懸念されるアパレル労働者の安全性、欧米企業によるバングラデシュ工場の支援終了へ

(写真:ロイター/アフロ)

2013年に1,100人以上の死者を出したバングラデシュの縫製工場「ラナ・プラザ」倒壊事故から、今年で5年。事故後、欧米アパレル小売企業が同盟を結成し提携工場の査察と労働者の安全性改善支援を行ってきましたが、今年末で期限切れとなるため、今後の同国労働者の安全性が懸念されています。

同国アパレル産業による多数の犠牲者

バングラデシュは中国に次ぐ世界2位のアパレル輸出国であり、同国ではアパレルが輸出品の8割以上を占める主力産業ですが、以前から工場の安全性に問題を抱えていました。この事故以前から、建物所有者や工場管理者の手落ちが原因と見られる縫製工場の火災が相次いでおり、2012年には100人以上の死者を出す火災が起こっています。

ラナ・プラザは違法に増築され、工業利用に耐え得る構造ではありませんでした。事故前日には壁や支柱に亀裂が見られ、警察が立入禁止を命じていました。ところが、建物所有者が安全性を主張し、工場管理者は労働者に業務継続を指示。事故当日、上階にある発電機の振動により建物が崩壊し、大惨事となりました。

アパレル産業が主力の同国では、縫製工場経営者らが大きな権力を握っており、政府との癒着もあるため、政府が労働者の安全性を守るのは難しい状況にあります。

責任の所在

そこで、メディアやNPOが同国に縫製を発注している欧米企業にも責任があると非難。業界は同盟を結成して改善に乗り出しました。

ラナ・プラザ事故後に発足した同盟には、欧州企業を中心とするアコード(バングラデシュ火災・建物安全合意)と、米企業を中心とするアライアンス(バングラデシュ労働者安全同盟)があります。加盟企業は、前者がH&Mやアディダスなど206社、後者はウォルマートやギャップなど29社、提携工場数は両者合わせて2,300ほどに上ります。いずれも、提携工場を査察し、火災や建物構造の安全性に関する教育、改善のための技術・財務支援を実施。基準に準拠しない工場は契約を停止・解消し、それにより仕事を失った労働者に資金を援助する仕組みです。労働者が工場の安全性懸念に関して通報できる仕組みも構築しています。

5年間の成果

アライアンスは5年間で714工場を査察し、178工場と契約停止、428工場で改善が完了、全体として改善措置の93%が完了しているとのこと。今年末を以て同盟を解消し、2019年以降は各社が現地の組織とともに監査を継続することになっています。

アコードは、提携工場1,679のうち5年間で1,585工場を査察し、114工場と契約を解消、174工場で初期改善が完了、全体として初期改善措置の90%が完了しているとのこと。しかし未だ査察が完了していない工場が100近くあり、改善状況も十分とは言えないため、同盟は2021年まで3年の延長を発表しています。ところが、参加企業の多くが延長に同意せず、バングラデシュ国内での調整も難航しています。

延長発表後、地元業界が訴訟を起こし、今年5月に同国高裁がアコードの国内事務所を11月末で閉鎖するよう判決。アコード側は上訴しましたが、結論は来年1月後半に持ち越されることになっています。

同国商務長官は、政府の規制機関が業務を引き継ぐのでアコードはもう必要ないと主張していますが、アコード側は引き継ぎを時期尚早とし、欧米の専門家らも同国政府の監査の精度を懸念しています。

構造的な問題

労働者の搾取はバングラデシュだけの問題ではありません。アパレル生産は人手による縫製作業を伴うため、賃金の低い国へと生産拠点が移っていく構造になっています。安い金額で請け負えば労働環境の整備にまで手が回らず、安全性はもとより、労働者が貧困から抜け出すことができません。

一方、繊維産業は工業化の入口に位置する産業であり、途上国発展の鍵を握る存在でもあります。欧州もアメリカも日本も中国も、アパレル生産を足掛かりに発展を遂げました。

アコードやアライアンスがなくなり、バングラデシュ政府による監査が甘くなったとしても、先進国企業が安易に生産拠点を他国に移せば、同国の発展が危ぶまれますし、移した先でも同じことが起こり得ます。

世界中の人々が先進国に住む私たちと同じ生活水準に達するためには、先進国企業だけに責任を押し付けるのではなく、消費者である私たち自身も行動を起こす必要があるでしょう。

商品が生産される背景を知り、労働搾取が行われていないことを証明している企業の商品を購入するようになれば、生産国の人々の命の代償として先進国消費者が安い服を着るという状況は改善されていくのではないでしょうか。