米国で電子タバコによる死者急増、背後に潜む様々な社会問題

(写真:ロイター/アフロ)

アメリカでは、今年に入ってから電子タバコの喫煙を起因とする肺疾患が急増しており、11月中旬時点で死者数42人、症例は2,200近くに上っています。

原因は現在連邦・州政府が調査中で、電子タバコの溶液に含まれる「ビタミンEアセテート」の可能性が高いとされていますが、いまだ特定はできていません。

疾病対策予防センター(CDC)は原因がわかるまですべての電子タバコ製品の使用を控えるよう推奨しており、マサチューセッツ州やサンフランシスコ市などはすべての電子タバコ製品の販売を一時的に禁止しています。

その他多くの州や市も、若者が好みやすいフルーツやミントなどのフレーバー付き電子タバコの販売を禁止しており、食品医薬品局(FDA)も同様の規制を検討しています。

CDCによると、29人の患者の肺のサンプルを検査したところ、すべての患者からビタミンEアセテートが検出されたとしています。

ビタミンEアセテートは、野菜や肉など多くの食品に含まれている成分で、サプリメントや化粧品などにも使用されています。飲食や皮膚を通して摂取しても問題ありませんが、吸入すると肺機能を妨げる可能性があるとしています。

ただし、同成分のみを原因と特定できるだけの十分な証拠はまだ得られていません。

また、ほとんどのサンプルから、マリファナ(大麻)に含まれる精神活性(いわゆる”ハイ”になる)物質「テトラヒドロカンナビノール(THC)」が検出されており、特に非公式なルートで入手したTHC入りの製品が一連の肺疾患の要因になっているのではないかとしています。

しかし、公式ルートで入手した製品やTHCが検出されなかったケースもあり、それ以外にも様々な要素が絡んでいると見られています。

この騒動から、電子タバコをめぐる複雑な問題が浮かびあがってきました。

未成年者の喫煙急増

まずひとつは、近年、未成年者の電子タバコ喫煙が急増していることです。

アメリカでは、国が定めている電子タバコの喫煙最低年齢は18歳ですが、州や自治体により異なり、21歳としているところもあります。

しかし、電子タバコ業界は明らかに未成年者をターゲットとした広告を展開し、デザインやフレーバーにも若者向けの工夫を凝らしていました。そのため、中高生の間で電子タバコの喫煙がかっこいいことと認識されるようになり、違法喫煙が急速に広まったと考えられています。

日本ではニコチンが添加された電子タバコ溶液は薬事法で医薬品とみなされるため市販されていませんが、アメリカではそのような法律がないため、ほとんどの電子タバコ溶液にニコチンが添加されています。

それを知らずに喫煙し始める若者も多く、やめたくてもやめられないニコチン依存症の未成年者が増えています。

CDCによると、現在高校生の3~4人にひとりが電子タバコを喫煙しており、肺疾患の症例では平均年齢が24歳と若く、18歳未満が14%含まれています。

政府の許可がないまま広く流通

さらに、規制当局であるFDAが電子タバコの販売を未だ許可しておらず、十分な規制がないまま製品が広く市場に出回っていることも問題視されています。

アメリカでは、2009年に「家庭内喫煙予防・タバコ規制法」が施行されるまで、電子タバコを含むタバコ製品の規制がほとんどありませんでした。

同法により、タバコの広告やマーケティングが規制されるようになりましたが、電子タバコに関しては、規制を試みた当局に対して業界が起訴し、業界に有利な判決が出たため、その後も長い間規制がなく黙認されていました。

そして2000年代半ば以降、急速に市場が拡大し、未成年者や若年層の電子タバコ喫煙が増えてきたことから、FDAは2016年に新たなルールを制定しました。

これにより初めて電子タバコの喫煙に年齢制限が課されるようになり、製造業者は当局による販売許可を取得することが義務付けられました。

販売許可を得るには、成分や構成、使用による人体への影響などの情報を提出し、健康上の問題がないことを証明する必要があります。

ただし、ルール制定時点で既に販売されていた製品は、許可取得まで引き続き販売できるという例外規定があり、許可申請期限は20年5月、その後1年以内にFDAが許可を出すことになっています。

つまり、21年5月までは、販売許可を得ていない、成分や安全性が不明な電子タバコ製品が流通してしまうということです。

ルール制定から申請期限まで4年もの開きがあるのは、業界のロビイングの結果と見られています。

当初申請期限は17年と設定されていましたが、同年FDAが申請や評価の準備に時間が必要として22年へと延期することを発表しました。これに対し、ガン協会らが訴訟を起こし、連邦地裁が20年5月と判決を下した経緯があります。

タバコより安全なのか

そもそも、タバコ規制法の施行以来、タバコに関しては人体への有害性の懸念から規制が強化されているのに、新たに電子タバコの販売を許可する必要性があるのでしょうか。

電子タバコ業界は、タバコよりも害が少なく禁煙効果があると主張しており、当局もその可能性は認めていますが、いまだ十分な証拠は出ていません。

タバコは、タバコ葉を燃焼して出る煙を吸引する喫煙具ですが、タバコ葉には様々な化学添加物が加えられています。

一方、電子タバコはニコチンや香料などが含まれた液体を加熱して出る蒸気を吸引する電子デバイスのことで、タバコ葉は含まれていません。

CDCによると、タバコの煙には7千もの有害物質が含まれており、それを吸引することで喫煙者や周りにいる人々の健康が害されますが、電子タバコの煙霧に含まれる有害物質はタバコよりは少ないとしています。

ただし、電子タバコの煙霧にも発がん性物質や肺疾患に繋がる有害物質が含まれているため、決して安全ではなく、それらの成分を吸引することによる人体への長期的影響はまだわかっていないとしています。

また、ほとんどの電子タバコ溶液にニコチンが含まれていますが、ニコチンは中毒性が高く、青年期の脳の発達や胎児の発育を妨げる有害な物質であるとしています。

一方で、電子タバコはニコチンが含まれているゆえに、ニコチンパッチやガムのように、タバコ喫煙者の禁煙補助となる可能性があると考えられています。

当局は、タバコによる健康被害を強く憂慮しているため、電子タバコがタバコ喫煙者を減らす手段となり、タバコより害が少ないのであれば、販売許可を出す意義はあると考えているようです。

しかし現実には、未成年者や若年層を中心とする、これまでタバコを吸ったことのない人による電子タバコの喫煙が急増し、逆にニコチン中毒者が増えてしまっています。

未成年者への販売規制強化

FDAはこの事態を重く受け止め、昨年から未成年者の電子タバコ喫煙防止キャンペーンを開始し、小売業者への取り締まりや認可条件の強化などの対策を行っていました。

しかし、製造業者は意に介さず、未成年者向けの製品開発やマーケティングを続けていました。

特に問題視されていたのは、未成年者が好みやすいミントやフルーツなどのフレーバー付き製品です。

当局は以前からフレーバー付き電子タバコの規制を試みていましたが、これら主力製品を守りたい業界の抵抗は激しく、実現には至っていませんでした。

そして今年9月、死者数の急増を受けてようやく、当局は業界最大手のジュール社に対し、許可なく違法にタバコより安全と主張していたとして是正措置を講じるよう警告を発しました。

同社はこれに応じて広告を自粛し、翌月にはフルーツやデザート風味の製品の販売自粛を発表しました。ミントとメンソールのフレーバーは引き続き販売していましたが、その後ミントが高校生の喫煙者に最も人気のフレーバーであるという研究結果が米国医師会の学会誌に発表され、現在はミント風味の製品も販売自粛しています。

FDAは現在フレーバー付き製品の販売禁止を検討していますが、ホワイトハウスが来年の大統領選への影響を懸念して方針を決めかねているため、いまだ保留となっています。

先に認可された加熱式タバコ

電子タバコが認可のないまま広く市場に出回っている一方で、これまで市場に出ていなかった加熱式タバコ製品に対して、FDAは今春、試験販売の許可を出しています。

加熱式タバコは、タバコ葉を加熱して出る蒸気を吸引する電子デバイスです。

日本では既に普及していますが、アメリカでは電子タバコが先に普及したため、タバコと同等とみなされる同製品に対する需要は少ないと考えられ、市場に出ていませんでした。

FDAによると、同製品の煙霧はタバコの煙に比べて有害物質が比較的少ない一方、ニコチンの量や中毒性はタバコとほぼ同等であり、ゆえに喫煙者がタバコから移行しやすい可能性があるとしています。

また、海外市場ではタバコを吸っていなかった人による加熱式タバコの利用が少ないというデータが出ているとしています。

ただし、タバコよりリスクが低い製品とは認めていないので、そのような主張をすると違法になります。

また、同製品は電子タバコと異なり、法律上タバコのカテゴリに入るため、テレビやラジオでの広告禁止やパッケージへの健康リスク表示など厳しい規制に従う必要があります。

インターネットやソーシャルネットワークでのマーケティングも厳しく監視されます。

FDAは許可を出した理由として、法規制を逸脱していないこと、健康や製品品質における特定の問題が見当たらないこと、タバコ喫煙者を減らす可能性があることなどを挙げています。

同製品を含め、タバコ関連製品はすべて安全ではないことを強調していますが、タバコと同等の厳しい規制を守り、未成年に販売しないよう適切に対処すれば、許可しない理由はないと考えているようです。

安全でない製品に販売許可を出すことに対して議論はありますが、タバコによるニコチン中毒者が既に多数存在している以上、タバコやタバコ製品の販売を禁止すれば闇市場の活性化や他の薬物への移行を招きかねず、少しでもニコチン依存を減らす可能性のある有害性の低い製品を導入する以外に策はないのでしょう。

マリファナ合法化による影響

また、電子タバコのデバイスがマリファナの吸引に利用されていることや、電子タバコに酷似したマリファナ吸引具が出回っていることも問題となっています。

アメリカでは、国としてはマリファナの使用が禁止されていますが、州ごとに法律が異なっており、近年多くの州で医療用・娯楽用のマリファナ利用が合法化されています。

娯楽用に販売されているマリファナの形状は様々ですが、そのひとつにTHCを抽出したオイルがあり、これを電子タバコのデバイスを利用して吸引する人が増えています。

合法化されている州で合法的にこれを行う分には問題ありませんが、合法化されていない州の闇市場に流れたり、合法な州でも認可されていない安い模倣品を違法で入手する人が増えています。

成分や製法が不明なこうした違法な製品が出回ったことが、肺疾患や死者の急増に繋がったと見られています。

また、THC含有量が少ないヘンプとマリファナとの混同や誤用も問題となっています。

ヘンプはTHC含有量が0.3%以下、マリファナは含有量がそれ以上の大麻草を指します。

連邦法では、マリファナは依存性が強く最も危険な薬物に分類されており栽培・販売・使用が認められていませんが、ヘンプは18年に商業用途の栽培・販売・使用が認められました。

ヘンプは、繊維やバイオ燃料、飼料などの産業用に使用されるほか、カンナビジオール(CBD)という成分が医療用途で使用されます。

FDAはCBDを含む抗てんかん薬を一点のみ承認しており、それ以外の医薬品を認可していませんが、ヘンプ合法化以降、二日酔いや痛み止め、精神安定に効くと称したCBD入りのサプリや食品、化粧品、日用品などが広く市場に出回るようになりました。

こうした未認可の製品には、CBD含有量が過多なものやゼロのもの、THCが含まれているもの、有害な成分が含まれているものなどがあることが判明しています。

FDAはこうした製品を販売する企業に警告を発していますが、FDAの認可を必要としない製品や違法性が曖昧なものも多く、取り締まりきれない状況になっています。

THCに関しては、FDAは合成THCを含む医薬品をごくわずか認可していますが、マリファナ自体を医薬品と認めていませんし、国立薬物乱用研究所は、マリファナの中毒性や精神・知能・呼吸器などの人体への有害性を指摘しています。

それでも各州で合法化が進んでいるのは、社会・経済的な効果があると考えられているからです。

経済的には税収の増加、社会的には医療面での効能や刑事司法上の効果が期待されており、蔓延する様々な社会問題のひとつの解決策となり得るのではないかと考えられています。

アメリカでは近年、オピオイドと呼ばれる強力な鎮痛薬の中毒患者や過剰摂取による死者が急増し、社会問題になっています。

医療用マリファナは主に慢性の痛みに対する鎮痛剤として使われますが、オピオイドより鎮痛効果は弱いものの中毒性が少ないため安全ではないかと考えられています。

また、マリファナ保持を理由とした逮捕件数が非常に多く、それが人種間格差や誤認逮捕に繋がっており、合法化によりこうした問題が緩和されるのではないかと考えられています。

そのため、娯楽用途の合法化に至っていない州でも、少量のマリファナ所有者の免罪や過去の犯罪記録を抹消する法案が可決しています。

さらに、国際的な麻薬カルテルや闇市場の縮小化も期待されています。

しかし、合法化された州の中には、逮捕件数は減ったものの人種間格差が依然残っていたり、栽培者が増えすぎて供給過剰となり闇市場が活性化したり、未成年の利用が増えた州もあります。摂取直後の運転により交通事故が増加するなど新たな問題も発生しています。

自由と規制

一連の肺疾患や死者数の急増は、こうしたマリファナやヘンプの合法化、電子タバコ規制の遅れなどにより生じた法規制の隙間を突いた出来事といえるでしょう。

そもそも、タバコ業界が依存性や有害性を知りながらタバコを販売し続け、多くのニコチン中毒者を生み出したことが大元の原因でしょうし、そのタバコ会社が電子・加熱式タバコブランドの多くを製造・所有していることも釈然としませんが、同業界に限らず、企業の過度な営利追求を抑制するのは難しく、特に自由を是とするアメリカでは規制強化は簡単なことではありません。

アメリカが規制を疎み自由を求める社会である以上、たとえ人々が自身を律することができず、タバコ製品や薬物、酒、銃など危険な製品に溺れても自己責任とみなすしかないのでしょう。

しかし、社会経験が少なく適切な判断をすることが難しい子供たちは大人が守るべきであり、そのための法規制は不可欠です。

電子タバコに関して、行政の対応は後手に回っていますが、少なくとも当局が子供を守るための法規制を進めていることは正しい方向性といえるでしょう。

自由を得るためには様々な犠牲が伴います。

日本でもタバコによるニコチン中毒は大きな問題ですが、アメリカの真似をせず、適切な規制の下で人々の安全を守ることのできる公正な社会を目指すべきではないでしょうか。