乳がん検診マンモグラフィーの受診は慎重に、米医学界が弊害を懸念

(ペイレスイメージズ/アフロ)

近年、米医学界ではマンモグラフィーの効果と弊害に関する議論が活発になっています。マンモグラフィーは一定の効果があるものの、一般に考えられているほど大きな効果はなく、むしろ、過剰診断や過剰治療など弊害が多いとする研究結果が欧米で相次いで出ています。

弊害を懸念する医学論文

今月、デンマークの研究チームが米医学誌アナルズ・オブ・インターナル・メディシンに発表した論文によると、1980年から2010年までの間に乳がんと診断された女性のデータを調査したところ、マンモグラフィーを受けた人と受けなかった人で進行がんの発生件数に差はなかったことが判明。むしろ、マンモグラフィーで乳がんと診断された女性の3人にひとりは、放っておいても症状が出ない腫瘍を乳がんと過剰診断されていた可能性が高いとしています。

2014年には、カナダの研究チームが40~59歳の約9万人の女性を対象に調査したところ、マンモグラフィーを受けた人と受けなかった人で乳がん由来の死亡率に差はなく、22%が過剰診断された可能性が高いと、ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルに発表。

昨年には、米ダートマス大学の教授らがニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに論文を発表し、1975年から2012年までの間に乳がんと診断された40歳以上の女性のデータを調査したところ、マンモグラフィーの導入後、小さい腫瘍の検出件数は倍増し、大きい腫瘍の検出件数は半減、乳がん由来の死亡率は2/3に減少したが、死亡率減少の理由はマンモグラフィーの効果よりも治療方法の改善に因るところが大きく、大きい腫瘍が半減したのは、検出された小さい腫瘍が過剰診断・過剰治療された結果であり、治療すべき腫瘍の数は導入前後で変わっていないとしています。

こうした研究結果に反論する医師や医療団体は少なくなく、マンモグラフィーを受診する人が減り、助かる命が減ってしまう可能性を懸念しています。

政府機関の指針変更が議論の引き金に

議論が活発になったのは、2009年に米政府の独立機関である予防医学作業部会が、マンモグラフィーの推奨受診対象を“40歳以上・年一回”から“50~74歳・2年に一回”に引き上げたことがきっかけとされています。

昨年、同作業部会は再びガイドラインを更新。新ガイドラインでは、推奨受診対象は変わっていないものの、40代女性が受診する場合は特に効果と弊害のバランスを各人が十分検討すべきとの内容が加わりました。また、超音波やMRIなど乳腺密度が高い人向けの検査法や3Dマンモグラフィーやデジタル・トモシンセシスなどの新技術に関しては、十分な証拠がないため推奨も反対もできないとしています。

更新と同時に、マンモグラフィーの効果と弊害に関する研究結果も医学誌に発表。論文では、陰性なのに陽性の可能性が疑われる“偽陽性”のケースが若い世代で非常に多く、それに伴う不必要な生検や心的ストレスがあることを指摘。年齢問わず、害のない非進行・進行がんを乳がんと診断される過剰診断、それに伴う過剰治療などのリスクがあることも記載されています。一方、効果に関しては、50歳以上の進行がん削減効果は認められるものの、死亡率削減に関する効果は全年齢で低く、10年間マンモグラフィーを受けた女性1万人のうち救われた命は、40代では3人、50代では8人、60代では21人、70代では13人としています。

権威ある団体も追随

こうした動向を受け、マンモグラフィーの受診を強く推奨してきた米国がん協会は、2015年に受診対象を“40歳以上・年一回”から“45~54歳は年一回、55歳以上は2年に一回”に変更しています。

同協会の最高医療責任者であるオーティス・ブローリー医師は、前述のデンマークの論文を受け、「乳がん過剰診断の存在を受け入れる」と題する意見論文を同医学誌に発表。過剰診断に関する論文が多数あることを認めるものの、分析手法により比率が異なることを指摘。受診者の半数以上が過剰診断されているとする論文もあるが、15~25%とする分析が多いと記しています。

その後のメディア各社の取材に対し、同医師は、マンモグラフィーに効果があることを強調しつつ限界も認めています。現時点では検出した腫瘍がその後進行するか否かを医師が判断することは不可能とし、将来的には遺伝子検査などにより適切に判断できるようになり、過剰診断が減るだろうと語っています。NBC局の取材に対しては、「たとえ治療の必要がない人に治療することになっても、マンモグラフィーによって救える命はある」のだから、マンモグラフィーを軽視すべきでないと語っています。

恐らく、過剰診断・過剰治療は医師の間では暗黙の了解だったのでしょう。不要な手術や治療を覚悟のうえで乳がんリスクを最小限に減らすことを望むのか、乳がんリスクを覚悟のうえで不要な手術や治療を避けることを望むのか、各人が考え、答えを出すしかありません。マンモグラフィーで命が救われたと考えられているケースの中には、本来必要のない手術や治療をしただけだった可能性があるというのは受け入れ難いことですが、医療に限界がある以上、仕方ありません。少なくともこうした情報が開示され、選択肢が得られたのは望ましいことではないでしょうか。

いずれの研究結果も、マンモグラフィーの効果がないとしているわけではありません。一般に想定されているほど効果は高くないこと、弊害があること、現在の医療には限界があることを示しているのであり、これらを認識したうえで受診や手術・治療に臨むか否かを各人が判断すべきということです。

死は誰にでもいつか必ず訪れるものです。それがいつなのか、どのような形なのかは誰にもわかりません。私たちにできるのは、過度に死を恐れず、命ある限り体を大切にしながら人生を全うすることではないでしょうか。