アメリカで抗菌せっけんが販売禁止された本当の理由

(写真:アフロ)

9月初旬、米食品医薬品局(FDA)が、トリクロサンなど19種類の成分を含む抗菌せっけんの販売を禁止しました。これを受け、9月末には厚生労働省が、同じ成分を含む薬用せっけんを1年以内に代替成分に切り替えるよう国内の製造販売会社に要請しました。

そもそもこのニュース自体あまり大きく報道されなかったようですが、報じたメディアのほとんどが、FDAが抗菌石鹸の販売を禁止した理由をきちんと伝えていなかったように思います。

ほとんどのメディアは、その理由として“有効性や安全性の科学的根拠がない”ことを挙げていたようですが、重要なのは、効果がないことよりも、効果を証明できないにもかかわらずこうした製品が広く普及することにより“耐性菌を生む可能性が高い”からです。

増加する耐性菌による死亡数

耐性菌とは、抗生物質に対して耐性を持つ菌、つまり、抗生物質が効かない菌のことです。アメリカでも世界的にも、こうした抗生物質が効かないスーパー細菌が増えているうえ、それに対する新たな抗生物質の開発が進んでいないため、これまでなら適切な抗生物質を摂取すれば治っていた感染症が不治の病となりつつあります。

米疾病対策センター(CDC)によると、米国内で耐性菌による感染症で死亡した人の数は、少なくとも年2万3千人に上るとされています。アメリカでは特に、病気や事故などで入院し、病院内で耐性菌に感染して死亡するケースが増えています。しかし、十分な規制がなく、死因として院内感染が死亡証明書に記載されることが少ないため、正確な耐性菌感染による死亡者数は把握されておらず、CDCの推計は少なすぎると見られています。

総務省統計局のデータによると、死亡者数は公表されていませんが、日本でも多くの耐性菌感染例があるようですから、状況はアメリカとそれほど変わらないのかもしれません。

なぜ耐性菌が増えているのか

耐性菌が増えている理由は、必要以上に抗生物質を使い過ぎているからです。医師が不必要に抗生物質を処方していること、畜産・養鶏業者が家畜・鶏の成長を促すために抗生物質を投与していること、そして、今回FDAが禁止した抗菌せっけんやその他の抗菌製品が、効果がないにも関わらず広く普及していることなどが主な要因とされています。

FDAは、抗菌せっけんを禁止する理由として「これらの成分に長期的に晒されると、耐性菌やホルモンへの影響などの健康リスクを引き起こす可能性を示すデータがある」ためと明言しています。また、ハンドサニタイザーなど他の抗菌製品に関する調査も進めており、既に家畜への抗生物質投与の規制も強化しています。

新たな抗生物質の開発が進まない理由は、薬品会社が、短期的な摂取で治癒する抗生物質よりも、長期的な摂取(=より大きな売上)が期待できる慢性疾患の薬の開発に力を入れているためのようです。企業ですから営利を求めるのは仕方ないでしょうし、たとえ耐性菌に対する抗生物質を開発しても、使いすぎれば新たな耐性菌が出現し、イタチごっこになってしまうでしょう。

こうした事態に陥ったのは、私たちが物事の背景や長期的なリスクを考えることなく、表面的・短期的な便益を求めてきたからではないでしょうか。抗生物質に関して私たちができることは、普通のせっけんで丁寧に手洗いすることですが、抗菌製品に限らずどんな製品でも、作られた背景や使うことによる影響を考えて慎重に選ぶことが必要なのではないでしょうか。

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