭に並ぶと予想されています。

初めて培養肉が発表されたのは2013年、オランダの科学者が牛の胎児の血清を培養して作ったバーガーパテです。

当時はパテ一枚32万5千ドル(約3,400万円)と途方もなく高い値がつけられていましたが、その後多くの企業が参入して改良と低コスト化が進んでいます。

培養肉メーカーには、ビル・ゲイツなどの富豪からタイソンフーズやカーギルといった食肉大手まで多くの投資家が出資しており、潤沢な資金をもとに各社が量産化に取り組んでいます。生産コストは2018年に1kgで2~5千ドル(約21~53万円)程度、翌19年に同100~200ドル(約1~2万円)程度まで下がり、数年以内に10~20ドル(約1,200~2,100円)程度になり、市販が可能になると見られています。

沸き上がる議論

植物性代替肉の売上急増に伴い、さまざまな議論が起こってきました。

ひとつは、代替肉を「肉」、あるいは「バーガー」や「ベーコン」などと称してよいのか、という問題です。

畜産業界は、こうした用語の使用は誤認を招くとして、禁止するよう政府に働きかけています。

これを受け、近年多くの州で、畜産された肉以外の製品に肉や肉製品の名前を表記することを禁止する法律が制定されています。

ところが、代替肉の興盛以前から豆腐やセイタン(グルテンミート)などの植物性製品を「ベジバーガー」や「ビーガンソーセージ」などと称して販売していたメーカーらがこれに反発し、訴訟を起こしました。

結果、多くの州で法が改正され、「植物由来」や「肉なし」「ベジタリアン」、あるいは「培養」や「人工」などの用語を併記すれば肉・肉製品の名前が使用可能となりました。

一方、培養肉に関しては少し話が複雑です。

植物性代替肉と異なり、原料が肉の細胞ですから、肉のカテゴリに入るのではないかという意見が出てきています。電話が固定電話から携帯、スマホになり、車の運転が人から無人へと進化していくように、肉の定義も変わるべきではないかという主張もあります。

今のところ、これに対する答えは出ておらず、政府は静観していますが、培養肉が市販されたら議論が白熱するかもしれません。

連邦政府は、肉を含む農畜産物を管理する農務省と加工食品などを担当する食品医薬品局(FDA)が、共同で培養肉の生産体制や表記を監督することになっています。

代替肉は環境にやさしいのか

もうひとつの問題は、代替肉の環境負荷です。

代替肉が支持されているのは、主に肉食による環境・社会的負荷を削減できると考えられているためですが、どの程度効果があるのかが問われています。

植物性代替肉メーカーのビヨンドミート社は、肉食から植物性代替肉に切り替えることで、人体の健康、気候変動、資源枯渇、動物福祉において良い影響を与えられると主張しています。

同社が大学の研究者らと共に、バーガーパテのライフサイクルアセスメント(原料調達から廃棄まで全工程における環境影響評価)を行ったところ、牛肉よりも水使用量が99%、温室効果ガス排出量が90%、土地使用量が93%、エネルギー使用量が46%少かったと発表しています。

一方、培養肉メーカーのメンフィスミーツ社は、培養肉は本物の肉よりも土地や水の消費量、温室効果ガス排出量が90%程度少ないという研究結果があるとしながらも、培養肉の正確な環境負荷を計測するのは時期尚早としています。

国連食糧農業機関(FAO)によると、人為的に排出される温室効果ガスのうち14.5%が畜産業に由来しており、そのうち65%が肉牛・乳牛から排出されています。特に飼料の製造・加工時や、牛など反芻動物のゲップ、排泄物の貯蔵・処理工程で多く排出されています。

また、畜産のために行われる熱帯雨林の伐採や、排泄物による大気・水質汚染など、畜産にはさまざまな環境負荷が伴います。

世界的な人口増加と途上国の生活改善に伴い、肉の消費量は今後も増え続けることが予想されています。先進国の人々が率先して肉や乳製品の消費量を減らすことは、環境対策として理に適っているといえるでしょう。

家畜への抗生物質の大量投与も懸念されています。

畜産業では、成長促進や病気予防のために健康な家畜に抗生物質を投与していますが、こうした不適切な使用により、抗生物質に耐性のある細菌が世界的に増えています。そして、耐性菌が家畜を介して人に感染し、これまで治療可能だった人間の感染症が致命的な疾患になる可能性が出てきています。

世界保健機関(WHO)は不適切な投与をやめるよう勧告しており、各国政府が対策に取り組んでいます。肉を代替肉に変えることで、こうした畜産業の問題を排除できるでしょう。

安全性とヘルシーさ

代替肉の安全性やヘルシーさも問われています。

植物性代替肉の二大巨頭であるビヨンドミート社とインポッシブルフード社のバーガーパテを牛ひき肉のパテ(共に113g)と比べてみると、カロリーや脂質、たんぱく質量は同等ですが、コレステロール値は牛肉80mg程度に対して代替肉はゼロ、一方、塩分は代替肉が牛肉の4~5倍となっています。コレステロールを気にする人にとっては代替肉は健康的といえるかもしれませんが、塩分を控えたい人にとっては肉より健康的とはいえないようです。

また、上記二社のうち、インポッシブルフード社が遺伝子組み換え技術を使用していることも懸念されています。

同社は二種類の遺伝組み換え物質を使用しており、ひとつはたんぱく源となる遺伝子組み換え大豆、もうひとつはヘムという肉の色や風味を出す物質です。ヘムは、大豆の根粒からレグヘモグロビンという物質の遺伝子を抽出し、酵母に注入して培養することで生成しています。

同社は、遺伝子組み換え技術を採用することで、大豆の使用量を大幅に削減していると説明しています。当初は非遺伝子組み換え大豆を使用していたそうですが、アメリカで栽培されている大豆の90%以上が遺伝子組み換えであることや、非遺伝子組み換え大豆の栽培時の環境負荷を鑑み、遺伝子組み換えに切り替えたとしています。

レグヘモグロビンに関しては、昨年末にFDAが、着色料としてひき肉類似製品に添加することに安全性の問題はないとして販売を認可しています。

遺伝子組み換え製品の規制当局であるFDAと農務省、環境保護庁は、遺伝子組み換え製品は人間、植物、動物いずれにとっても安全と結論付けており、アメリカでは広く普及しています。

但し、遺伝子組み換え食品を避けたい人も多いため、連邦法により2022年から遺伝子組み換えである旨の表記が義務付けられることになってます。また、農務省のオーガニック認証は遺伝子組み換えを認めておらず、民間の非遺伝子組み換え認証制度もあります。

ビヨンドミート社は、非遺伝子組み換え認証を取得しています。同社のバーガーは、たんぱく源にエンドウ豆や緑豆、風味や色付けにはビーツやリンゴなどを使用しており、合成原料は使用していないと主張しています。

培養肉も遺伝子組み換え技術を用いずに生成可能ですが、使用しているか否かは企業ごとに異なります。いずれにせよ、培養肉はまだ認可も市販もされていないため、安全性やヘルシーさを検討するのは時期尚早でしょう。

代替肉の行方

世界の人口は、現在の78億人から2050年には100億人近くになると予測されています。世界資源研究所によると、その分の食糧を確保するには、カロリーベースで56%以上生産量を増やさなければなりません。一方で、気候変動の脅威が増し、炭素排出量の大幅な削減が急務となっています。両者を実現する手段のひとつとして、代替肉は有用と考えられています。

国連の気候変動に関する政府間パネルが昨年発表した報告書では、気候変動対策のひとつとして食生活の改善が挙げられています。

雑穀や豆類、果物、野菜、ナッツ、種子などの植物性食品を中心とするバランスの良い食生活にし、動物性食品を食べる際には環境に配慮した方法で生産されたものを選ぶことで、気候変動対策として大きな効果が期待できるとしています。そして、植物性代替肉や培養肉がサステナブルな食生活に移行する手段となりうるとしています。

自然災害の規模と頻度が拡大する中、環境負荷の高い肉食をこれまでと同じペースで続けることは難しくなるでしょう。

コンサルティング会社のATカーニーは、2040年までに培養肉が肉市場の35%、植物性代替肉が25%を占め、代替肉が本物の肉を上回ると予測しています。

この予測の公算は不明ですが、いずれ肉を食べることが贅沢となり、好むと好まざるとにかかわらず、代替肉を消費せざるを得ない日が来るかもしれません。そして、培養肉が市場に出る時が、菜食時代の幕開けとなるのかもしれません。