なぜ今?米FDA、遺伝子組み換え食品の表示方針を発表

先日、米食品医薬品局(FDA)が遺伝子組み換えサケを認可して話題になりましたが、このニュースの陰に隠れてあまり報道されなかったものの、FDAは同時にサケ以外(植物由来)の遺伝子組み換え食品の任意表示に関するガイドラインも発表しています。

ガイドラインが制定された背景には、遺伝子組み換え食品に関する米国内のさまざまな情勢があります。

需要増で食品企業の態度一変

ひとつは、近年、非遺伝子組み換え食品の需要が急速に高まっていることです。

米国内における昨年の非遺伝子組み換え飲食品の売上は2千億ドル、2019年までに65%増加し3,300億ドルに達すると予測されています(MediaPost)。

これまで表示義務化に反対していた食品大手がこれを商機と捉え、自社製品で遺伝子組み換え原料を排除し、容器包装に非遺伝子組み換え表示をするようになっています。さらに、政府に対しても表示に関する指針を求めています(NPRなど)。

また、遺伝子組み換えが認可されている食用農作物は10品目ですが、認可されていない、つまり遺伝子組み換えであるはずのない食品に対しても”非遺伝子組み換え”と表示する企業が出現し、表示の濫用が問題になっています(WSJ)。

FDAがガイドラインを発表したのは、こうした状況を受けてのことと見られ、今後企業は適切に表示するようになると期待されます。

表示義務化をめぐる争い

もうひとつは、ここ数年、遺伝子組み換え食品の表示義務化をめぐる争いが激化していることです。

アメリカには遺伝子組み換え食品の表示義務がありませんが、義務化を求める市民団体の働きかけにより、近年多くの州で義務化をめぐる市民投票が行われています。

義務化を希望する市民は多いものの、食品・バイオ業界による巨額を投じた反対運動が功を奏し、ほとんどの州で否決されています。バーモントなどいくつかの州では可決され、来年からの施行が予定されていますが、州ごとの規制は非効率として業界側が国会での決議を要請。今年7月、”州ごとの遺伝子組み換え表示義務化は不可”とする法案が下院で可決しました。上院でもこの法案を通すべく業界は奔走していますが、法案を疑問視する議員も少なくなく、未だ結論は出ていません (ロイターなど)。

FDAが”表示は任意であって義務ではない”という姿勢を今回改めて明確に示したことで、この争いに決着がつくと見られます。

民間の認証に不利な内容

もうひとつは、アメリカでは表示義務がない代わりに、民間の非営利団体による「非遺伝子組み換え」認証が広く普及していることです。

この認証は、”ノン・ジーエムオー(NON-GMO:非遺伝子組み換え)・プロジェクト”という非営利団体が行っている取り組みで、生産工程全体を通して遺伝子組み換え原料が使用・混入されていないことを検査・認証しています。検査基準はEUの規制に準じて、偶発的混入率を0.9%未満と厳しく設定(日本は5%)。2007年に開始された比較的新しい取り組みですが、現在では数万点が認証されており、多くの食品店で認証済製品が販売されています。

認証を得た製品の容器包装には、蝶の絵柄と「NON-GMO」の文言が記載された認証マークが表示されます。

ところが、FDAはガイドラインでこの文言に対して殊更強く反対しています。

「GMO(Genetically modified Organism)」は、遺伝子組み換えを指す略称としてアメリカでごく一般的に使われている用語ですが、FDAは以下の理由により誤解が生じると指摘。

  • ”Genetically modified”は” 遺伝子が改変された”という意味であり、広義にはあらゆる遺伝子組成の変化を表すため、掛け合わせによる品種改良も含まれる。ほとんどの農作物は古来から掛け合わせが行われており、遺伝子組み換えと掛け合わせとは異なるので、この用語は望ましくない。
  • ”Organism”は生物という意味だが、ヨーグルトなど微生物を含む食品を除き、多くの食品は生物全体を含んでいない。
  • ”NON”や”Free”はゼロという意味であり、現存の検査手法では遺伝子組み換えを検出することは可能だが、遺伝子組み換え物質が完全にゼロであることを証明するのは難しい。

代わりに、以下の文言を使うよう推奨しています(一部掲載)。

  • Not genetically engineered (遺伝子操作されていない)
  • Not Bioengineered (生物工学処理された)
  • Not genetically modified through the use of modern biotechnology (現代バイオテクノロジーを活用して遺伝子を改変していない)
  • This oil is made from soybeans that were not genetically engineered (この油は遺伝子組み換えされていない大豆で作られています)

これらの用語よりもGMOの方が一般的ですし、GMOと聞いて掛け合わせが含まれると考える人はほとんどいないと思います。この言葉を強く反対する何か特別な意図があるようにも感じられますが、現在ガイドラインに対するパブリックコメント募集期間中ですから、今後出てくる反論次第で何らかの対策が取られることになるのでしょう。

今後の方向性

いずれにしても、遺伝子組み換え食品の表示に関するガイドラインが制定されたことは、市民にとっても食品企業にとっても望ましいことです。

今後表示義務化がどう展開するのかは分かりませんが、既に民間の非遺伝子組み換え認証と農務省のオーガニック認証があるのですから、表示義務化により抜け穴ができてしまうよりは、ガイドラインの制定により適切に非遺伝子組み換え食品が表示される方が、遺伝子組み換えを避けたい消費者にとって望ましい結果になるように思います。

遺伝子組み換えサケに関しては取扱を拒否する小売・飲食店が増えていますし、非遺伝子組み換え食品全体の売上も伸びているのですから、それが民意なのでしょうし、食品に関しては、企業も民意に沿って動くことになると思われます。

遺伝子組み換えの開発に携わる人や科学者は遺伝子組み換えが社会のためになると本気で考えているようですし、一方で、どれだけ安全性を訴えても食べたくないと思う消費者が多いのですから、食べたくない人が食べずに済む仕組みを構築するしかないでしょう。FDAのガイドライン制定は、そのための良い手段ではないかと思います。

遺伝子組み換え食品の論点や日本の事情に関しては、以前の記事に記載しています。